ぽろりぽろり零される言葉に・・・。










その背中を蹴り倒せ!!! 〜吐露〜










万事屋を出た神楽は、手に持っていた閃の模擬刀を定春に嗅がせて閃の行方を捜した。
途中、電気屋の前を通り過ぎた時に、ビルの一室でガス爆発があった事を知らせるニュースを目に留める。
見慣れたニュースキャスターが、数名怪我人は出たが何れも軽症である事を告げていた。
恐らく、銀時が話したビルの爆発はこれだろうと神楽は検討を付けたが、それ以上の興味を示す事無く、跨った定春の背の上できょろきょろと視線を巡らせる。
だが、漸く見慣れた少年の姿は視界の端にすら引っかかる事はなかった。



「こうなったら、定春の鼻だけが頼りネ」



頑張るヨロシと神楽が声を掛ければ、それに応えるようにわんっと定春は一声鳴く。
暫くの間、アスファルトに鼻を擦り付けるようにして歩いていた定春だったが、むくりと顔を上げると神楽を振り向きまたわんっと一声鳴いた。
どうやら、目当ての匂いを嗅ぎ取ったらしい。
小さく神楽が頷けば、その巨体は身軽に駆け出した。
走って走って辿り着いたのは一本の橋の上。
疎らに人が行き来するその上で、探し人は欄干に上半身を預けるようにして緩々と流れる川を睨んでいた。



「見つけたアルよ」



ひょいっと軽い動作で定春の背から飛び降りて、神楽は普段と変わらない口調で声を掛ける。
閃はちらりと視線を向けただけで、直ぐに水面に視線を戻してしまった。
そんな姿に小さく肩を竦めると、跳ねるような足取りで神楽は閃の隣に並ぶと同じように水面を見詰める。



「閃のパピィは、銀ちゃんと同じアルか?」



ポツリと零した言葉に、ゆるりと動く気配を察して神楽は顔を上げた。
顔を横に向ければ、同じように顔を横に向けた閃と目が合って、パチリと目を瞬かせる。



「誰かを守る為に、血を流すアルか?」



母のように慕う少年と同じ漆黒の瞳を覗き込んで、神楽はさらに問う。
その問いに、閃はぐっと眉間に皺を寄せて口唇を引き結んだ。
欄干を掴む手に力が篭ったのか、キシリと無機物が小さな悲鳴を上げる。



「流す」



搾り出された声は囁く程の音しか持たず、拾う事が出来たのは直ぐ傍に居る神楽と、そんな二人をくるりと丸い瞳に写す定春位だった。



「何時だってそうだ。何かを、誰かを守る為なら戸惑う事無くその身を盾にする。血ィ流そうが傷が増えようがお構いなしだ。くたばらなきゃ良い位にしか考えてねぇんだよ、結局。そうやって守られて誰が喜ぶ?ふざけんじゃねぇよ。そんな事しか出来ないならいっそくたばっちまえ」



吐き捨てるように言葉を綴ると閃は顔を正面に戻して俯き、額を押さえる。
小さく唸った後に、本当は分かってる・・・と、苦しげに呟いた。



「親父はそう言う風にしか出来ない事は本当は分かってる。色んなモノ失くして来たから、もう二度と失くしたくなくて足掻いてるから、そうやっちまうのも分かってる。けど・・・」
「けど、何アルか?」
「理解出来るのと、納得出来るのとは話しが別だ」



口唇を噛む閃に、神楽はうんっと頷く。
その気持ちは神楽には痛い程に理解出来る。
だからこそ、万事屋を出る時に銀時に謝れと言ったのだ。
これ程の痛みを、苦しみを味合わせるのは一人で十分だ。
閃の父では無い銀時がそんな痛みを、苦しみを閃に味合わせる権利は無い。
額を押さえたまま俯く年上の少年の姿が余りにも痛々しくて、神楽は徐に手を伸ばすと、ポフポフと軽く叩くようにしてその頭を撫でた。



「・・・折角慰めてくれてんのはありがたいけど、ものっそ情けない構図で涙出そうなんですが」
「男は情けない生き物と決ってるネ」
「言い切られて反論出来ないのがさらに切ねぇよ」



ニヤリと笑う神楽に苦笑うと、閃はやっと額を押さえていた手を下ろす。
両腕を欄干に預けて、細く長い息を吐き出した。



「親父ばっかり悪ぃ悪ぃって言ってけど・・・ちゃんと分かってんだ」



言葉と共に身体を起こして、閃は一歩足を踏み出した。
一歩、二歩と足を進ませて神楽と定春が付いて来るのを背中で感じながら、独り言のように言葉を零す。



「俺が親父を殴って家を飛び出して来たは、その日も親父が俺を庇って怪我したからだ。思ったよりも傷が深くて出血も多くて・・・青褪めて行く親父の顔色に、本当にこのまま死ぬんじゃねぇのかって恐かった。けど、結局治療が終わってみれば親父はケロっとしてやがるし、挙句の果てには俺の心配だ」



足元に転がっていた小石をコツリと蹴って、足を進めるのに合わせてコツンコツンと蹴り進む。
上手に前に転がって行く小石を、神楽は青い瞳で追った。



「分かってんだよ、親父にそうさせるのは俺が弱ぇからだって。母さんが親父のそう言うところ認めて許してんのは、母さんが親父の背中をしっかり守ってるからだ。守られるばっかじゃなくて、ちゃんと・・・同じ場所に立って親父を守ってるから・・・」



強く蹴られた小石が、カツンっと音を立てて壁にぶつかる。
二度三度転がって、ピタリと動きを止めた。
閃も足を止めて、すっかり暗くなった天を仰ぐ。



「チクショー・・・遠いなぁ・・・」



少しだけ震える声で零された言葉に、神楽も呟く。



「遠いアルねぇ・・・」



呟いて、二人並んで天を仰いだ・・・。