それは核爆弾スイッチです。










起爆スイッチオン!!!










「最初は、本当に小さいってか些細な依頼なんだよねぇ」
「でも、途中で面倒な事になるネ」



薄暗い倉庫の片隅、うず高く積まれた木箱に隠れるように座り込んで何処か上の空な会話がボソボソと交わされる。



「仕方ないアル、疫病神が居るせいヨ」
「貧乏神じゃない?」
「おぉおおぉおぉっ!!最強タッグアル!!めっさ迷惑ネ!!
「一回御祓い行った方がいいのかな・・・」
「逆さに吊るしてしばいたら出て行くと思うネ」
「いや、それ出てっちゃ駄目な物が出て行くと思うよ、魂的な何かが



こんな感じでと、新八がひらりひらりと片手を振ると、それもそうかと膝を抱えるようにして隣に座っていた神楽が頷く。
そして、はっと何かに気付いた神楽が瞳を輝かせて顔を上げた。



「銀ちゃんから出て行くから銀魂ヨ!!!」
「山田君、座布団持ってっちゃって」
「ダメアルか!?今のダメだったアルか!?」
「おぃいいぃいいぃいぃい!!!何悠長な会話交わしてんのお前等!?」
「「現実逃避」」



銀時の叫びに二人の声が綺麗にハモったかと思うと、ダダダダッ!!と連続した銃撃音が響き、身を隠していた木箱の一部がバラバラと破片となって降り注ぐ。
慌てて三人は身を寄せて首を縮めた。



「唯の猫探しだった筈ネ・・・」
「倉庫に逃げ込んだのを追い詰めたまではよかったけど、まさかヤの付く自営業の方々がお仕事中だとは・・・運が無いよね。隠れてやり過ごそうとしたのに、誰かさんがタイミング良くくしゃみするしねぇ〜」
「新八、こう言う時ははっきり言ってやるのが優しさヨ。銀ちゃんが悪いネ
「すんまっせん!!ホント、すんまっせん!!!だからそんな蔑んだ目で銀さん見ないで!!!」



銀さん泣きそうだから!!と、喚く銀時を見事にスルーして、二人は深々と溜息を吐く。
このような事態に陥ったのは、良くある猫探しの依頼が舞い込んで来た事がきっかけだ。
詳しい説明は、彼等の会話で述べられたので割愛させて頂くとして・・・。
問題は今現在の状況である。
ヤクザ者がこんな倉庫でお仕事中と言えば、人目を忍ばなければならない事。
早い話しが、薬と銃の売買交渉中であった。
そんな場面を目撃されたとなれば、彼等が取る行動は一つ。
目撃者の抹殺である。



「あーあー・・・最悪。猫逃げちゃうし、銃弾の雨は降ってくるし」
「新八ぃお腹空いたヨ〜」



コテンっと頭を肩に預けてくる神楽を、よしよしと撫でて新八は銀時を睨む。
余りの眼光の鋭さにうっと怯んだ銀時だが、あーっとやる気の無い声を上げてがしがしと髪を掻き乱すと、尻をつけて座り込んでいた姿勢から片膝を突いて軽い前傾姿勢に変えた。



「けぇりますか・・・」
「ですね」
「はいヨ」



何時も通り死んだ魚のような瞳で銀時が二人を振り返れば、コクリと頷いて同じような姿勢を取る。
銀時・神楽・新八の順で座り込んでいたのを、銀時と神楽が場所を入れ替えた。



「んじゃ、行きますか」



ダルそうに呟かれた言葉を合図に、愛用の日傘であり武器である番傘を神楽が構える。
次の瞬間。

ダダダダダダッ!!!!!

と、連続した銃撃音を響き桃色の頭が前方へ駆ける、それに続いて銀と黒が駆け出した。
目指すは、ヤクザ者の後ろにある出入り口。



「逃がすんじゃねぇ!!」
「邪魔ネ!怪我したくなかったら退くアルよ!!」



怒声と銃弾が飛び交う中、神楽は一気に距離を縮めると道を塞ぐ男達を薙ぎ払う。
眼前まで肉薄されては銃を扱う事も出来ずに、一斉に仕込み杖や匕首を抜いた。



「おーおー物騒なモン、振り回すの止めてくんねぇかなぁ!!



危ねぇから!!そう叫んで、銀時も腰から愛用の洞爺湖と彫られた木刀を抜くと、押し寄せる男達を薙ぎ払う為に大きく腕を振り抜く。
まともに木刀を受けた何人かが吹き飛ばされた。
新八も腰に差した木刀で振り下ろされる刃を受け止めて押し返すが、自らは打って出る事はせずに、あくまで身を守るだけの範囲に留める。
平均よりは腕が立つと言ってもそれは常識の範囲の事であって、下手に二人から離れれば危険だと言う事は悔しいと思いながらも理解していた。
新八が無理をすれば、確実に銀時か神楽のどちらがかが援護に回ってくるだろう。新八を守りつつ闘う事になる。
そうなれば、完全無傷でいられる保証はない。
それは嫌だった。例え掠り傷であろうと、自分の為に二人が傷付く事はあって欲しくないと新八は思う。
だからこそ、必要最低限の反撃だけで済ませる。
幸い、倉庫の出入り口はもう間近だ。
倉庫の周りにはコンテナやら何やらが山のように詰まれて、一種の迷路のようになっている。
上手くすれば相手を巻く事も可能だ。
そんな事を思って居たのが悪かったのか、一瞬の油断が生じる。
あっと思った時には遅かった。
辛うじて眼前に迫った刃を身を捩る事でギリギリで致命傷を回避する事は出来たが、完全に回避する事は不可能であった。
匕首の刃の先が、微かに頬を掠めチリッと痛みが走る。

あ、やばい。

瞬間的に新八はそう思った。
が、それは自分の身の危険に対してではなく・・・。
スゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!と、聞こえる筈のない何かが湧き上がるような音を聞いた気がして、新八は口元を引くつかせる。



「俺の」
「私の」

「奥さんに」
「マミィに」

「「何してくれんだワレェエェエェ!!!」」



カッ!!と獣二匹の瞳が見開かれた。
彼方此方でヒッ!!と息を飲む声が聞こえたと思った瞬間、それは雑巾を引き裂くような野太い悲鳴に変わる。
それの悲鳴も、獣二匹の裂帛の気合の篭った雄叫びに掻き消されつつあった。



「って、おぃいいいぃいいぃいぃ!!!やり過ぎぃいぃいいぃいぃ!!!」



落ち着けお前等ぁぁぁあああぁぁあ!!!と、ヤクザ者がおもちゃの様に宙を舞う中、新八の絶叫が響き渡った・・・。










「新ちゃん、新ちゃん大丈夫?」
「あーはいはい。大丈夫です。ホント掠っただけですから・・・」
「アイツら悪魔ヨ!!マミィのプリティフェイスに傷付けるなんてっ!!」
「まったくだっ!!」




ぎゅうぎゅうと二人で新八を抱き締めて・・・銀時に至っては、頬の傷口にこびり付く血を痛まないように舐め取りながら憤慨する。
憤慨する二人を他所に、新八がやっぱりぎゅうぎゅうと抱き締められながら深々と溜息を吐いた。
グルルル・・・ッと獣のように喉を鳴らして怒り収まらぬ様子の二人の頭を撫でながら、気絶しながらもピクピクと痙攣するヤクザ者に胸の内で両手を合わせる。



(ウチの家族が暴走してすみません・・・)



・・・と。










翌日、何某組と何某組の組員に、相当な被害が出た模様とニュースで報道される中。



「ウチの新ちゃんの顔に何傷負わせとんじゃあぁぁぁあ!!このクソ天パマダオがぁあぁぁあ!!!!!」
「ぎゃふぅうぅううぅうぅっ!!!」



お妙が万事屋に殴り込みに来て、銀時が華麗に宙を舞った事を追記して置く事にする。


「強くならないとなぁ・・・」



周りに被害を出さない為にと、新八は小さく溜息を吐いた。