苦情は受け付けません。
ってか、勘弁してやって下さい。
恐そうな人に限って子供好きって事ってよくあるよね
日中の江戸の町を、高杉晋助は自分の置かれている状況を鼻にも掛けずブラリブラリと歩いていた。
暇だったから。
それだけの単純明快な理由で編笠を被っただけの変装とも言えぬ変装で、煙管を咥えている。
見回りをしている真選組にでも出くわせば一悶着起るだろうが、それはそれで暇潰しが出来て丁度良いと位にしか思っていないのは明白だ。
茶屋にでも寄るかと、編笠を軽く押し上げて十字路を曲がった所でトンっと軽い衝撃を受ける。
何だぁ?と視線を下げれば、両手で顔を押さえて尻餅を突く子供の姿。
どうやら、角を曲がった時にぶつかったらしい。
何だ、餓鬼かと思い素通り仕掛けた高杉だったが、子供からふぇっと泣く寸前の声が漏れた事に思わず足を止めた。
ふぅっと吸い込んだ煙を吐き出して、しゃがみ込むとぬっと子供に両手を伸ばして脇の下に滑り込ませる。
そのままぐっと腕に力を込めれば、軽い子供の身体は難なく持ち上がった。
「おら、泣くんじゃねぇ」
「ふぇ・・・?」
面倒臭そうな声と急に感じた浮遊感に驚いたのか、抱き起こされた子供は大きな瞳をパチリと瞬かせて高杉を見上げる。
が、眼光の鋭い高杉に間近で顔を覗き込まれた事に子供はビクリと身体を震わせると、くしゃりと表情を崩した。
「ふぁぁぁあああぁぁあん!!」
突然泣き出された事に高杉は顔を顰めると、両脇の下に通していた手を片方抜いて、猫をぶら下げるように襟首を掴み直す。
それからもう一方の手も抜くと、その手は自分の懐へ。
何かを取り出すと、何の躊躇もなくそれをわぁわぁと大きく口を開けて泣く子供口の中に放り込んだ。
突然の事に驚いたのか、子供は反射的に口を閉じてしまう。
一瞬吐き出そうとする仕草を見せたが、舌の上でコロリと転がる物が甘い飴である事に気付いてパチパチと目を瞬かせながら口の中でコロコロと転がした。
「ったく・・・人の顔見て泣くんじゃねぇよクソ餓鬼ぃ」
失礼極まりねぇなァと顔を顰める高杉に、恐らく口の中にある飴を落とさない為なのだろう、両手で口を押さえてごめんなさい・・・とモゴモゴと謝罪を口にする。
子供の謝罪にふんっと鼻を鳴らすと、猫の仔のようにぶら下げていた子供を地面に下ろした。
きょとりと見上げて来る子供の顔に残る涙の後に、あーホント、面倒臭ぇと呟きながらも、後頭部を支え、着物の袖口でぐぃぐぃと些か乱暴な手付きで顔を拭ってやる。
子供の口からうぶぶっと間抜けな声が漏れて、高杉はくくっと喉を鳴らした。
「おら、もう・・」
「ぱちぃになにするアルかー!!!」
いいぞと顔から手を離した瞬間、甲高い子供の雄叫びと共に背中にかなりの衝撃を食らって高杉は思わずぐっと小さく呻く。
何しやがると振り返るよりも早く、小さな影が二つ高杉の脇を駆け抜けて、目の前に居た子供を攫って行った。
眉間に皺を寄せながら視線を向ければ、先程まで目の前に居た黒髪の子供を背中に庇う金茶頭の子供。
それよりさらに一歩前に出て、ふんぞり返る桃色頭の子供が居た。
「ぱちぃなかすと、わたしがゆるさないアルよ!!」
そう言い放つ桃色頭の子供の青い瞳に、やんならやんぞゴラァァアアアァ!!と言う決意がありありと見て取れて、高杉は文句を言う為に開き掛けていた口を閉じて睨みつける。
眼光が鋭くなった事に気付いたのか、金茶頭の子供が黒髪の子供を守るように桃色頭の子供に並んだ。
「ち、ちがう、よっ!かぐらちゃん、そーごくん!!」
只ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、黒髪の子供が慌てて二人の袖を引く。
不思議そうに振り返る二人に、黒髪の子供はわたわたと両手を振って説明を始めた。
「ぼくが、ころんだからたすけてくれた、のっ!ないたのは、びっくりしただけだから、おじさん、わるくないっ!!」
ねっ!!と同意を求める黒髪の子供に、背中に食らった蹴りの衝撃よりも『おじさん』と呼ばれた事の方が衝撃が大きかったのか、ずーんっと落ち込む高杉からの返事はなかった・・・。
「あー!!いたぁああぁああぁぁあぁあ!!!」
もうじき日が暮れる頃、仲良く三人手を繋いでポテポテと歩く姿を、汗だくになって駆け回っていた銀時が発見した。
丁度、十字路で別々の方向に駆け出そうとしてた土方もその声を聞き止めて慌ててUターン。
銀時の雄叫びで二人に気付いた三人も駆け寄って来る。
「ちょっ!!もぉおおぉおおぉおおぉお!!勝手に外に出たら駄目でしょうがあぁあぁあ!!」
ガシッ!!新八と神楽を抱き締めて、うりうりうりうりうりと頭に頬を摺り寄せる銀時にや〜んっと二人は身体を捩って逃げ出そうとするが、腕が弛む事はなくむぅむぅっと唸るだけしか出来ない。
その傍らでポツンっと立っていた沖田には土方が歩み寄って、ぐりぐりと頭を撫で繰り回した。
大人二人で安堵の溜息を吐いて、帰ろうとお子様達を抱き上げる。
兎に角お説教は後回し。
何処をどう駆け回ったのか泥に塗れたお子様達を風呂に入れてやらなければならないだろう。
「ん?何か甘い匂いすんだけど、何か食ってんの?」
「あめを、もらいまし、たっ!!」
銀時が新八の顔に顔を寄せてくんっと鼻を利かせれば、にへっと笑って返される。
神楽と沖田も貰ったぁ〜っと手を上げた。
「いやいやいやいや・・・。知らない人から食べ物貰っちゃ駄目だからね?危ないからね?マジで」
「しらないひとじゃないヨ」
「へ?」
カラコロと口の中で飴を転がして言う神楽に、銀時は目を瞬かせる。
記憶まで退行している三人に、今現在知り合いと呼べる人間は居ない筈だ。
「え?誰?誰に貰ったの?」
意味が分からないと言った様子の銀時に、三人は顔を見合わせるとニヒッと笑って・・・。
「「「鬼○郎(さんです・でさァ・アル)」」」
と、のたまう。
夕暮れの近付く街の何処かで、男が一人くしゃみした。
いや、余計意味分かんないからと銀時と土方は首を傾げて、兎にも角にも、明日の夜に元に戻るまで、お子様三人から決して目を離さない事を全力で誓った。
オマケ
「晋助様っ!?何処に行ってたんすか!?って、言うか何でそんなにドロドロ!?」
「あー・・・小さい獣三匹と戯れて来た・・・」
質の良い女物の着物を其処かしこ泥に塗れさせて、隠れ家に戻って来た姿に驚くまた子を尻目に、高杉は妙に満足そうな表情を浮かべていた。
気まぐれで懐に入れていた飴玉が役に立つとはと、高杉はニヤリと笑う。
翌日、駄菓子屋で派手な女物の着物を着て編笠を被った男が一人、飴玉を購入する姿が見られるのはまた別のお話し・・・。
