何となく覚えてる感覚を、今になって知ると擽ったい。
何時になったら完結するの?とか突っ込んじゃ駄目
「なぁんつうか・・・平和だなぁ」
「平和だねぇ」
縁側に腰掛けて庭で遊ぶ新八・神楽・沖田を眺めながら、土方と銀時は呟く。
今夜には元に戻れると分かって、三人は暢気な物だった。
と、言うか。
元々新八以外の二人は特に何も考えてなかっただけなのではあるが。
「ってかさぁー何でまだ此処にいんの多串くん」
「多串じゃねぇつってんだろうが。仕方ねぇだろう?近藤さんに事情説明したら『万が一の事があったら危ないからトシも付いててやれ』って言われたんだからよ」
「んな事言って、小さくなった新八眺めたいだけだろうがテメェ」
「テメェと一緒にすんじゃねぇええぇぇぇえ!!大体さっきから何だ!?視線が新八にロックオンしたままじゃねぇか!?」
「おぃいぃいいぃいいぃいい!!何さり気なく新八呼び捨てにしてんの!?ってか俺はいいの!!俺は!!新八が誘拐でもされたら大変だから見張ってるんですぅううぅぅ!!」
「家の敷地内で誘拐される訳ねぇだろうが!!どんな誘拐犯んんんん!?」
「俺ならどんな手使ってでも誘拐するわぁあぁ!!!」
「よぉし白髪頭。今からちょっと屯所に来いや」
鯉口を切る土方に、銀時は嫌ですぅっとやる気が無いからこそ余計に腹の立つ口調で丁寧に断りを入れる。
と、不意に隊服の内ポケットに仕舞われていた土方の携帯が鳴った。
ちっと舌打ちを一つ零すと着信を確認して応対に出る。
二言三言会話を交わして携帯を切ると、顔を上げた。
「おい、総悟」
「なんでさァ土方さん」
庭でボール遊びをしていた沖田を呼べば、一緒に遊んでいた二人もきょとんとした表情を浮かべながらも呼ばれた沖田と一緒に土方の元に行く。
別に二人は呼んじゃいねぇんだけどなぁと思いつつも、何だか得した気分になったのであえて何も言わない。
「今日提出するように言ってた報告書何処だ?」
「あぁ、それなら俺の私室の机の上で白紙で置いてありまさァ」
「おぃいいぃいぃい!!あれ今日の昼までに提出しろっつってただろうがぁぁぁああぁ!!」
「朝戻って書くつもりだったんでィ。気分がノれば」
「それまったく書く気なかったよな?書く気なかったよな?」
小さくなった為に片手で掴めてしまう沖田の頭をわしりと掴んで左右に揺らせば、何しやがんでィと文句が返って来る。
頭を掴む手を引き剥がそうとするが、小さくなった手では引き剥がす事は出来ない。
暫し揺らした後に手を離せば、軽く目を回したのかよろめく沖田を新八が慌てて支えた。
土方は沖田の頭を掴んだ手を何を思ったか見詰めた後、徐に新八の頭に伸ばして撫で繰り回す。
やはり小さな頭は土方の片手ですっぽりと覆われてしまった。
突然の事に、新八はただでさえ大きな瞳をくるりと大きくさせる。
「ちょぉおおぉおおおぉ!!何やってんの多串くん!?」
「あ?いやぁ・・・ホント小せぇなぁっと思って・・・」
土方の行動に慌てた銀時が素早く新八を抱き上げてささっと身を引いた事に、酷く残念そうに手を下ろした。
が、今度は神楽と沖田の頭に手を伸ばしてうりうりと撫で繰り回し始める。
「何するアルか!!このマヨラー!!」
「土方さん、セクハラですぜィ。下手すると幼児虐待でさァ」
「んだとコラァ」
離せ!触るなぁ!!と喚いて土方の手を掴みながらも、本気で引き剥がそうとしていない気配に、土方は気付かれないように口唇の端を微かに吊り上げた。
「ゴラァァァァア!!多串!!ウチの子に勝手に触んじゃねぇよ!!」
「んだよ、ケチケチすんな白髪頭」
「テメェはテメェんとこのだけ撫で回しとけ!!」
この二人は駄目!!と叫ぶと、銀時は新八同様神楽を抱き上げてしまう。
マヨがうつったらどうすんの!?と喚く銀時に、病気みたいに言うんじゃねぇ!!とすかさず土方が叫ぶ。
それぞれ片腕に座るかのように抱き上げられて、新八と神楽は顔を見合わせると呆れた視線を銀時に向けた。
「大人気ないですよ、銀さん」
「そうネ。何時も以上に大人気ないアルよ」
「うっさいわ!!オメェらも気安く頭撫でさすんじゃありません!!」
至極真剣な表情で言う銀時にはいはいと適当な相槌を返して、新八と神楽は相手にされずに拗ねているだろう大人気ない大人の頭を撫でてやる。
面白いを通り越して、気色の悪いほどご機嫌になる姿は想像するのも容易でちょっと引く。
「まぁ・・・今回は仕方ないか・・・。おいコラ総悟」
「なんでさァ」
「次はねぇぞ」
未だ沖田の頭を撫で繰り回してた手をやっと退けて、額をピンっと軽く指弾すると土方は立ち上がった。
「屯所に戻るんですか?土方さん」
「まぁな。用事済ましたら戻ってくるわ」
「はい。お仕事頑張って下さいね」
銀時の腕の中からにこりと笑う新八に目を瞬かせて、土方はおーっと何処か素っ気無く返事を返すと踵を返す。
軽く俯き加減で項を掻いているのは、照れているからか・・・。
銀時の戻ってくるな!!と言う声は完全に無視だ。
「銀さん、好い加減下ろして下さいよ」
「そうネ。下ろすヨロシ」
「あーはいはい。分かりましたよーだ」
遠くで玄関の戸が開閉する音を聞いて、はたと二人は今の状況を思い出すとパタパタと足を振って抗議する。
幾らか名残惜しそうな表情を浮かべた銀時だったが、渋々と二人を下ろした。
「銀ちゃん、お腹空いたヨ」
「あー?あぁ・・・もうこんな時間か。オメェらずっと遊んでたしな」
「僕、手伝いますよ」
昼飯すっかぁとぼやく銀時に新八が気を引くように着流しの裾を掴んで引く。
そんな幼く可愛らしい仕草に、にへらと相好を崩した。
「いんや、今の新八にはあの台所は危ねぇから銀さんに任せとけって」
「おー!銀ちゃんが珍しく頼りになるネ!!」
「本当に。何時もそうならいいのに・・・」
「銀さんは何時でも頼りになる男です!!」
なんつう事言うのオメェら!!と言いながらも、わしわしと二人の頭を撫でる。
「総一郎くんは食えねぇもんねぇよな?」
「総悟でさァ旦那ァ。まぁ、食えねぇもんはありやせんぜィ」
「へいへい、了解」
ついでとばかりにうりうりと沖田の頭も撫でて、何すっかなぁと銀時は呟きながら台所へ消えた。
「銀ちゃんもマヨラーも完璧に私達を子供扱いネ」
「まったくでさァ」
「いや、僕達思いっきり子供だからね?」
銀時と土方がそうしていたように、三人も縁側に並んで腰掛けると地面に届かない足をプラプラと揺らして口々に言い合う。
片手で撫で繰り回された為にくしゃくしゃになった髪を直し、撫でられた箇所を今度は自分達の小さな手で撫でた。
頭を撫でられる事は、まだまだ大人になりきれない自分達は今でも経験するけれど・・・。
すっぽりと頭を包み込まれるようにして撫でられる感触は久々で、何だか擽ったいなぁとこっそりとはにかんだ笑みを浮かべた。
それは、三人が元に戻るまで九時間を切った頃の事。
もうこれ以上は何も起らないと・・・思っていた。
