こう言うのって一番大事なんじゃねぇの?
注意書きはもっと大きくはっきり書いとけてんだコノヤロー!!!
「それにしても・・・どうすりゃイイってんだこりゃ・・・」
朝食も食べ終わり、腰を据えて原因解明を・・・と思った土方だったが、小さくなった身体に合わない寝巻きを着たままでは落ち着かないと妙に冷静になった新八が、銀時の手を借りてその頃着ていた着物を探しに出ているのでまだ少しの間それはお預けとなっていた。
神楽と沖田に聞いても良いのだが、この二人にまともな発言が出来る訳がないと早々に諦めている。
「新種の宇宙病ですかねィ」
「お前は当事者の癖に暢気だな、オイ」
腹が膨れたせいか、ふぁぁあっと暢気に大きな欠伸を零す沖田に、土方は頭を抱えた。
隊服の内ポケットに収めている煙草に手を伸ばしかけて、逡巡した後土方は諦めたように卓袱台の上に手を置く。
中身はどうであれ、流石に小さな子供の前で煙草を吸うのは戸惑われた。
「しっかし・・・万事屋が普段通りってのにはちょっと驚いたな」
「あー新八君があんな風になったらもっと取り乱すと思ってましたからねィ。俺も意外でさァ」
まぁ、見た瞬間には叫んでましたがねィと続けた沖田に、土方はふぅんっと気の無い返事を返す。
「お前等馬鹿アルか?銀ちゃんめっさ焦ってるヨ」
「「はっ?」」
くちゃくちゃと、何時も通り酢昆布を齧る神楽は呆れたように肩を竦める。
神楽の言葉に二人は目を瞬かせて顔を見合わせた。
どう考えても、銀時は普段通りにしか思えない。
「サド、銀ちゃんが作った玉子焼きの味覚えてるアルか?」
「そりゃ、今食ったばっかだから覚えてまさァ。普通の玉子焼きでしたぜィ」
「それが証拠ヨ」
ニヒッと笑う神楽に、沖田も土方も訳が分からず眉を顰める。
玉子焼きが普通の味である事が何の証拠になるのだと言いたげに。
そんな二人に、やれやれとでも言うように神楽は頭を振る。
「銀ちゃん、超が付く位の甘党ヨ。糖分王ネ。そんな奴の作る玉子焼きが普通の玉子焼きな筈ないアル」
「普段は甘い玉子焼きなのに、今日は普通の玉子焼きだって言いたいのか?」
「そうヨ。銀ちゃんの玉子焼き、砂糖がじゃりじゃり言う位甘いネ。でも、今日は普通だったアル。銀ちゃん、相当焦ってるヨ」
新八もそれに気付いてるネと笑う神楽に、朝食を食べてからそれまでおろおろとしてた新八が急に冷静になった事を思い出して、なるほどと土方は納得する。
自分以外の者が焦ると、逆に当事者が冷静になると言うのは意外と良くある話だ。
「神楽ちゃん、沖田さん。着替え見つかったから先に着替えましょう」
「はいヨ!」
「了解でさァ」
丁度良いタイミングで、トタトタと軽い足音を立てて戻って来た新八に気付いて神楽と沖田が立ち上がる。
こっちに置いてあるからと、手招く新八に二人は大人しく付いて行った。
代わりにのそりと現れたのは銀時だ。
相変わらず死んだ魚のような瞳をして、四方八方に跳ねる髪をがしがしと掻き回している。
「あによ?」
土方の視線に気付いたのか、面倒臭そうに銀時が問う。
「お前も一応人間だったんだなと思ってな」
「人を何だと思ってんだ瞳孔全開マヨラー星人が!!」
噛み付いてくる銀時をはいはいと言わんばかりに手を振ってあしらうと、土方は頬杖を突いて溜息を吐いた。
今朝から何度目かの溜息であるか数えるのはとっくに諦めている。
「ってか、ホントどうすんだよコレ」
「俺に言うなよなぁ。とにかく、新八達が戻って来たら話し聞くしかねぇだろうが」
「テメェがまともな事言うと原因解明出来そうに無いから止めろ」
「だから人を何だと思ってんの!?」
「迷惑の塊だろうが!!このトラブルメーカー!!」
「それはお前んとこのサドプリだろうが!!」
「違いますぅ!!総悟はトラブルメーカーじゃなくて破壊魔ですぅ!!」
「なお悪いじゃねぇか!!ウチの神楽は破壊魔通り越して破壊神ですけどね!!」
「どっちも自慢にならんわぁあぁっ!!」
まともな会話は数秒と持たず行き成り脱線所か横転までかました二人の言葉の応酬に、新八の普段よりもずっと高くなった声が割って入った。
お互い今にも掴み掛からんとしていた状態でピタリと停止した二人が声のした方に視線を向けてみれば、小さな身体にぴったりとあった袴を身に付けて腰に手を当てて仁王立ちする新八。
その後ろには、同じく新八の物と思わしき袴を身に付けた沖田と、おそらく妙の物だったと思われる紅い着物を着た神楽。
二人の瞳は暴れようとしていた大人二人を完全に馬鹿に仕切っていた。
「じゃあ、本当に心当たりはないのか?」
お子様二人に冷めた視線で見られた後、気を取り直してと言うように土方が新八に質問していた。
身体は小さくなっても、そこはやはり新八と言うべきか。
胡坐を掻く沖田や足を投げ出して座る神楽と違ってきっちりと正座をしている。
「はい、昨日は何時も通りのお泊り会でしたし・・・」
ね?と首を傾げる新八に、神楽と沖田の二人は頷く。
万事屋と真選組。そのどちらかに居るうちにこうなる原因があったとすれば、銀時や土方・・・真選組に至っては他の隊士達に何らかの異変がある筈である。
だが、銀時にも土方にも異変はないし、勿論、真選組内での異常も報告されてない。
そうなれば『十代だけのお泊り会』中に何かがあったと考えるのが妥当である。
しかし、三人は心当たりが無いと答えた。
行き成り暗礁に乗り上げて土方は小さく呻く。
新八も昨日の事を一から思い出してるのかうーんっと小さく唸る。
そしてあっと小さく声を上げて立ち上がった。
突然立ち上がった新八に何事かと視線を向ける銀時と土方を無視して、新八は台所へ飛び込んで行く。
「え?ちょっ!新八!?」
慌てた銀時が後を追えば、ちょうど台所から何かを抱えて飛び出して来た新八とぶつかった。
結構な強さでぶつかったのか新八はドスンと尻餅を突き、銀時に至っては一瞬硬直したかと思うと声も無くその場に崩れ落ちる。
何があったかは皆様のご想像にお任せします。
ちなみに、今の新八は妙の可哀想な玉子焼きの被害を受ける前まで身体が遡っているのか、のトレードマークと言うべき眼鏡は掛けていない。
「アイタタタ・・・ッ!あっ!!銀さんこれ!!これ見て下さい!!」
強かにぶつけた尻を擦りながら起き上がった新八は、蹲る銀時に気付いて肩を揺する。
まぁ、今の銀時にそれに答える余裕は皆無なのだが。
「おい、どうした?」
「あ!土方さん!!これ見て下さい!!」
何だか騒がしい事に気付いて顔を出した土方に、新八は手に持っていたソレを突き出した。
「あ、それ昨日食べた饅頭の空き箱ネ」
「本当でさァ」
新八に合わせてしゃがみ込んでいた土方の背中から、ひょこりと神楽と沖田が顔を出してあっさりと新八が突き出した物の正体を明かした。
箱としての形状ではなく角を裂いてぺったんこに潰されてはいたが、上蓋と思われる方には中々渋い感じで『まんじゅう』と印字されているので間違いは無いだろう。
「これがどうした?」
「これ!姉上がお店でお土産として貰ったんです!!宇宙土産だって!!!」
宇宙土産と言う言葉に、土方の目の色が変わる。
奪い取るように新八からそれを受け取ると、原材料等が書かれている部分に視線を走らせた。
原材料、賞味期限等に問題は無い。
だが・・・その欄の下の方に胡麻粒程の大きさで点々と並んでいた。
土方は眉間に皺を寄せて目を凝らす。
其処に書かれていたのは・・・。
☆注意書き☆
販売十周年を記念して千箱に一個、若返りの妙薬が入ってたりします(笑)
二十歳以上の方には効き目はあまりありませんが、二十歳未満の方には効いちゃったり?
丸一日で効果は切れますのでご心配なく☆\(*^0^*)/
「腹立つぅうぅううぅうううぅうぅう!!!」
バシィイイィイイッ!!!と持っていたそれを床に叩き付けると、土方はぜぇはぁっと肩で呼吸する。
突然の土方の雄叫びに、三人はきょとりと目を瞬かせた。
そんな三人にあーっと声を漏らして書かれていた文章を復唱すれば、へーっと感心した声が二人分、よかったぁっと安堵の言葉を零すのが一人分聞こえた。
「これ食べたの昨日の何時頃だ?」
「えっと・・・21時過ぎだったと思います!!」
「じゃあ、もう12時間切ったって事か・・・。この注意書きを信じるなら、今日の夜には元に戻れるだろう」
「はい!!」
「じゃあ、そんなに慌てる事ないネ」
「そう言う事ですねィ。あ、土方さん。そう言う訳だから今日は休みまさァ」
「あーはいはい」
もう好きにしてくれとひらひらと手を振れば、お子様三人はよかったねぇだとか、じゃあ今日は一日遊びますかィだとか、きゃあきゃあと楽しそうに話しながら居間へ戻って行った。
「まぁ、一件落着か・・・。って、お前何やってんだ?」
「うるっさい・・・しゃべんな・・・」
未だ蹲る銀時に土方は不思議そうに首を傾げた後、押さえている場所で何があったのか悟ったのか珍しく、同情と哀れみの混じった生温かい瞳を向けた。
