いやいやいや、これはない。ないったらない!!










状況を把握した上での発言をしないと痛い目をみる










「あ!僕上がり!!」
「新八ずるいヨ!!この眼鏡!!!
「眼鏡の癖に生意気でさァ」
「眼鏡関係ねぇえええぇぇぇえ!!!」



口唇を尖らせて文句を言う二人に律儀に突っ込みを入れて、上がりは上がりですぅっと卓袱台の上に広げていた人生ゲームの盤上の緑のコマをゴールに進めた。
ピンクと黄色のコマはまだ二回程ルーレットを回さないと上がれそうに無い。



「さすがは地味眼鏡ヨ。地味なゲームが得意アルな
「まったくでさァ。地味にコマを進めて地味にゴールしてくれやがりまさァ
「地味言うなぁぁぁぁぁぁぁああぁぁああ!!!」



勝ったのに何でこんなに屈辱的なの!?と喚く新八に、まぁまぁと怒らせた原因である二人が宥める。
もぉっと頬を膨らませながらも直ぐに機嫌を直すと、神楽の順番だとルーレットを回すように促した。
そしてそれぞれが二度ルーレットを回した所、最後に一マス分だけ数の足りなかった神楽が最下位となり少しだけ拗ねる。
それを沖田が揶揄い乱闘に発展・・・とはならず、三人は顔を見合わせると年相応のまだ幼さの残る笑顔を浮かべた。
本日は喧嘩はご法度。
何故なら、今日は『十代だけのお泊り会』なのだから。
きっかけが何だったかは誰も良くは覚えてはいないが、気付けば月に一回か二回のペースで『十代だけのお泊り会』が開催されるようになった。
新八の姉の妙も十代だが、これには参加しない。
『十代だけのお泊り会』の開催は、妙の不在が条件だった。
妙が仕事の関係で一日二日留守にする時や、仕事場の友人宅へ泊まる日などを狙って開催している。
だからと言って、妙がこれを知らない訳ではない。
知った上で、仲良くねと了承しているのである。
こう言う事に縁の薄かった三人はそうとは言わないが、この日を心待ちにしていた。

夕飯を三人で作って、騒いで、遊んで、話して、頭を突き合わせて眠る。

新八と神楽にしてみれば、銀時と沖田が入れ変わっただけの面子ではあるが、やはり同じ十代となるとまた違う。
普段は母子のような関係の二人も、この時ばかりは年の近い友人同士のそれに変わった。
沖田は沖田で、周りが自分よりもずっと年上に囲まれて育ち、現在も部下が居ると言ってもやはり年上である為、年の近い友人と呼べる者はいない。
顔にははっきりとは出さないが、沖田も楽しいのだ。
だからこそ、普段なら殴り合いにまで発展する神楽との言い合いも上手い具合に切り上げるし、険悪にならない程度にしか揶揄ったりはしない。
お泊り会の翌日以降に道でばったり会えば何時も通りになのだが、最近ではこの雰囲気が日常でもチラホラと見え隠れするようになった。
三人がお泊り会の話しを主語を抜いた状態で、ひどく楽しげに交わす間・・・。

オッサン二人(白モジャとマヨラー)は寂しげにポツーンっとしてはいるが。

ちょっと可哀想と言うか・・・ざまぁみろ☆的な感じである。
それは置いて置くとしよう。
何やかんやとしている内に時刻は十時をすでに回り、長針は半分近くまで下がっていた。
手早くゲームを片付けると、三人は揃って洗面所に向かい歯を磨く。
ゲームをしながら饅頭を食べたので、特に念入りに磨く事は忘れない。
押し合い圧し合いしながら歯を磨き、一般的な大きさの鏡の前で三人一緒に『イー』と歯を剥き出しにして磨き残しがないか確認すると、思った以上に間抜けだった表情にケタケタと声を上げて笑った。
ゲームを始める前に風呂は済ませているので、そのままわいわい言い合いながら客間に向かえば、T字になるように敷いていた布団が出迎えてくれる。
明日の朝食は何が良いかと新八が問えば、神楽と沖田が声を揃えて『玉子焼き!!』と返した。
綺麗にハモったそれにまた三人揃ってケラケラと笑う。



「電気消しますよ?」
「はいヨ」
「了解でさァ」



二人の了承から一呼吸分間を置いて電気を消して、新八も布団に転がる。
障子を透かして微かに届く月明かりで、客間の中はほんのりと青白い。
青白く染まる中で三人は声を潜めて何事か囁き合うと、時折押し殺した笑い声を上げて、暫しの間会話を楽しむと誰からともなく『おやすみ』と言い合って眠りに付いた。
そして、明日になれば何事も無く『十代だけのお泊り会』は無事に終わる。

筈だった。










ジリリーンっと鳴り響く電話の音に、普段着のままソファに転がっていた銀時はむぅっと眉を寄せた。
騒がしい音から逃れるようにゴロリと寝返りを打つが、電話は鳴り止む事はない。



「っせぇなぁ・・・」



あーもーっとのそりと起き上がると、くわんくわんっと揺れる頭を手で支えて顔を顰める。
昨夜しこたま飲んだ酒による二日酔いだと認識すると、くわんくわんがズキズキに変わって呻いた。
普段であれば新八が酔って戻って来た銀時を甲斐甲斐しく介抱してくれるのだが、昨夜は『十代だけのお泊り会』で家に戻っている上に神楽もいない。
居るのはお留守番として置いていかれた定春だけだ。
あったま痛ぇ〜と唸りながら壁に掛けた時計を見れば、何時もだったら二人がすでに万事屋に戻って来て良い時刻である。
しかしながら、万事屋に居るのは銀時と定春だけのようで、鳴り響く電話は誰に取られる事もなく、尚も鳴り響いていた。



「ったくよぉ・・・しつけぇっての・・・」



無視を決め込もうとした銀時ではあったが、何時までも切れる気配の無い電話に諦めてのたりのたりと電話に向かと受話器を取る。



「ふぁ〜い、万事屋ぎ・・・」
「銀さん!?新八です!!」
「・・・・・・・・っ!!!!!」



銀時の渋々の応答を遮って聞こえた、まさに耳を劈くような声に銀時はガツンっと頭を鈍器で殴られたような衝撃を味わって、受話器を握り締めたまましゃがみ込む。
いや、もう、二日酔いにその声量は凶器だから・・・っ!!!と、内心のたうつ。
尚も受話器の向こうで喚かれて、プチンっと銀時は切れる。



「だぁぁぁぁあ!!もっと静かに出来ねぇのか!?」



キレて怒鳴った途端、ピタリと受話器の向こう側からの喚き声は途絶えたが、自ら発した声に苦しめられる事になった。
暫しうーうーっと唸った後、気を取り直して受話器を耳に当てる。



「んで・・・どしたよ新八」
「うわぁあああぁぁぁん!!銀さん!!助けて下さい!!!」
「いや、ちょ・・・マジでもうちょい静かにって・・・何があった新八ぃいぃいいぃい!?



電話口で助けて下さいと涙声で絶叫されて、慌てない人間はいないだろう。
それが可愛い恋人の口からであれば尚更。
一瞬で二日酔いによる頭痛を吹き飛ばして、銀時は受話器に噛み付く勢いで問い返す。



「う、うぇ・・・銀さん、お願いです、直ぐに、僕の家に、来て、下さい・・・っ」
「分かった!!銀さん直ぐ行くから!!待ってろよ新八!!」



電話の向こうで本格的に泣き出した新八に、銀時は早口でそう捲くし立てると受話器を慌しく置いて居間のテーブルに投げ出していたスクーターの鍵を取る。
定春に留守番を頼む!!と叫ぶと、ガンガンと荒々しい足音を立てて階段を駆け下りた。
スクーターを引っ張り出してエンジンを掛けて走り出すまでに掛かった時間は電話を切ってから僅かに30秒。
法定速度などさらりと無視して、銀時が新八宅に到着したのはそれから7分後の事。

まさに鬱陶しい程の愛がなせる技である。

乱暴にスクーターを止めると、門を開ける時間も惜しくて常人離れした跳躍で壁を乗り越え、銀時は慌しく玄関の戸を開けた。



「新八ぃいいぃいいぃい!!!」



開けた瞬間に、広さだけはある志村宅の隅々まで届く程の声量で銀時は新八の名を呼んだ。
呼びながらブーツを脱ぎ捨て、居間の方に人の気配を感じてバタバタと廊下を走る。
漸く辿り着いた居間の障子をスパン!!と豪快に開けて飛び込んで・・・。

銀時は固まった。

えぇ、それはもうカチンっと音を立てて見事に。
銀時の目の前には、グスグスと鼻を鳴らして泣く新八。
そして、まだ眠いのかコクンコクンっと頭を上下に揺らす、神楽と沖田。
それだけなら銀時は固まる事はなかった。
三人が・・・。



通常の半分以下に縮んでいなければ。



「なんじゃこりゃあぁあぁぁぁあ!?」



銀時の腹の底からの絶叫は、今更ではあるが清々しい朝に鳴いていた雀の鳴き声を綺麗さっぱり掻き消した・・・。










「・・・ってぇと?今朝目が覚めたら縮んでたって事か?」



些か痛む頭を支えるように片手で額を押さえた土方は、未だ信じられないと言いたげな視線を向けた。
向けた視線の先で、黒い頭がブンブンっと大きく上下に振られる。
その隣では、金色に近い茶の頭と桃色の頭が争うようにして卓袱台に並べられた食事をかっ込んでいた。
正し、並んだ三つのそれぞれの頭は、通常よりも低い。
既にお気付きの方もいるだろうが・・・三人は明らかに子供化。
むしろ、幼児化していた。
年の頃は四つか五つ。
勤務時間をかなり過ぎても戻って来ない沖田を連れ戻しに来た筈なのに、何故このような事態に遭遇しなければならないのかと、土方は大きく溜息を吐いた。
ありえない、ありえなさ過ぎる。
昨日までは確かに大人とは言えないけれど、それぞれちゃんと大きかった。
これなんてマジック?ってな心境だ。



「新ちゃんかーわーうぃーうぃー」
「じゃ、ねぇだろうがコラ」



真剣に悩む隣で、新八を見詰めながらでれぇっと眦を下げる銀時に土方は容赦なく鉄拳を振り下ろす。
勢いそのままに額を卓袱台にぶつけた鈍い音がしたがこの際無視だ。



「あー・・・まぁ、詳しい話しは後にして、飯食え、飯」



殆ど食べ終わり、まだまったくの手付かずだった新八の朝食まで狙う神楽と沖田の頭を押さえながら土方がそう言えば、新八ははいっと蚊の鳴くような微かな返事を零して箸を取った。
小さくなってしまった手では普段使っている箸は大き過ぎるのか、何とも覚束無い。
神楽と沖田は早々にちゃんと箸を持つのを諦めて握り箸で握っている。



「何すんですかィ土方さん」
「そうネ、レディーの頭を気安く触んじゃねぇヨこのマヨラー」
「うっせぇコラ。人の飯まで狙うんじゃねぇっての。その小せぇ身体の何処にそんな詰め込む場所があんだ」
「まだまだ余裕ヨ!!舐めると怖いアルよ!!」
「そうでさァ。育ち盛り舐めちゃいけやせんぜィ」
「いーから!!自分の分だけ食え!!自分の分を!!」



見た目は小さくなろうとも、中身は相変わらずだと言う事に呆れるやらほっとするやら・・・ムカつくやらで土方は自分の米神の辺りがひくつのが分かった。



「覚束無い感じでご飯食べる新ちゃんもかーわーうぃーうぃー」
「テメェはちっとは焦れ!!この白髪頭ぁあぁぁあ!!!」



何時の間にか復活していた銀時に、土方はこの訳の分からない状況の苛立ちを晴らそうとするかのように、全力を込めてその脳天に肘鉄をめり込ませた。
状況を把握せずに発言すると、痛い目に合うのでご注意を・・・。