そりゃそうですねィ。










同じ空はありゃしない










巡回と言う名目で屯所を出た沖田は、相変わらず人を食ったようなぶざけたアイマスクをして公園のベンチに寝転がっていた。
陽射しはまだ強いが、ちょうど木陰の掛かるベンチはさわさわと木々を揺らす風もあって快適だ。



(こんな陽気に昼寝しねぇのは馬鹿でさァ)



思いっきり公務を放棄しながらも、さも自分が正しいと言うような台詞を胸の内で呟いて、沖田はのっそりと忍び寄って来る睡魔に身を委ねようと力を抜く。
だが、不意に感じた気配にアイマスク越しに目を開けた。
腹筋を使って幾らか状態を起こすと、右手でアイマスクを額に押し上げる。
木陰に居るとは言え、やはり急な明暗に目を瞬かせた。
視界に陽の光りを弾きながら銀色に輝くふわふわした物を見つけて、よっこらせっと沖田は完全に状態を起こす。



「旦那ァ、散歩ですかィ?」



気だるそうにベンチに下に足を下ろすと、相手の気を引く為にこれまたダルそうな声を上げた。
沖田の呼びかけに気付いて立ち止まったのは、万事屋の主・銀時だ。
死んだ魚のような目を一度瞼の裏に隠した後、おーっとこちらもダルそうな声を上げた。



「総一郎君じゃねぇの」
「総悟でさァ。こんな時間に散歩たァイイご身分ですねィ。仕事しろィ
「オメェだけには言われたくねぇよ!!明らかにサボりのオメェにだけは言われたくねぇよ!!!」
「サボリとは聞き捨てなりやせんねィ。休憩と言う名の昼寝でさァ」
「それをサボりってんだよ!!この税金泥棒がっ!!」



のらりくらりとした沖田に、普段はツッコミを入れられるポジションに居る銀時も思わず突っ込む。
つーか、用がねぇなら声掛けんなっ!!と噛み付く銀時を、まぁまぁと宥めると座りやせんかィ?とペチペチとベンチを叩いた。
あからさまに嫌そうな表情を浮かべる銀時に、またまぁまぁと言いながら徐に隊服のポケットから丸い飴玉に細い棒をぶっ刺した有名な某キャンディ取り出してプラプラと左右に揺らす。
まるで、ねこじゃらしを目の前で振られる猫のようにキラリと銀時が紅い瞳が煌いた。



「ま、ちっと位は付き合ってやっか」



しょうがねぇなぁと呟きながらも、そそくさと沖田の隣に腰掛けるとぱっと素早い動きでプラプラと揺らされていたキャンディを奪い取る。
ナイロンの包装紙を剥がす時に一度剥がされた形跡が無いかちゃんと確かめた後、ベリベリと剥がすと飴玉の部分を口に入れた。



「俺が言うのもなんですがねィ。知らない人に飴玉貰っても付いて行っちゃいけやせんぜィ旦那ァ」
「人を何歳児と思ってんの!?ってか、今時飴玉で幼児は釣れねぇかんな!?アイツ等、時代に合わせて強かになってっから!!」



説得力があるのかないのか微妙な銀時の姿に、そうですねィと気の無い返事を零すと、また隊服のポケットから自分用に一つ取り出すと自らの口の中に放り込んだ。
舌でで飴玉を転がすと、それに合わせて細い棒もクルクルと円を描く。



「あれですかィ?」
「あー?」
「メガネに糖分禁止されてんですかィ?」
「まーなー。今日だってちょっと出て来るって言ったら、財布没収されて銀玉の女神に会いに行く所か、駄菓子屋で飴一個と会う事すらできねぇんだよ」
「どんだけ尻に敷かれてんでさァ」



心底呆れたと言いたげな沖田に、あーとかうーとか小さく唸った後、でもまぁと銀時は口を開く。



「俺を心配した上での事だから可愛いもんよ」



ホント、銀さん新ちゃんに愛されちゃってますわとニタリと笑う。
そんな銀時に、沖田は肩を竦めた。



「どっちかってぇと、財布の中身の心配じゃねぇんですかィ」
「八割方銀さんもそう思ってるから、わざわざ言葉にしないでくんない?泣きたくなるから」



がっくりと肩を落とす銀時に、そいつぁすいやせんねェと謝る気のまったくない謝罪の言葉を口にすると沖田はずるずると腰を前に滑らせてベンチの背凭れの天辺部分に首の後ろを引っ掛ける。
軽く顎を上げれば、視界の半分から上を青い空が埋め尽くした。



「旦那ァ」
「あー?」
「俺にくれやせんかィ?」



何をとは言わず、沖田は舌の上の飴玉と一緒に言葉を転がす。



「だーめ」



一呼吸分の間を置いて、銀時も飴玉と一緒に言葉を転がした。
返答は分かり切っていたが、沖田はケチですねィと口唇を尖らす。



「ケチで結構ですぅ。ありゃあ誰にもあげねぇし渡さねぇよ」
「旦那のキャラじゃねぇんじゃないんですかィ。そう言うのはさァ」
「キャラじゃなくてもダーメ。どうしても欲しいってんなら、同じなの見つけなさーい」
「あー・・・その方が手っ取り早いですかねィ」



でも、同じなのありますかねィと零した所で、ガタリとベンチが鳴った。
落ちる影が濃くなった事に銀時が立ち上がった事を知ったが、沖田はちらりとも視線を動かさずにただぼんやりと視界の上半分を埋める空を眺める。



「江戸は広ぇからな。無いとは言い切れねぇんじゃねぇの?」



まぁ、頑張んなさいよと言葉を残して銀時は何時ものように何処かダルそうに歩き出した。
見送る義理も無いとばかりに、別れの挨拶もせずに沖田は銀時が立ち去るのを待つ。
と、不意に銀時がでもなぁと言ってやはり間違った名で沖田を呼んだ。
視線を向ければ、足を止める事無く銀時が空を指差す。



「同じ空はありゃしねぇよ。似た空はあってもな」



それだけを告げると、もう沖田には興味がないと言うように銀時は一度も立ち止まる事無く沖田の視界から消えた。
多分・・・いや、確実に万事屋に戻るのだろうと沖田はぼんやりと思って、再び空へ視線を戻した。
空には雲一つ無く、黒い点のような物は宇宙に飛び立つか宇宙から戻って来たか・・・はたまた空を飛んでるだけの船か。
万が一にもありえない話ではあるが、江戸からターミナルから船から一切無くなれば、あの黒い点は無くなるだろう。
雲一つ無い日であれば、同じ空に見えるかもしれない。
でも、それはそう見えるだけで決して同じ空ではなく、本当は違う空。
ただ、似ているだけでしかない。
今、沖田が瞬きをした瞬間にも、空は別の物に変わってしまっただろう。



「同じ空はありゃしねぇ・・・ですかィ」



呟いて、沖田は額の上に上げていたアイマスクを本来あるべき場所に戻してゴロリとベンチに寝転がった。
胸の内で、そりゃそうですねィとひっそりと囁いて。















後書き

ブログサイト時代に頂きました、13000打のキリリク小説です!!
銀新+沖と言う事だったんですがっ!!!新ちゃん出て居なくてすみませんil||li _| ̄|○ il||li
銀新+沖ってか、銀新←沖っぽくて・・・もう・・・ホント、自分しっかりしろやっ!!みたいな感じです、はい。
後、中途半端な感じですみません!!!
雰囲気だけでも汲み取って下されば幸いですっ!!!

奈々香様!!!
こんな物でよろしければお納め下さいっ!!
勿論、返品は年中無休で受け付けております☆