そうは見えなくてもね・・・。










坂田さん家の父子喧嘩










「こんのクソ親父がぁあぁあぁあぁあっ!!!」



ソファで寝転がってジャンプを読んでいた銀時は、怒号と共に振り下ろされる肘鉄を腹筋を最大に使って跳ね起きると、間一髪で避けた。
避けられた事でそのまま肘をソファの座面にめり込ませ掛けた閃時だったが、それよりも早く逆の手を座面に突いて回避すると前転の要領で背凭れ部分を飛び越えて音も無く向こう側に着地する。
ちっと鋭い舌打ちを零すと、中腰の中途半端な姿勢でありながら突いた片膝を基点に身体を回転させて、背凭れの上から覗く銀髪目掛けて渾身の裏拳を叩き込もうとした。
が、またしても避けられて、ギリリと奥歯を鳴らす。
ガタッと音がすると同時にぐわりと伸びて来た手を、何処かを掴まれるよりも先にさっと立ち上がって迎え撃つ。
四つの手が、ガシッ!!と音を立てて組み合った。



「おいおいおいおい、閃時君よぉ〜。行き成り父ちゃんに手加減無しの肘鉄アーンド裏拳叩き込もうとするってどう言う事かなぁ?殺る気満々だったろコラァ
殺る気満々でしたが何か?ってか、説明しねぇと分からねぇとは、終にボケたか親父



ギリギリと、ソファを挟んでの攻防。
お互い全力を出しているのか、米神に青筋が浮かんでいた。



「父ちゃん、息子に命狙われるような事した覚えはないよぉ〜。ボケじゃなくてね」



ググッと腕に力を込めて銀時が閃時を押し返しつつ軽口を叩く。



「へー?それは是非とも普段の生活態度を振り返って貰いてぇなぁ。未だに首と胴体が繋がってる事が不思議に思えっから



押し返された分を更に押し返すように閃時が腕に力を込めて、銀時の言葉を鼻で笑った。



「まぁそれは置いといて・・・。今回の理由好い加減言ってくんね?幾ら父ちゃんが温厚だつっても、そろそろ怒っちゃうよ〜?」
「とりあえず温厚の意味を辞書で引いて来いや、クルクル天然パー!!
マまで付けようねぇえぇえぇぇぇえ!?父ちゃんホント怒るよ!?怒っちゃうよ!?」
「怒ってんのは俺の方じゃボケェエエェェェェェエ!!!」



叫ぶと同時にふっと一瞬だけ力を緩めた閃時は、そのせいでぐっと前のめりになった銀時の額目掛けて渾身の力を込めた頭突きをお見舞いした。

ゴィイイイイィイィイィンッ!!!

と、とてつもなく痛そうな音が、万事屋に響き渡る。
銀時も常人に比べれば石頭ではあるが閃時はその上を行く石頭なのか、悲鳴も無く崩れ落ちた銀時と違って小さく呻いただけで、それ以上のダメージは無いようだった。



「ちょ・・・っ!!おま・・・っ!!コレ、マジで頭割れるからねっ!?」
「いっそ割れちまえ、そんな頭」



少しだけ揺れる視界を振り払う為に軽く頭を振った閃時は、額を押さえて悶絶する銀時に容赦なく吐き捨てる。
これは相当怒ってるなぁと、まだズキズキでは無くガンガン痛む頭で考える銀時だが、一体何が原因で我が家の長男が怒髪天を突く勢いで怒ってるのか分からない。
五秒だけ原因を考えてみるが、やはり心当たりが無かった。
何なんだ・・・と首を捻る銀時に、閃時は素晴らしい程の笑みを浮かべてゴキゴキと指を鳴らす。



「その顔、まだ理由が分かってねぇみてぇだなぁ・・・クソ親父」
「閃時君閃時君。とっても禍々しいオーラが出てるよ?アレ?父ちゃん死亡フラグ立ってる?」
「お望みなら・・・死亡フラグ所か墓標を立ててやらぁあぁぁっ!!!
「ちょぉおぉおぉおおぉおぉおっ!!!待て待て!!マジでシャレになんないからね!?」



何時の間に手に取ったのか、閃時は愛用の木刀をブンッと凄まじい音を立てながら振り下ろした。
一撃必殺とばかりに力の込められたそれを、銀時は咄嗟に腕を伸ばして白刃取り!!と叫んで受け止める。
再び、父子の攻防戦勃発。



「閃時、暴力は何も生み出さないよ?話し合おうよ、ね?ってか、話し進まないから
「あーそうかい。じゃあ話し進めさせてやるよ。親父、テメェ人の部屋に勝手に忍び込みやがったな?」
「え?それだけでこの仕打ち?酷くね?コレ酷くね?思春期は難しいな!おいっ!!」
「この際、忍び込んだのは別に構わねぇんだよ!!問題はその後だ!その後!!」
「父ちゃん何かしたっけ?別にオメェの部屋のモン持ち出したりしてねぇよ?」
「逆だ!逆っ!!親父が俺の部屋にとんでもねぇモン置いて行きやがったんだろうが!!」



はて、何の事やらと惚けようとすれば、それを察した閃時の腕に力が篭り拳一つ分で止められていた木刀が拳半分程に距離を縮める。



「あーアレか・・・。やだねぇ、その位で目くじら立てちゃって。あ、もしかして使っちゃった?大丈夫だ、父ちゃんも同じ男だから理解はするぞ」
「いらねぇええぇえぇぇえっ!!そんな理解いらねぇえぇえぇえぇえっ!!ついでに使ってねぇからな!?ってか、普通息子の部屋にエロ本隠すか!?
「ばっか、恥ずかしく買えないだろう思春期の息子へ、自ら身代わりになって買ってやった父親からのプレゼントじゃねぇか」
でっけぇお世話じゃボケカスゴラァァァアァア!!表紙からして親父の趣味だろうが!?知りたかねぇんだよ!!親父の趣味なんざっ!!」
「あ、ヒデェ・・・父ちゃんの趣味否定すんなよなぁ。むしろ共有しようよ。これで父子の絆が深まるよぉ?」
「今すぐ断ち切らせろ、そんな絆」



すでに指一本分までに迫る木刀に、さてどうしたもんかと内心焦る銀時に、救いの手が伸ばされたのはそんな時だ。
スパンッ!!小気味良い音にギリギリと攻防を続けながら二人が視線を向ければ、其処にはにっこりと微笑を浮かべる新八の姿。
正し。

暗雲と般若をバックに従えて。

あ、終わった。と唐突に思ったのはどちらなのかは明白で・・・。



「閃時」
「はい」
「今日は姉上の所に泊まりに行ってくれる?蓮華は公園でお友達と遊んでるから迎えに行ってあげてね」
「オッケー我が命に代えても」



静かな声で言葉を綴る新八に、閃時は素早く振り下ろしていた木刀引くと、猫のような軽い身のこなしで新八の脇をすり抜けて行く。
ちらりと背後に投げた視線の先で、凄いを通り越して笑える程に真っ青になった銀時の表情に米粒一つ分位の同情をして、足早に万事屋を抜け出した。
そっと閉じた玄関の戸に向き直して、閃時は・・・。

成仏しろよ、親父。

と、合掌すると階段を使う時間すら惜しんで、手摺に手を掛けるとひらりと目の前の通りに飛び降りた。
着地すると同時に聞こえた断末魔の悲鳴は聞かなかった事にして。



本日も坂田さん家は平和・・・です?