自分で覚えてない過去を人に話されるととんでもなく恥ずかしいよねって話。 番外編
「そう言えば坂本。先程言っていたかくれんぼでは何があったのだ?」
手酌で日本酒を一升瓶から直接グラスに注いでいた桂が、ふと思い出しのか首を傾げつつ問う。
此処で閃時の静止の言葉が飛んで来ないのは、叫び過ぎた為か完全に燃え尽きて現実逃避の為に睡魔を無理矢理捕獲した為だ。
悪い夢でも見ているのか、うぅ・・・っと時折呻いている。
ちなみに、未だ拘束は解かれていない。
「おー興味あるがかー?」
「俺は真選組に追い掛けられるのでな。あの頃の閃時君とはあまり遊んだ事がないのだ」
その代わり、定期的に顔だけは見に来れていたがと笑う桂に、いや、それも可笑しいだろうと突っ込むべき役割を背負う閃時がいないので、それもそうじゃのーと坂本は頷く。
チラリと高杉に視線を向ければ、逆に視線で話しを促された。
銀時はと言えば、ニヤニヤと笑うだけで止める気はさらさら無いようだ・・・と、言うか。
閃時が現実逃避をかました原因を作り上げた人間が止める筈が無い。
「ありゃー宇宙での商いが一段落して地球に戻って来て、何時ものように金時の所に顔出しに行った時だったろー」
「金時じゃなくて銀時だつってんだろうが!!」
「話の腰折るんじゃねェよ銀時ィ」
「アイタッ!!蹴るんじゃねぇよ馬鹿杉!!」
「やんのかァ?あァ?」
「・・・待った方がいいんかいのー?」
「ほっといて続けろ」
酒が回っているせいか、それともそれが普通なのか、突如掴み合いになった二人に坂本はあっはっはっはっと笑い声を上げて頭を掻くが、溜息一つ零した桂に促されてそんならと、懐かしそうに語り始めた・・・。
何時ものように地球に戻った坂本は、後の事は陸奥に任せて随分歩き慣れたかぶき町の大通りをカラコロと下駄を鳴らして歩いていた。
向かう先は言わずと知れた万事屋銀ちゃんだ。
銀時はまぁた来やがったのかと呆れた表情を浮かべるだろうが、坂田家に数年前に加わった小さな家族の一員は喜んでくるだろうと、思わずにまっと坂本は笑みを浮かべる。
少しでも早く到着出来るようにと、そこそこの広さがある公園を突っ切ろうと足を踏み入れた坂本は、黒の天パに続いて彼のトレードマークである丸いサングラスの下で目を瞬かせた。
視線の先には公園の規模に合わせたように、少し大きな砂場。
縁は角材ではなく、丸太を半分に切った物で囲われている。
その一辺に、坂本に背中を向けるようにして座る銀時が居た。
こんな所に銀時が居ると言う事は、閃時も一緒に居るのだろうと、坂本はおーいっと声を掛けながら足早に近付く。
「おーい、金時〜」
「あぁん?」
一度目の呼び掛けには反応しなかった銀時だったが、聞き慣れた声に何度訂正しても間違う名を呼ばれて肩越しに振り返った。
足早に寄って来る坂本を見つけて、おーと気だるげに片手を上げて応える。
そんな銀時の姿に、坂本が思った通り一緒に居た閃時が顔を上げた。
砂場にしゃがみ込み、せっせと砂を寄せて砂山を作っていた手を止めて立ち上がれば、坂本の姿が漸く閃時の視界に入る。
あっと小さく声を零すと、手や袴に付いた砂をパタパタと落として砂場から出た。
それに合わせて銀時も立ち上がる。
「たつ、おじさん」
「おー!!やっぱり閃時も一緒じゃったかー!!」
ててっと駆け寄って来た閃時をすぃっと脇の下に手を入れて抱き上げた坂本は、お決まりの笑い声を上げてそのまま高い高ーいと頭上に持ち上げた。
持ち上げたままその場でクルクルっと回ってやれば、楽しいのか閃時は少しだけ目を細めてたかーいと呟く。
「何時戻って来たんだ?」
「ん?おぉ、ついさっきじゃー」
銀時に声を掛けられた坂本は、回るのを止めて閃時を頭上から下ろすと片腕に座らせるように抱き直した。
そう言う抱き方をされるのは慣れているのか、閃時の小さな片手が坂本の肩の辺りを掴んでバランスを取る。
「おまんとこ行こう思うて、近道の為に公園入ったらちょうど見つけたんじゃー」
「あっそ。ってか、こっち戻って来る度に当たり前のようにウチ来んじゃねぇよ」
「そごんこつ言わんでもよかとー。閃時は辰おじさんに会えて嬉かねー?」
「うん。せん、うれしい」
大きく頷く閃時に坂本は嬉しそうにへらっと笑うと、小さな頭を撫でた。
「そじゃ。せっかくやきー公園で辰おじさんと遊ぶろー」
「おいおい。父子の楽しい一時を邪魔しないでくんない?」
「先ずはブランコじゃー!!」
「ブランコー」
銀時の言葉などすぱっと無視しておー!!っと片手を空に突き上げる坂本を真似するように、閃時も片手を突き上げた。
もう好きにしてと呟いて、意気揚々と閃時を抱えたままブランコの方へ向かう坂本を銀時は見送る。
近くにあったベンチに腰を下ろすと、ブランコ・滑り台・雲梯と次々に遊び場を代えてはしゃぐ馬鹿一匹と幼い我が子を眺めた。
時折、閃時が銀時を振り返って小さく手を振るのに応えてやる。
一通り公園に設置された遊具に遊んだかと思うと、閃時の前にしゃがみ込んだ坂本が何事か告げてから閃時に背中を向けた。
何だ?と首を傾げつつ銀時が耳を澄ませば、いーちにーいっと坂本が数を数える声が聞こえる。
きょろきょろと周りを見渡しながらトテトテと坂本から閃時が離れている事で、隠れ鬼を始めた事を悟った。
「もーいーかぁい」
「まーだだよー」
十と数え終わった坂本が問うが、未だ隠れる所が見つからない閃時は駄目と応える。
と、きょろきょろと動かしていた視線を銀時で止めると駆け寄って行く。
おっ?と銀時が目を瞬かせば、駆け寄って来た閃時にくいくいと手を引かれた。
「どした?」
「たって、ちちうえ」
「んん?」
早く早くと急かされ、訳も分からぬままに銀時が立ち上がった所で、もう一度十数えていた坂本からもーいーかぁい?と再び問われる。
閃時はわたわたと銀時の左足を覆い隠す着流しの裾の中に潜り込むと、きゅっと銀時の左足にしがみ付いてもーいーよーと応えた。
これでしっかり隠れたつもりでいる閃時に、銀時は噴出すのを堪えるように口元を手で覆う。
「直ぐに見つけちゃるぞー!!」
そう言って気合を入れて立ち上がった坂本は、最後に閃時の声が聞こえた方へと身体を向ける。
其処にはベンチに座っていた筈の銀時がのっそりと立ち、足元に不自然な膨らみをくっつける姿。
さらに視線を下げれば、着流しの裾から小さな草履を履いた足と、水色の袴の裾が覗いていた。
「あっはっはっはっ!!閃時は何処に隠れたんじゃろかー?」
そ知らぬ振りで目の上に手で庇を作り、彼方此方へ視線を向けながら坂本はのんびりした足取りで銀時の着流しの裾の中に隠れた閃時へ近付く。
声が近付いて来る事に、見つからないようにと身体を縮めたのか風も無いのに着流しの裾が揺れた。
「おー金時ー閃時知らんがかー?」
「いやー?知らねぇなぁー」
白々しく声を掛ける坂本に、銀時も白々しい返答を返す。
さらにきゅうっと足にしがみ付いて来る閃時の一生懸命さが可愛いのか、銀時の表情がだらしなく緩んだ。
「あっちの方かのー?」
「そうなんじゃねぇ?」
まだ見つけたと言うのは可哀想だと思って、坂本がまったく違う方を向いて言葉を綴れば、銀時もそれに合わせる。
絶対見つけるけんのーと言いながら坂本が離れて行く事に気づいたのか、着流しの裾の中でもぞもぞと閃時が動いた。
内側から着流しを掴んでひょこりと顔を出した閃時は、自分が隠れている所とはまったく違う方を向いてきょろきょろとしている坂本の姿をその瞳に映す。
パチリと一つ目を瞬かせると、見つからなかった事が嬉しかったのか控えめににへっと得意そうに笑って、またもそもそと顔を中に戻し、再び銀時の足にきゅっとしがみ付いた。
その様子をばっちりと見ていた大人二人は、その姿に小さく肩を震わせて必死で笑いを堪えた・・・。
「「あーそれ見たかったー」」
「あっはっはっはっ!!」
坂本の語る光景を脳裏に描いたのか、何処か羨ましそうに呟く高杉と桂に坂本は得意そうに笑い声を上げる。
「しかし、どうやって見つけたと言ったのだ?」
「閃時があんまりにも得意そうじゃったからのー。見つけた言わんで暫くしてから『閃時が見つからんで辰おじさん泣きそうじゃー』言うたら、慌てて出て来てくれたろー」
「そうそう。『たつおじさん、せん、ここ』つってなぁー」
「そうじゃそうじゃ」
「ま、あれだなァ」
酒を煽りながら呟いた高杉に、何を言いたいのか気づいた三人もあーっと声を上げた。
「「「「あの頃はホント、可愛かったなぁー」」」」
四人が声を揃えてしみじみと呟いたその時・・・。
ブチィッ!!!
と、何かが切れる音が聞こえた。
何だ?と目を瞬かせた四人が視線を向けたその先には・・・。
「人が現実逃避かましてる間に、また楽しそうな話ししてんなぁ?」
低〜い声でそう呟きながらゆらりと立ち上がる閃時の姿。
さて、皆様。此処で思い出して欲しい。
閃時は、後ろ手で縛られテーブルと一緒に括り付けられたまま酔っ払いのマダオ達に放置されていた事を。
立ち上がった閃時の足元に、明らかに引き千切られただろう断面を見せるロープがはらりと落ちる。
「「「「あっ」」」」
ヤバイ、何か本気でヤバイ・・・と、そろりとその場から逃走を図ろうとするマダオ達を他所に、閃時はゆらぁりと背中を向けた。
「タイムマシンは・・・存在しない」
「え?あ・・・うん。そうだね、閃時君」
ぽつりと零された言葉に、銀時が律儀に相槌を打つ。
「から・・・」
「「「「から?」」」」
それ、何に掛かる言葉?と四人が首を傾げたその時。
「今すぐ記憶喪失になりやがれぇえぇぇぇぇぇぇえぇっ!!!」
立て掛けられたテーブルをがしりと掴んで掲げ上げると、雄叫びを上げながら振り返って閃時は全身全霊の力を込めて振り下ろす。
「「「「ギャァァァアアァァァッ!!!!」」」」
四つの断末魔の悲鳴は、振り下ろされたテーブルの下に消えた・・・。
当人の記憶に無い過去を話す場合は・・・程々に。
今度こそ本当にEND
後書き
そんな訳で番外編です(笑)
ラストは、長男の逆襲で締め括らせて頂きましたww
テーブルぶん投げ・・・このままだと攘夷組への長男の最終奥義になりそうです(爆死)
本当は、このかくれんぼのエピソードをもっさんの語りに持って行くつもりだったんですが・・・。
それだと、もっさんと坂田の両方が出て来ちゃうので別にさせて頂きました!!!
自分ルールで、それぞれの語りには、別の攘夷組を出さないと最初に決めてましたので(笑)
太門さん!!!よろしければこれもお納め下さいませぇえぇぇえぇえぇっ!!!
2009.02.04
