時にはこんな風に
朝、目が覚めたのはいいけど、何時もと違う感じがする。
ってか、何時もなら直ぐ起き上がれるのに、身体がダルイってか重いってか、起き上がれない。
兎にも角にも起き上がろうと腕を突いたけど・・・身体を起こす前にべしゃりと潰れた。
「・・・何でだ」
睡眠が足りてない訳じゃない、むしろ、何時もより少し長い位だし。
昨日は確かに依頼で蔵掃除の力仕事を丸一日してたけど、そんな事で筋肉痛になるような柔な鍛え方してないし、そんな感じでもない。
じゃあ何で起き上がれないのかまったく分からず、とりあえず頭の中に疑問符を浮かべておく。
ってか・・・何か、頭、痛い?
いや、痛いのかコレ?ふわふわしてるってか・・・良く分かんねぇ・・・。
其処まで思考を巡らせた後、俺の意識はすぅっと溶けるように途絶えた。
「ん・・・」
ひたりと、何か冷たい物が額に乗った気がして眉を寄せる。
のろのろと目を開ければ、見慣れた天井がぼやけて見えた。
ぼーっと眺めてると、ふっと影が顔に掛かる。
何だろう?と思って視線を向ければ、其処にはやっぱり少しぼやけて見える母さんが居た。
「目が覚めた?」
何処か心配そうな母さんの声に、とりあえず頷く。
何で母さんが?と問い掛けようとしたら、声の代わりに咳が出た。
止めようと思ったけど、その努力を無視するように咳が出続ける。
苦しくて思わず身体を丸めたら、慌てて母さんが背中を擦ってくれた。
無理に押さえ込むのを止めて、出るに任せていると最後にゲホッと大きく咳き込んで何とか止まる。
咳をしている間、まともに呼吸が出来てなかったせいか笛のようにヒューヒューと喉が鳴った。
「閃時、お水飲む?」
「ん・・・」
生理的に浮かんだ涙を目を瞬かせる事で何とかして、母さんの手を借りながら少し起き上がる。
それだけの動作が、半端無い位にしんどい。
手にも力が入らなくて、コップを掴んでられない事に気づいたのか、母さんが俺の手の上から手を添えて支えてくれた。
ケホッとまた一度咳を零してからゆっくりと水を流し込めば、すーっとした冷たさがひり付いた喉を潤してくれる。
「もう少し飲む?」
「・・・大丈夫」
普段聞こえる声よりも、ずっと掠れた声が自分の耳に届いた。
コップを傍らに置いた母さんがまた俺の身体を支えながら、そっと布団に戻してくれる。
起き上がってるより横になってる方が随分と楽で、無意識の内にほっと溜息が零れた。
「風邪だって」
「へ・・・?」
不意に母さんが零した言葉に、目を瞬かせる。
えーっと・・・風、じゃなくて風邪ね、風邪・・・。
って、風邪かよ。風邪引いてたのかよ俺。
あー道理で頭がふわふわして咳出るし、身体に力入らないわ、むしろダルイし・・・って、気付けよ俺。
どう考えても風邪の症状じゃん。
直ぐ気付けないとか、かなりやばいってっ!!
思考回路が停止気味になってるからじゃん!!
うわ・・・変な感じで思考が回って・・・気持ち悪ぃ・・・。
「うぇ・・・」
「吐きそう?」
「あ、や、大丈夫・・・思考制御が出来なくて、気持ち悪くなった、だけ・・・だから」
うーっと顔顰めると、やっぱり心配そうに母さんに顔を覗き込まれた。
とりあえず、本気で吐きそうでは無い事を告げれば、ほっと表情が緩む。
すぃっと母さんの手が枕元に伸びたかと思うと、白い手拭いがその手に握られていた。
何となく濡れている感じがして、其処でやっと目が覚めるきっかけになったひんやりした感触が濡らして絞った手拭いだった事に気付く。
「往診に来てくれたお医者様が言うには、流行病じゃないって。普通の風邪だから明日か明後日には治るだろうってさ」
「ならよかった・・・って、風邪引いた時点で、良くはないんだけど・・・」
ケホケホッと二度咳き込んで苦笑えば、母さんも同じように苦笑う。
「昨日の蔵掃除の後、汗掻いたのにちゃんと拭かなかったんでしょ?特に今は寒いんだから気を付けないとっ!!」
「すみまっせーん・・・」
まったくっ!!と軽く眉尻を吊り上げられてバツが悪く、布団に顔の半分まで潜り込む。
注意はしてたんだけど、さすがに疲れ切ってたせいかそこまで手が回り切らなかったんです。
「でもまぁ・・・偶にはゆっくり休む良い機会かもね」
叱られて情けない表情をしてたんだろう、クスクスと笑って母さんから直ぐにお許しが出た。
それにほっと息を吐けば、微かな水音の後、ひんやりと冷たい手拭いが額に乗せられる。
「そう言えば・・・今、何時?」
「もう直ぐ夕方。朝も昼もご飯食べてないから、お腹空いてるでしょ?」
「・・・どうかな?よく、分かんないや」
空いてると言われれば空いてるような気もするけど、空いてないと言えば空いてない気もする。
どっち付かずな感覚に首を傾げた。
「どっちにしても、ご飯食べてお薬飲まなきゃ。梅粥と卵粥、どっちが良い?」
「んー・・・卵粥?」
「了解。今から用意してくるから、少し眠っててもいいよ」
「ふぁーい」
クスって笑って俺の頭を撫でる母さんの手がくすぐったくて少し首を竦めて返事を返せば、くしゃくしゃとさらに二度頭を撫でられた。
最後に、待っててと言って母さんは部屋から出て行く。
何て言うか・・・もの凄く甘やかされる気がして、気恥ずかしい。
うぁーと唸りながら布団を目許まで引き上げると、外から蓮華が俺を呼ぶ声が聞こえた。
それにやっぱり掠れた声で返事を返せば、何処か寂しげな声で入っても良いかと問われる。
本当は駄目だって言うべきなんだけど、少しだけならと了承を込めた言葉を返した。
控えめに襖が開いて、遠慮がちに蓮華が顔を出す。
おいでと、音にはせずに布団から出した手でちょいちょいと手招けば、嬉しそうに笑って駆け寄って来た。
「兄様、大丈夫ですか?なのです・・・」
「明日か明後日には、治るから大丈夫だ」
ぺたんっと枕元に座り込んで覗き込んで来る蓮華の頭を、撫でてやる。
「それより、ごめんな・・・。今日、遊んでやるって約束してたのに・・・」
「平気なのです。兄様が早く元気になってくれる方が大事なのです」
にこっと笑う蓮華に笑い返して、じゃあ元気になったら約束守らせてなと小指を差し出せば、コクンっと頷いて、蓮華のまだ小さくて細い小指が絡んだ。
二人で小さな声で歌を歌って、絡めた小指を揺らす。
最後に指切ったっと締め括って絡めた小指を解いた。
直後、風邪で寝込んでるのに何やってんだろうなと、笑いが込み上げたのはご愛嬌と言う事で。
それから暫くして、母さんが出来たての卵粥を持って戻って来た。
蓮華が俺の枕元に居るのに少し驚いてたけど、後でちゃんとうがいする事と釘を刺して、俺が卵粥を食べ薬を飲み終わるまで此処に居る許可を出した。
ちなみに、えー・・・お粥は母さんと蓮華に食べさせて貰いまし・・・た。
ホント、真面目に恥ずかしいんですけどぉおぉぉおおぉぉっ!!
あー・・・もーいいです。全部風邪のせいって事にしよう、そうしよう。
ってか、本気で思考グダグダなっ!!
兎に角寝なさいと促す母さんに逆らわず大人しく布団に戻れば、まだまだ眠りが足りないと身体に催促されて、意識はすとんと落ちた・・・。
・・・で、らしいです。
・・・らな・・・いな。
途切れ途切れに聞える声に、目を開こうと思ったけど身体がそれを拒絶する。
脳も、まだまだ眠れと言ってるらしい。
今、何時位なんだろう・・・。
あれから大分経ってる気がするから、真夜中とか?
そう言えば、夜中には熱が上がるって聞いた事がある。
一回目が覚めた時よりも、さらに思考が空回ってる感じ。
確実にこれ、熱上がってるな・・・。
そんな事を考えながら、ひそひそと続く声に耳を傾ける。
話すと言うよりも、お互いの口唇の動きを読むに近い話し声しか聞えず、其処に居るのが親父と母さんと言う事しか分からない。
まぁいいかと思い直してまた意識を沈ませようとしたけど、布団の中が無性に暑い気がして、そろそろと片手を布団の外に出した。
片手を外に出した事で、ホンの少しだけ隙間が出来たのかすぅっと温度の低い空気が忍び込んで来た。
一瞬、冷たさに驚いたけど、直ぐに中の温度と混ざり合ってちょうど良くなる。
あーこれで良く眠れそうだと、意識を留めるのを止めた。
外に出した手から力も抜けば、一番自然な形になろうとしたのか、少しだけ手首が回る。
そして、指先に触れた柔らかい感触。
何だろう・・・?すごく、懐かしい感じがする。
そろりと指先に力を込めれば、それはすんなりと握り込めた。
やっぱり、懐かしい・・・。それから、握ってると安心出来る・・・。
何だっけ?と思考を巡らせるよりも早く、すぅっと俺は眠りに落ちて行った。
目が覚めたら、何時もなら新八と一緒に台所に立つか、食卓の準備をしている筈の閃時が居なかった。
おまけに、台所には後は皿に盛るだけとなった料理だけで新八の姿も無い。
台所の奥に続く厠や風呂場にも人の気配が無い事を不思議に思って気配を探れば、どうやら三階に居るらしかった。
珍しく寝坊でもしてる閃時を起こしに行ってんだろうと結論付けて、ボリボリと頭を掻くと、とりあえずはと洗面所に向かう。
顔を洗って髭も剃り終わって歯を磨いて居る所で、パタパタと少し慌てた足音が聞えた。
「ひんはひか?」
「あ、銀さん!!すみませんけど、今日の依頼一人で行って貰えますか!?」
「はっ?」
歯を磨きながら居間に顔を出せば、電話の前でパラパラと電話帳を捲っていた新八に口早にそう言われる。
「へんひょきは?」
「閃時、どうも風邪引いたみたいで・・・。起きて来ないから可笑しいなーって思って見に行ったら、酷くぐったりしてたんです」
その時の様子を思い出したのか、へにょっと新八の眉が垂れ下がった。
幼い時に父親を病で亡くしているからか病の気配に敏感だ。
子供が居る家は大抵見つけているだろう、掛かり付けの医者へ往診を頼む為に慌てている。
ページが上手く捲れないのか、少し苛立ったような新八の手から電話帳を取り上げて、目的のページを開いてやった。
「ありがとうございます」
ほっとした様子で礼を言う新八に一つ頷いて、洗面所に戻る。
嗽をしてまた居間に少し顔を出せば、やっぱり眉を垂らした新八が電話の向こうの相手とやりとりしていた。
それを確かめて三階に向かう。
「蓮華?なぁにやってんの?」
「父様」
階段を上がり切って短い廊下に足を踏み出せば、閃時の部屋の前でうろうろする蓮華を発見。
声を掛ければ、泣きそうな顔で抱きついて来た。
その勢いのままよっこいせと抱き上げれば、首にぎゅっとしがみついて今にも泣きそうな声で呟く。
「兄様、苦しそうなのです・・・」
「そうか・・・」
多分、新八が閃時を起こしに来た時に蓮華も目が覚めたんだろう、そんでぐったりする兄ちゃんを見ちまったらしい。
トントンっと背中を叩いて、俺も閃時の様子を見る為に部屋に向かう。
一応開けるぞと声を掛けたが、返事は無かった。
そっと襖を開けて中に入れば、浅く早い呼吸音が聞える。
蓮華を抱えたまま枕元にしゃがみ込んで、汗ばんだ額に掌を当てれば、相当な高熱を出している事が分かった。
「兄様、大丈夫ですか?なのです・・・」
「今、お医者さんに来てくれるように電話してっからな。大丈夫だ」
不安そうに閃時と俺の顔を見比べる蓮華に笑ってそう言ってやれば、少し安心したのか幾分か表情を和らげる。
「ほれ、着替えておいで。母ちゃんの手伝いしてやってよ」
「はいなのです」
片腕に座らせるようにして抱えていた身体を畳に下ろせば、にっこりと笑って駆けて行く。
その際、大きな足音を立てないように気を使っているのが偉いじゃないですか。
目の前からもう消えてしまった小さな背中へ、ふっと笑みを浮かべて、今度は苦しそうにしている閃時に視線を向けた。
「今日はなぁんも気にしねぇでいいから、ゆっくり寝とけ」
ひそとそう告げて汗で張り付く前髪を掻き揚げ、そのままくしゃりと頭を撫でれば、返事という訳でないだろうが、絶妙なタイミングでんっと小さく閃時が声を漏らした。
それが、今朝の事だ。
依頼自体も、必ずも二人居なきゃどうにもならない代物じゃなかった。
まぁ、その分時間食ったけど。
とりあえずは日付が変わる前に片が付いたので、まぁ良しとしとく。
帰宅して、残してくれていた飯を掻っ込んで様子を見に来れば、ここ一番の峠だろう高熱で昏々と眠っていた。
俺の飯の準備した後、直ぐに戻っていた新八にどうだ?と問えば、早ければ明日、遅くても明後日には完全に熱は引くと診断された事を告げられる。
「銀さん、依頼で疲れてるでしょう?僕が見てますから、お風呂に入って休んで下さい」
「んぁ?おぉ・・・」
それじゃお言葉に甘えてと立ち上がり掛けた所で、くんっと着流しが引っ張られる感覚に目を瞬かせた。
膝かどっかで踏ん付けてんのか?と思いつつ、引っ張られる方へと視線を向ければ・・・。
「新八ぃ」
「はい?」
「動けない」
「へ?」
コトリと首を傾げる新八に此処を見ろと指差せば、其処には、俺の着流しの裾を握る閃時の手があった。
少し力を込めて引っ張れば、簡単に外れそうな位の力でしかはないけど・・・。
無碍に出来ない力加減で握られて、そうするのは躊躇われる。
何よりも、薄明かりの中でぼんやりと浮かぶ表情が、さっきより穏やかになってる気がしてしょうがないのだ。
「どうしよー困ったなー」
動けないよマジでと新八に訴えれば、大仰な溜息を吐かれた。
「そんな緩み切った顔で困ったじゃないでしょうが」
本当は嬉しいくせにと、呆れたように笑う新八に、にへっと笑って置いた・・・。
END
後書き
『きっとツンデレ属性だろう長男が、ツンしか見せないお父さんに珍しくデレる』リクでした!!
はい、長男はツンデレです!!(爆)
ってか、家族内でツンを見せるのは親父だけですけど!!(何その限定属性)
九割五分のツンを見せる長男の、五分のデレ・・・てねぇよコレぇえぇぇぇえぇえぇっ!!
すみまっせん!!私、確実にツンデレの意味を勘違いしてると思います!!(爆死)
えーっと・・・デレた事にして下さると、有り難い・・・ですorz
まぁ、翌朝の長男は皆さんのご想像にお任せします(笑)
まるる様。
ごめんなさい!!期待外れな感じになっているかと思いますが!!思いますが・・・っ!!
お受け取り下されば幸いです・・・っ!!
長男の属性、見抜いて下さってありがとうございます(笑)
そして!!企画参加して下さってありがとうございましたぁあぁぁっ!!ぺこ <(_ _)>
2009.02.13
