女は度胸。ついでに愛嬌。
「たっだいまー」
玄関口でそう声を上げた閃時は、ブーツを脱ごうと少し屈んだ所で敲きに見慣れない女物の下駄を見つけた。
明らかに、規格サイズ外と分かった瞬間。
閃時は帰って来たばかりだと言うのにさっと踵を返すと再び外に出ようと一歩踏み出そうとした。
が、敷居を跨ぐよりも早くわしっと頭を掴まれて強制的に歩みを止められる。
「あらあら。挨拶もなしかい?」
言葉使いこそ女性的ではあるが、言葉を綴る声は妙に野太く渋い。
未だ頭を掴んだままの手にグギギっと強制的に振り向かされて、閃時は口元を無理矢理笑みの形に吊り上げた。
「こ・・・こんにちは、西郷ママ」
あ、あはははははっと空笑いも上げて、かぶき町四天王の一人であり『かまっ娘倶楽部』のママである、鬼神・マドマーゼル西郷に形ばかりの挨拶を告げる。
何やら嫌な予感がして、閃時はだらだらと冷や汗を流した。
「あ、あの〜西郷ママ?俺、ちょっと用事があるから出掛けたいので手を離して頂けると嬉しいなぁ・・・って、イデデデデデデッ!!!」
兎に角此処は逃げるべきだと本能が叫ぶので、その通りに行動しようとした閃時は西郷の手からの解放を求めたが、逆に手に力を込められて悲鳴を上げる。
頭蓋骨がミシミシと軋む音を立てているのは、確実に気のせいではない。
「痛いっ!!マジで痛いっ!!頭潰れるっ!!」
本気で痛む頭に閃時がさらに悲鳴を上げると、西郷はあぁ忘れてたわとあっさり言い放って漸く閃時を解放した。
半端ない痛みに逃げる事も忘れ、閃時は頭を抱えるとその場に蹲る。
「それじゃ、この子は借りてくわよ」
「あーどーぞどーぞ」
「いやいやいやっ!!何の話しぃいぃぃっ!?」
痛みに悶える閃時を他所に西郷と銀時の暢気なやり取りが交わされ、痛みに気を取られて色んな事が吹っ飛んでいた閃時は我に返って叫ぶ。
そして、何で叫ぶよりもこの時逃げなかったんだろうと直ぐに後悔した。
「さ、行くわよ。閃子ちゃん」
「嫌だぁあぁぁぁぁぁぁあぁあっ!!!!」
西郷の一言で全てを察し漸く逃げる事を思い出したのだが、すでに後の祭り。
逃げ出す為に玄関の戸を開けたまではよかったが・・・。
「逃げんじゃねェ」
低い声が真後ろで聞こえるか早いか、延髄にドスッと鋭い手刀を叩き込まれ、閃時は声も無く崩れ落ちた。
「西郷さんよ〜。あんま手荒に扱ってくれんなよ?それ、一応人様の息子なんだし」
「アンタの息子ならこんなの屁でもないだろう?それに、顔に傷が付かなきゃいいのよ」
顔は女の命だからねとニヤリと笑って、完全に意識を失って倒れ伏す閃時を肩に担ぎ上げた。
何はともあれ・・・皆様、お手を拝借。
合掌。
「じゃねぇぇえぇぇぇっ!!ちょっ!?何処触ってんだ!!」
「やっぱり、若い子の肌は張りが違うわ〜」
「細身だけど、筋肉はちゃんと付いてるのよねぇ〜。あらやだ、腹筋も割れてたわこの子」
「って言うか、この子腰細過ぎるわっ!!嫉妬しちゃう!!」
「腰を掴むなぁあぁあぁぁぁぁっ!!!」
西郷に担がれてかまっ娘倶楽部に強制的に運ばれた閃時は、到着後暫くして意識を取り戻した。
が、意識が無いままだった方がまだマシだったかも知れない状況に只管悲鳴を上げ続ける。
逃げる間もなく、既にお店に出られるように準備の終わっていた夜の蛾達に寄って集って、身に纏っていた衣服を剥ぎ取られた。
不必要なまでにベタベタとほぼ裸になった身体を触られ捲くりながら、無理矢理女物の着物を身に着けさせられる。
見た目は女の装いをしていても、やはり中身は男だ。
一人や二人ならまだしも、それが五人も六人にもなれば、平均を軽く超える怪力の持ち主である閃時も振り解く事は出来ず・・・と言うか、遠慮なくセクハラをされては、それから身を守るだけで精一杯である。
「さー出来たわよ」
「やっだぁ〜か〜わ〜い〜い〜」
「ご贔屓のお客さん取られちゃうかも〜」
寄って集って閃時を引ん剥き女物の着物で身を包ませてその出来上がり具合に満足したのか、閃時を押さえ付けていた数名が離れた。
閃時と言えば、既に息も絶え絶えである。
「美緒ちゃん。閃子ちゃんのメイクしてあげてねぇ〜」
「もう直ぐ開店時間だから急いでよぉ」
「あ、はぁい」
先に準備してるわぁっと出て行く先輩達に、部屋の隅で控えていた美緒はにっこりと笑って返事を返した。
化粧道具を纏めた化粧箱を手に、ぐったりしている閃時に近づいた。
「大丈夫?」
「・・・もう、お婿に行けない」
しくしくと顔を覆って泣く閃時に、美緒は苦笑うと慰めるように背中を撫でてやる。
トラウマにならなきゃ良いけど・・・と胸の内で呟きながらも、開店時間が迫っている事もあって、兎に角メイクをする為に閃時に顔を上げるように促した。
美緒はこの店の最年少で一番年が近い事もあって―とは言っても10歳以上は年の差があるのだがー、閃時が依頼と言う名の拉致をされる度にメイクを担当している。
うぁいっと疲れたような声で返事を返すと、閃時は薄っすらと浮かんでいた涙を拭って座り直す。
「あんなセクハラされる位なら、自分で着替えればよかった・・・」
「どっちにしてもあーなってたわよ?」
「ですよねー」
がっくり肩を落とした閃時の姿に、美緒はクスクスと小さな笑い声を上げて頬に手を添えると肩と一緒に落ちてしまった顔を上げさせた。
大人しく顔を上げた閃時は、美緒の手に握られた化粧道具に溜息を零す。
「やっぱしなきゃ駄目ですかね?」
「軽くだけだから我慢して。はい、目ぇ閉じててね」
「はーい」
此処まで来たら自棄だとばかりに、閃時は素直に目を閉じると終わるのを待った。
慣れない感触にむず痒いのか時折眉を顰めるが、その度に美緒に注意されて渋々と眉を伸ばす。
「ごめんねぇー閃時君、オカマとか嫌いでしょうに」
「はっ?」
「目は開けちゃ駄目よ」
「あ、すみません。ってか、何で行き成りそんな事を?」
「だって、此処に来るの凄く嫌がってたんでしょ?西郷ママに聞いたわよ」
「そりゃ、毎度あんな目に遭ってたら嫌がりもしますよ」
瞼を撫でていた筆が離れた事を確かめ、閃時は肩を竦める。
好き好んであんな目に遭いたい奴が居ますかと言いたげに。
「でも、嫌いだとか思った事ないですよ俺」
「そうなの?」
「かまっ娘倶楽部の皆、すげぇ頑張ってるの知ってるから。どうしたって元の性別を変える事は出来ないけど、その分着る物や化粧道具を吟味してるし。普通の女よりも女らしい仕草とか研究してるのも知ってる」
また瞼に筆が触れたので、閃時は邪魔にならない程度に口唇を動かして言葉を綴る。
「明らかに冷やかしだって分かる客にだって笑顔で接客してるでしょ?そう言うの、ホントすげぇって思う。俺だったら冷やかす位なら来んじゃねぇよ!!ってなるだろうから。それに・・・」
「それに?」
すぃっと瞼に最後の色を乗せ終わった美緒は、筆を拭いながら首を傾げた。
「美緒さんみたいな美人なオカマさんも居るしね。普通に女に紛れてても違和感ねぇもん」
つうか、むしろ普通の女より美人じゃね?と言って悪戯っぽく笑う閃時に、美緒はクルリと瞳を丸くさせた後、ふわりと花が綻ぶような笑みを浮かべる。
閃時の言うように、美緒は普通の女性の中に紛れても遜色ない程の美人だ。
「生意気だぞコイツ〜」
「イテテテッ」
くいっと両耳を軽く引っ張られて閃時は痛いと言いつつも、笑いながら決して本気では無いその手から身を捩って逃げた。
そうやって暫しじゃれていると、不意にドアをノックされ外から声を掛けられる。
「美緒ぉ、閃子ちゃんの準備出来たぁ?」
「後、ヘアピース付けたら終わりです」
「急いでねぇ〜もう開店よぉ」
「はぁい」
美緒が返事を返せば、準備を急かす言葉を残して声の主は去って行った。
「じゃあ、さっさと済ませちゃいましょう」
閃時の地毛に合わせたヘアピースを片手に促す美緒に、閃時は頷くと背中を向ける。
美緒は閃時の横髪を寄せて小さな尻尾を作ると、それに被せるようにヘアピースを付けた。
肩に付くか付かないかのポニーテールが、此処での閃時のヘアスタイルである。
色んな角度から出来栄えを確認して最後に軽く櫛を通せば、其処には閃時から閃子に変わった姿があった。
「これで良し・・・行きましょうか?」
「はい」
此処に来てから暫くジタバタしていたのが嘘のように、閃時は何かを吹っ切ったようにすっと裾を裁いて立ち上がる。
「男は度胸!!」
そう言ってぐっと拳を握る閃時に、美緒はクスクスと笑い声を上げて訂正を加える。
「女は度胸・・・でしょう?閃子ちゃん」
後、愛嬌忘れちゃ駄目よ?とさり気に釘を刺され、閃時は小さく苦笑った・・・。
END
後書き
『かまっ娘・閃子リターンで、表舞台と言うよりも裏舞台的な感じで。かまっ娘の一人(オリキャラでもOK)と仲が良いと嬉しいですw』な、リクでした!!'`ィ(゜∀゜*∩
どうでしょうかぁあぁぁぁっ!?
リク、クリア出来てますかね?…o(;-_-;)oドキドキ
ちなみに、閃子ちゃんはどっちかって言うと可愛い系よりも美人系でイメージして下さると幸いです(笑)
一応、外見は父親似なので。何だかんだ言ってパー子さん美人ですから(爆死)ユーリ様。
こんな感じに仕上がりました!!
お気に召しましたらお待ち帰り下さいませっ!!
手直し等は何時でもお受け致します。あ、勿論返品も(爆)
企画参加、ありがとうございました!!!
2009.02.04