天然素材少年










急いでたからって、こんな道通るんじゃなかったと
は後悔したが、この状況がそれで改善される訳ではない。
後から悔いるのが後悔なので、仕方がないと言ってしまえばお仕舞いなのだが…。



「ど、どいて下さいっ!!」



だからと言って諦められる事ではないでの、
は震える声でそう叫んだ。
の前には、二つか三つは年上だろう三人の男がニヤニヤと笑っている。
風貌からして、普通と言うには無理がある。
ヤクザ…とまでは言わないがチンピラ崩れとか、不良…そう言った言葉がしっくり来るだろう。




「まぁまぁそう邪険にしないでよー。ちょっとお茶しようーってだけなんだからさー」
「私、早く帰らないといけないからお断りしますっ!!」




少しずつ日が暮れるのが遅くなったとは言え、まだまだ夕方六時近くもなれば青闇が辺りを包み始める。
此処を通り抜ければ自宅の前まで伸びる大通りに出られる、距離的にそんなに長くないからと、幾らかの迷いがあったにも係わらず完全に日が落ちる前に帰宅しようと、
は路地に足を踏み入れてしまった。
そのまま足早に通り抜けてしまえばよかったのだが、不意に後ろから声を掛けられて立ち止まったのが運尽き。
あれよあれよ言う間に、目の前の男達に壁際に追い詰められてしまったのだ。
路地から大通りまで後少しだと言うのにと、
は下唇を噛む。
大声を出したら誰か助けてくれないかと言う淡い期待は、徐々に殺がれて行く。
先程から何度も大声を出して男達を拒絶しているのに、助けは誰一人として来ないせいだ。



「イイ店知ってるから遠慮しないで行こうぜー」
「い、嫌ですっ!!」



そう言いながら男一人に腕を掴まれ、
咄嗟にその腕を振り払う。
勢い良く振り払い過ぎたのか、少しだけ伸びていた
の手の爪が男の腕を引っ掻いた。
イテッと反射的な悲鳴を上げて男は一度腕を引っ込めたが、反抗された事が気に入らなかったのか、ニヤケ面を掻き消して、もう一度…今度は乱暴に
の腕を掴む。



「は、離して下さい!!」



振り解こうと腕を動かすが、先程よりもかなり強く掴まれているせいで、振り解く事が出来ない。



「いいから来いってんだよっ!!」
「ほら、早くっ!!」



イラついた男達の気配にガクガクと膝が震えるが、
必死で其処に留まろうとぎゅっと両目を瞑って身体に力を入れた。
しかし、その程度の抵抗など無意味だと言うように、
はズリズリと草履の裏と地面を擦れる音を絶望を感じながら聞く。
ぐいっと一際強く腕を引かれ、もう駄目だと諦め掛けたその時。



「お取り込み中、すいまっせーん」



と、 何故か頭上から声が聞こえた。
え?っと目を瞬かせたのは
だけではない。
男達も暫し間の抜けた表情を浮かべた後、声がした方へ視線を向けた。
其処には屋根の上で、薄闇の中でもはっきり分かる程に呆れた表情を浮かべた少年がしゃがみ込んでいる。



…?」
「あ、やっぱ ?声でそうかなとは思ってたんだけど…っと」



まさかと言う表情で同じ寺子屋に通う級友の姿を見詰めぽつりと が名を呟くと、少年は徐に立ち上がり何を思ったのか屋根の上から跳んだ。
四対の瞳が、え?と丸くなったかと思うと…。



べしゃっ。



と、音を立てて腕を掴んでいた男が
の視界から消えた。
代わりに、何時もより少し高い所から閃時が
を見下ろしている。
何時も抱えている刃引き刀を納めた刀袋ではなく、腰に木刀を差している事から、どうやら依頼中かその帰りらしい。



「よぉ 。こんなとこで何やってんだ?」
「あの…家に、帰る途中で…その…」
「近道しようとしてたのか?」



混乱する頭で何とか問いに答えていた だったが、何と続けて良いか分からず口篭り、コトリと首を傾げた閃時からの当たってはいるが少々ずれた更なる問いに曖昧に頷いた。



「近道したい気持ちは分かるけど、こんな時間に路地歩くのは止めとけ。危ねぇから」
「あ、うん…ごめん、なさい」
「とりあえず、さっさと大通りに出ようぜ」



はいっと何の躊躇も無く差し出された手に、 は反射的に自分の手を乗せる。
その手を握られ、促すようにやんわりとした力で引かれると、先程まで動くまいと踏ん張っていた足は自然と前に出た。
そして、閃時の頭が通常の高さに戻る。



「あの、 …?何で、屋根の上に居たの?」



大通りに出るまで後十数歩と言う所で、未だに混乱中の頭はぽんっと浮かんだ疑問を直ぐに口から吐き出させた。
と、言うか。
普通なら誰でも疑問に思う事である。



「ん?あぁ…俺も近道」
「屋根の上が!?」




呆気羅漢と返された言葉に、思わず が素っ頓狂な声を上げた瞬間。



「って、おぃいいぃぃいぃいっ!!待てゴラァァアァァアッ!!」



先程まで の行く手を塞いでいた男の一人が叫ぶ。
閃時の想像を超えた登場の仕方に呆気に取られていたが、漸く正気に戻ったらしい。
怒鳴り声に はビクリと身を竦めたが、一歩前を歩いてた閃時はちっと舌打ちを零しただけだ。



「面倒臭ぇなー。正気に戻ってんじゃねぇよコノヤロー」



どうやら、呆ける男達を放置して立ち去る気満々だったらしい。
言葉通り面倒臭そうな表情を浮かべて振り返ると、 の手を軽く引いて自分の背中に隠した。



「面倒臭ぇじゃねぇだろうがっ!!何やってんの!?ねぇ、何やってんのお前っ!?」
「何って…あそこから飛び降りて…」




喚き立てる男に閃時は右手の人差し指を立てると、ホンの少し前まで自分が居た屋根を指差し、すぃっと指先を動かしもう一人の男に助け起こされる男を指差し首を傾げる。



「その人踏み潰した?」
「首傾げて疑問系にしてんじゃねぇええぇぇっ!!明らかに踏み潰してんだろうがぁああぁぁっ!!」
「喧嘩売ってんのかコラァアアァァァァッ!!」
「何しやがんだこのガキャァアァァァァッ!!」

「あーもー煩ぇなー」



怒声が増え、眉を寄せると閃時は言葉と表情だけでなく片耳に指を突っ込んで態度でも煩いと示す。
飄々とした閃時と違って は怒りを顕にする男達に怯え身を縮めると、閃時の上着をぎゅっと握り締めた。



、心配すんな。大丈夫だから」



そんな に気付いて肩越しに振り返った閃時は、安心させるようにふわりと笑って見せる。
柔らかい笑みに本当に何も心配しなくても良い。大丈夫だと思って は頷いた。



「こっち無視してイチャついてんじゃねぇよっ!!」



二人の様子に…と、言うよりも。
何処までも飄々とした閃時の態度が癪に障ったのか、それとも目を付けた相手を奪われた事に完全に怒りが爆発したのか、男達が襲い掛かって来た。
ひっと悲鳴を上げた だったが。



…下がって」



言葉と共にトンっと軽い力で肩を押され、自分の意思とは関係なく数歩後退ると、 壁に凭れ掛かるようにして動きを止めた。
壁に背中を預けると同時に目の前を男が一人、飛んで行く。
目を瞬かせながらも反射的にそれを目で追えば、路地と大通りが交差する其処で、顔面から地面に落ちる男の姿があった。
早い話が。
を下がらせると、一番早く殴り掛かって来た男を逆に腕を伸ばして襟首を掴み取った閃時が、腕力に物を言わせて放り投げたのだ。
一瞬の間を置いて、路地から人が文字通り飛び出して来た事に、大通りを歩いてた人々から驚きの声が上がる。



「このガキッ!!何しやがるっ!!」
「いや、今のは正当防衛じゃね?俺、悪くなくね?」



殴られる所だったしと片手を腰に当て、心底不思議そうに残った二人の男に向かって首を傾げた。
言ってる事は確かに正しいのだが…何か違う気がするのは決して気のせいではない。
と、言うか。
どれだけ火に油を注げば気が済むのだろうかと、是非とも突っ込みたい態度である。



「「調子に乗んなっ!!」」
「すげぇー綺麗にハモった」



おーっと感心したように手を叩く閃時に、ギンッと効果音でもしそうな勢いで眦を吊り上げた男二人が筋が浮き上がる程に拳を握り締めて飛び掛った。



「「ぶっ殺すっ!!!」」
「そりゃ…」



獣のような咆哮を上げて襲い掛かる二人に閃時はそう呟くと、ゆらりと上体を揺らし一気に身体を沈めて地面を蹴る。
鍛えた脚力をフルに活用して、男の一人の懐に一足で飛び込むと当身を食らわせた。
ズンと重い音がその場に響き、声も無く当身を食らった男が崩れ落ちる。
そのまま崩れ落ちる男を踏み台にして跳び上がった閃時は、重力を味方に付けて、唖然とする最後の一人へ、痛烈な踵落しをお見舞いした。
同じく声も無く崩れ落ちた男の傍らにふわりと着地した閃時は、付いても居ない埃をパンパンっと手を打って払う。



「百年早ぇよ。バーカ」
「じゃねぇだろうがぁあぁぁぁぁあぁっ!!」



再び腰に片手を当てそう言い放った閃時の背後からそんな怒声が響いたかと思うと…。



ゴィイィイィインッ!!



と、半端無い音を立てて閃時の脳天に拳が振り下ろされた。



「〜〜〜〜〜〜っ!!!!!?」



余りの痛さに声も上げる事さえ出来ずに、頭を抱えてしゃがみ込む。
生理的に浮かんだ涙で潤む瞳で肩越しに振り返れば、其処には肩を怒らせた土方の姿。
さらにその後ろに視線を向ければ、何だ何だ?と集まった野次馬を散らす沖田の姿もあった。
どうやら、人が吹っ飛んできた事にただ事では無いと、巡回していた二人を誰かが呼んだらしい。



「マジで痛ぇよ…土方さん」
「痛ぇように殴ってんだから当然だ。ってか、本気で何やってんだコラ」
「えーっと…人助け?」
「疑問系じゃねぇかぁあぁあぁぁぁぁっ!!!」



ぶんっとまた拳が振り下ろされ、閃時は慌てて避けると土方から距離を置く。
二回はホント無理っ!!頭割れるっ!!と叫んで、ズキズキと痛む頭を擦った。



「まぁーた派手にやりやしたねィ閃時君」
「派手って程にはやってねぇと思うけど…」
「こんだけ野次馬集めてたら十分派手だろうが」
「いやー正直あんなに吹っ飛ぶとは思わなかった…。力加減間違えたみたい」



あはっと悪びれる事無く笑う閃時に、はぁーっと盛大に溜息を吐いた土方は、もういいとひらりと片手を振る。
説教するだけ無駄であるし、ちらりと動かした視線の先で呆然とする の姿を見つけ、無意味な暴力を閃時が振るわない事を知っているだけに状況は直ぐに読み取れた。
勿論、父親の銀時への暴力は意味ある物なので問題ない。
呆然とする に気付いた閃時は、あっと声を上げて駆け寄った。



「悪ぃ…怖がらせたか?」
「ううん…大丈夫。それより、 …怪我、してない?」
「してないしてない」



おずおずと が問えば、からりと笑って閃時は片手を振る。
それにほぉっと安堵の溜息を吐いて、 は小さく笑みを返した。



「何でィ、知り合いかィ?」
「っと…寺子屋の同級生」



何時の間にか傍に来ていた沖田にガシッと肩を組まれ、上体を崩した閃時だったが、直ぐに立て直して応えを返した。



「そうですかィ…。お嬢さん」
「はい…」
「悪いんだけどねィ。簡単な聴取取りたいんで、一緒に来て貰って構わねぇですかィ?」
「え…あの…」
「心配しなさんな。形式上なもんでさァ。10分もありゃ終わりやすからねィ。その後はご自宅までお送りさせて貰いまさァ」
「終わるまで俺一緒に居るからさ。心配すんなよ」



戸惑う に閃時が笑ってそう言えば、それならと頷いた。
それじゃ早速と、沖田が二人を促す。
ふと、付いて来ない気配に目を瞬かせて閃時は振り返った。
其処には、壁に凭れて不機嫌な表情でスパスパと煙草を吹かす土方の姿。



「土方さんは?」
「オメェが伸したコイツ等を応援に引き渡す為に残るに決まってんだろうがっ!!仕事増やしてんじゃねぇよっ!!」
「すいまっせーん」



怒鳴る土方に、閃時はうわー怖ぇーと肩を竦めるが、怒られる原因を作ってしまった が何処か申し訳なさそうに見上げて来るのに気付くと、ぺロッと舌を見せて悪戯っぽく片目を瞑って見せる。
その仕草に、土方の怒声などまったく気にして無いと知って、 はクスッと小さく笑った。










その後、近くに停めていたパトカーの中で本当に簡単な調書を作成している内に、応援が駆け付けた事で後の処理を任せた土方も助手席に乗り込んで来た。
沖田が作成した調書に目を通して、まぁこれでいいだろうと呟くと、バインダーに挟まれていたそれを四つ折にして上着の内ポケットに仕舞い込む。
そして、沖田が言った通り、
を家に送り届ける為にパトカーを発進させた。
家に着くと、迎えに出て来た
の母に帰宅が遅くなった理由を見た目は優しげな沖田が説明して事無きを得る。
逆に、
と沖田と共にパトカーから降りていた閃時が、こっちが恐縮してしまう勢いで礼を言われて戸惑った程だ。



「それじゃ、また寺子屋でな」
「うん。あの…
。今日は、本当にありがとう…」
「もういいって。
に何も無くてよかったしな。ほら、寒ぃから中入れって」



門扉の前で言葉を交わしていたが、促す閃時に
は頷く。
玄関口では
の母が娘が中に入るのを待っていた。
しかし、閃時が去るまでは見送るつもりなのだろう。
が動く様子は無い。
これじゃ駄目だと苦笑うと、閃時は後部座席のドアを開けた。
それから、あっと小さく声を上げると、半身だけを乗り込ませた状態で
を見上げる。




「何?」
「幾ら近道だからってあんな所、あんな時間に一人で歩くなよ?」
「うん、大丈夫。もうしない」



懲りたしと苦笑った
に、だなと閃時は笑って頷く。



「また変なのに目ぇ付けられんなよ。
、可愛いんだからさ」



それだけを告げて、閃時はにっこりと微笑むと後部座席に乗り込んだ。
バタンとドアを閉め、ひらりと窓越しに手を振る。
は何も言わず…と言うか何も言えず、ただ反射的に手を振り返した。
我に返ったのは、発進したパトカーが十字路を右折して視界から消えた後。
閃時の言葉を反芻して
はぼっと火が点いたように顔を赤らめ、へなへなとその場に蹲る。
突然、蹲ってしまった
に驚いた母が慌てて駆け寄って声を掛けて来たが、何でも無いと呟くのが精一杯で、暫くは立ち上がれそうになかった…。
ついでだからと、万事屋に閃時を送る為に走るパトカー内では。



「閃時…お前…」
「何?土方さん」
「いや…やっぱ何でもねぇ」



至って普通な閃時が、土方の取り消した言葉に心底不思議そうに首を傾げていた。



((コイツは天然タラシだ…))



と、しっかり先程の会話を聞いていた土方と沖田にそう称されているとは知らずに…。















END





後書き

『お相手長男の名前変換小説』なリクでした!!
最初はそれだけしかリク内容なかったんですが…。
リク主が蒼月のリア友でもあったので、結局どんなのがいいんだよー的な話をしてたら。

ってかもう、長男は天然タラシでいんじゃない?
白馬の王子様を地で行けばいんじゃない?
フラグ立て捲くればいんじゃない?


って言われました。
ちなみに、このネタは例のブログ記事のスカイプ会話で御馴染みの三人から投げ付けられた物です。
書きながら、少女漫画的展開に余りの恥ずかしさにのたうちました。
これ、楽しいのオメェらだけじゃねぇのぉおおぉおぉぉぉおぉおぉっ!!?
つうか、タイトル意味不明ですみません。
何か、ぴったりなのが思いつかなくて…orz

K桐様。
これでどうだコノヤロー!!!!!
公開羞恥プレイじゃねぇかチクショーがっ!!!!!(爆死)
多分、もうないと思う。ってか、誰も望まないだろコレ(笑)
まぁ…あれだ…。
企画参加、ありがとうございましたぁあぁぁぁぁっ!!!(*゚▽゚)・∵. ガハ!
2009.02.28