人生って何が起こるか分からねぇから、ちっと困りもん。
でも、結果良ければ全て良しってもんだ。










「銀さん、今回は本気でヤバイんですけど」



完全に据わった目でひたと睨み付け、残高僅か11円の通帳を新八は銀時の眼前に突き付けた。
今まで、通帳の残高が二桁表記される事は多々ある。
が、今回ばかりは何時もと違う。
二桁表記キープ日数。実に28日。ほぼ一ヶ月である。
二月なら、きっかり一ヶ月分である。
新八が完全に据わった目で問題の通帳を片手に、銀時に詰め寄るには十分過ぎる程の理由であった。



「い、いや〜。ほら、そう言いながら何時も何とかなってんじゃん?」
「何時も何とかしてんだよ。僕が」



半眼だった目がのらりくらりと逃げようとする銀時の言葉に、くわっと見開かれる。
ついでに瞳孔も開いている。
内心ひぃぃいぃぃっと情けない悲鳴を上げつつ、銀時は少しでもその視線から逃れようとしているのか身体を縮めた。



「もう、ぶっちゃけますけどね?明日の米所か今晩の米すらねぇんだよ」
「マジでか?」
「この状況で嘘を言ってる余裕があると思いますか?」



瞳孔が開いたままの瞳を細めてにっこりと微笑む新八の後ろに突如現れた般若に、銀時は必死で首を横に振る。
そのままもげても可笑しくない程の勢いで。
と、不意に新八の視線が動いた。
半ばソファの背凭れにへばりつくようにしている銀時の頭の天辺から、ゆっくりと視線を下げて行く。
そして、ぽつりと呟いた。



「筋張って固そうだけど・・・。煮込めば大丈夫かな?」
「何がぁあぁああぁぁぁぁぁぁっ!?」
「何がって・・・」
「いや、やっぱ言わなくてイイ!!ってか、言わないで下さぁあぁぁぁいっ!!」



不穏な新八の一言に、銀時は思わず土下座した。
何故なら、新八の目は何処までも本気であったのだ。



「新ちゃん!!いや、新八様!!
せめて今晩の米は確保出来る仕事見つけて来ますから!!
物騒な考えは捨てて下さい!!」
「えー?」
「えー?じゃなくてぇぇえぇぇええぇぇぇっ!!」



ホント、マジでお願いします!!と、米つきバッタの如く頭を下げる銀時に、心底残念そうな表情を浮かべて新八は渋々と頷く。
新八が頷いた事を確認して、漸く銀時は額に浮かんでいた冷や汗を拭う事が出来た。
とにかく急いで仕事探してこなして報酬貰って帰りにお米買って来て下さい。と、ノンブレスで言い切った新八に急かされ、普段の怠惰ぶりが嘘のような俊敏な動きで銀時はソファから腰を上げた。
人間、命の危険に晒されれば動きも機敏になると言う物である。
愛用の木刀を腰に差し、確実に報酬を手に出来る心当たりを浮かべていたその時、ピンポーンっと万事屋のチャイム音が響いた・・・。










「特殊生物生態研究所所長・三谷宗太郎さん・・・ねぇ」



こう言う者ですと、差し出された名刺を受け取った銀時は、何時もと何も変わらない死んだ魚のような目で名刺に印字された肩書きと名を読み上げて、軽く片眉を上げて見せた。
つい先ほど、万事屋のチャイムを鳴らした人物―三谷宗太郎は小さく頷く。



「粗茶ですが」
「あ、どうも」



普段飲むお茶よりかは幾らか上等な茶葉を使って淹れた来客用の湯飲みを、お決まりの言葉と共に新八がそっとテーブルの上に置けば、三谷には軽い会釈と共に言葉を返した。
それににこりと笑い返して、新八は銀時の隣に腰を掛ける。
腰を掛けると同時に銀時から名刺を差し出され、それを両手で受け取ると声には出さず視線だけで名刺の文字を辿った。
ふむふむと頷いてちらりと視線を横に向ければ、やる気のなさそうな顔で銀時は小指で耳を穿っている。
しゃきっとしろっ!!と睨み付けた後、新八は無防備な脇腹に思いっきり肘をめり込ませた。



「あの・・・何かご依頼でいらっしゃったんですよね?」



うごっ!!と妙な呻き声を漏らした銀時はさらりと無視して、新八がにっこりと完璧な営業スマイルを向けて問えば、何時切り出せば良いのかと迷っていた三谷の表情がぱっと明るくなる。
そうなんです!!と慌てて言葉を紡ぎ、傍らに置いていた鞄から何か取り出そうとわたわたと手を動かす。



「あの、特殊生物生態研究所って言うのは、地球外・・・。
所謂『宇宙生物』の生態を研究している施設でして。
主に、宇宙生物を地球に持ち込んでも危険ではないか。
万が一何かあった時の対処法や、生態系に変化は無いかと言う事を研究しています」
「はぁ・・・」



探し物が見つからないのか、ゴソゴソと鞄に手を突っ込んだまま口早に言葉を綴る三谷に、新八は曖昧な相槌を打つ。
出来れば早く依頼内容を説明して欲しい所だが、どうやら探し物が見つからなければ始まらないらしいとこっそりと溜息を吐いた。
が、いやいや!!溜息吐く必要ないから!!久々のお仕事!!と気合を入れ直す。
銀時はつまらなそうにくわっと大きな欠伸を一つ。
とことんやる気の見えないその姿に、新八はもう一度・・・今度はさらに力を込めて肘を脇腹にめり込ませた。
先程の倍は込められた肘鉄の強烈さに、銀時は今度は呻く余裕も無く痛みに蹲る。
やっと目的の物を見つけ出したらしい三谷が蹲る銀時に不思議そうに目を瞬かせたが、その隣で新八は何でも無いようににっこりと笑っていた。





「それ、DEAD OR ALIVEアルか?」
「一番にそれを聞くんだ」




三谷から話しを聞き最終的に依頼を受けた後、銀時と新八は公園で遊んでいた神楽と定春を迎えに出た。
依頼が入った事を告げ、内容を説明すればクチクチと酢昆布を噛みながら神楽はそう問う。
新八は神楽の言葉に額を押さえたが、コレが一番重要な事だと思い直し口を開いた。



「出来れば無事に捕獲して欲しいって事だけど、最悪の場合は構わないって」



幾らか言葉を濁したが、濁した言葉をきちんと拾い上げた神楽はニヤンと笑う。
それなら良いと言いたげに。



「無事にって言うのを優先してね!?」
「努力はするネ」



最後に『多分』とでも付きそうな口調に、本当に大丈夫なのだろうかと新八は肩を落とした。



「まぁ、依頼主からOK貰ってっから大丈夫だろ。最悪の場合でも」
「最悪を前提に事を進めようとすんなぁああぁぁぁぁぁあぁっ!!」



ホント頼みますよ!?と叫ぶ新八に、へーいと信用出来そうに無い返事が二人から返される。
もう、ホント嫌だこの人達・・・と、内心さめざめと新八が涙を流したとしても仕方が無い。
しかし、この辺は新八も慣れたもので直ぐに思考を切り替えると、懐を探って掌に収まって仕舞う程小さな機械を取り出す。
この依頼、色んな意味で大丈夫だろうかと、思考を切り替えた筈の新八は深々と溜息を吐いた。















  





後書き

脳内完結して中々進んでおりませんorz
ささっと進められるように奮闘努力しておりますのでぇえぇえぇえぇっ!!
ってか、短いにも程がありますね、はい。
次はちょっとだけ長くなる予定です。予定は未定・・・。
適切な長さが分かりません!!先生!!(誰!?)
2009.05.24