これは、少し昔の出来事…。
人生って何が起こるか分からねぇから、ちっと困りもん。
でも、結果良ければ全て良しってもんだ。
「お父さん、起きてー!!」
「ぐはっ!!」
大の字になって眠っていた銀時は、元気な声と共にドスッと腹に衝撃を受けて反射的に悲鳴を上げた。
ぐぇっと踏み潰された蛙のような呻き声を零しつつ、一瞬で眠りの世界から引き釣り出された銀時は眉を寄せながら目を開ける。
障子を梳かして差し込む朝日に目をしょぼつかせれば視界がクリアになり、目の焦点があった。
視線の先には、起きた?と言いたげに首を傾げて顔を覗き込む閃時の姿。
「閃時ぃ〜なんつう起こし方すんのよ…」
「お姉ちゃんが『こうしたら一発アル!!』って言ったもん」
悪びれる所か、腹の上に馬乗りになったままにっこりと笑って言い放つ閃時に小さく呻く。
年の割りに軽い体重の閃時ではあるが、流石に無防備な状態で腹の上に飛び乗られるのは勘弁して貰いたい所だ。
「それより起きてお父さん。今日は朝からお仕事って言ってたでしょ?」
「あーもー…父ちゃんのHPゼロなので今日はお休みしますぅ」
「だーめー!!起ーきーてー!!」
ぐぅーとわざとらしく鼾を掻きつつ目を閉じた銀時に慌てて、遠慮の無い力で肩を揺すぶる。
ガクガクと揺すられても気にせず目を閉じたままの事に、むぅっと閃時は頬を膨らませた。
どうしたら起きてくれるのかと暫し思考を巡らせた後、何かを思いついたのか悪戯っぽい笑みを浮かべる。
馬乗りになったままだった銀時の腹の上から一度降り、布団の傍らに膝を突いた。
そして、ぐっと掛け布団の端を掴んだかと思うと…。
「えいっ!!」
「うぉっ!?」
両腕に力を込めて一気に布団を剥ぎ取った。
一瞬で朝特有の冷たい空気に包まれて、銀時は身体を丸める。
その間に、閃時は掛け布団を取り返されないようにと部屋の隅へ移動させた。
そして直ぐに銀時の傍らに戻って、ぐっぱっと一度掌を開閉させると。
「起きてー!!」
「ちょっ!?せ…うはははははははっ!!」
無防備になっていた銀時の脇腹に手を伸ばし、思いっきりくすぐった。
手から逃れようと身を捩る銀時に、そうはさせないと閃時も追い掛ける。
「ちょっ!!まっ…うひゃひゃひゃっ!!」
「お父さん起きてっ!!」
「わ、分かったっ!!起きるっ!!起きますっ!!」
ギブギブッ!!と必死で畳を叩く銀時に、イヒッと笑ってやっとくすぐる手を止めた。
満足気な閃時とは対照的に笑い過ぎて苦しいのか、うぁーと声を上げて忙しない呼吸を繰り返している。
「もー…ホント、なんつう事すんのー」
「だってお父さん起きてくれないんだもん」
「ったく…こんの悪戯坊主がっ!!」
つんっとそっぽを向く閃時の隙を突いて腹筋をフルに活用して飛び起きた銀時は、そんな言葉と共に直ぐ傍に居た閃時を捕まえた。
捕まえて簡単に膝の上に抱き上げると、お返しとばかりに脇腹に手を添えるが早いか、一気に十本の指をわしゃわしゃと動かす。
「あはははははっ!!」
「仕返しじゃー」
膝の上から逃げる身体をさらに追い掛けてくすぐれば、くすぐったさに耐え切れず閃時はバタバタと手足を振り回して畳を叩いた。
「ほーら、父ちゃんにごめんなさいは?」
「ボク悪くな…っ!!あはははははっ!!!」
「まだ言う…」
か。の語尾は、ガブッと言う音に掻き消される。
突然止んだくすぐり攻撃にぜーぜーと必死で息を吸い込んでいた閃時は、生理的に浮かんだ涙で潤む瞳で背後へ視線を向けた。
其処には、銀時の頭にがっぷりと噛み付く定春と、それを指示しただろう神楽の姿。
「お姉ちゃん!!定春っ!!」
「はいヨ。大丈夫アルか?」
「うんっ!!」
ぱっと表情を輝かせて立ち上がった閃時は、神楽の元に駆け寄った。
相当暴れたのか、ぐしゃぐしゃになった髪を直す為にそっと神楽の指が伸ばされる。
指を髪に差し入れニ、三度滑らせてやれば、ぐしゃぐしゃになっていた髪は直ぐにさらりと元に戻った。
「これでヨロシ。マダオはほっといて、朝ご飯食べるネ」
「うん」
よしよしと頭を撫でて促す神楽に、閃時はにっこりと笑って頷くと和室から居間へと向かう。
「って、神楽ぁあぁぁぁっ!!定春除け…あだだだだだっ!!!」
「わふ」
ガブガブと遠慮なく定春に食まれる銀時はそのままにして。
朝から一騒ぎ起こして最終的に新八に叱られはしたが、朝食を済ませて身支度も済ませた銀時は仕事に出ようと玄関に向かった。
本日の依頼は建築現場の手伝いと言う、結構お馴染みな依頼だ。
とは言っても、二人も三人も必要と言う訳で無いので、今回は銀時のみである。
出掛ける銀時に食事の後片付けをしてた手を止めて、新八はこの為に用意していた弁当を携えて見送りに出て来た。
「はい、銀さん。お弁当です」
「おーあんがとな」
愛用のブーツではなく地下足袋を履いて、銀時は新八から弁当を受け取ると心持ち嬉しそうな表情を浮かべる。
「頑張って下さいね」
そう言ってにこりと微笑む新八に誘われるように身を屈めて、銀時は素早く…掠めるように新八の口唇に自分の口唇を落とした。
瞬間湯沸かし器のように真っ赤になった新八に満足そうににまりと笑みを浮かべると、何時までも初々しいねぇと胸の内で呟く。
「んじゃ、行ってくらぁ」
「…行って、らっしゃい…」
真っ赤になったまま口元を両手で押さえてモゴモゴと呟く様子にさらに機嫌を良くして、銀時は鼻歌交じりに玄関の戸を開けて出掛けて行った。
残された新八は、もーっと呟くと熱い頬を冷やすように右手で頬を仰ぐ。
と…。
「閃時、あれが万年新婚馬鹿夫婦アル。覚えとくヨロシ」
「万年新婚馬鹿夫婦?」
「そうネ」
「ふーん」
「ちょっ!?神楽ちゃんに閃時!?」
背後から何の前触れも無く聞こえた二人分の声に、慌てて振り返った。
其処には、廊下と居間を仕切る戸を少しだけ開けて此方を伺う二人の姿。
ばっちり見られていた事に慌てる新八へ、神楽は酢昆布を齧りながら呆れた表情を浮かべ、閃時は少しだけ不思議そうな表情を浮かべた。
「いや、あのっ!!ち、違うよ!?」
「何が違うアルか。まったく、何時まで経っても新婚気取りでこっちが恥ずかしいネ」
「いや、だからっ!!アレは銀さんがっ!!」
「怒りもしなかった癖に何言ってるアルか」
「か、神楽ちゃ〜ん!!」
ホント、勘弁してぇ〜!!と叫ぶ新八に、ぷぷっと神楽は噴出す。
まったく、何時まで経っても初々しい反応アルと、銀時と良く似た事を思って。
「ま、両親が何時までも仲が良いのは子供としては嬉しい事ヨ。そうアルな閃時?」
「うん」
背中から神楽に抱えられるようになった閃時は、肩越しに顔を覗かれながら問われ、にこりと笑って頷いた。
そんな二人に、ただ乾いた笑いしか零す事が出来ない。
とりあえず、帰って来たら一発殴らせて貰おうと新八はこっそりと溜息を吐いて、後片付けの続きを済ませる為に台所に戻った。
居間からは、神楽と閃時の楽しげな話し声。
二人の声に混じって、相槌を打つかのように定春の控えめな鳴き声がする。
それをBGMに、今日はどう動こうかなと脳裏で予定を立てる新八の表情はとても柔らかかった。
何時もの日常と何一つ変わりがなかったのは…この時まで。

後書き
はいっ!!そんな訳で、坂田さん家の兄妹誕生秘話連載スタート致しました!!
今回は序章的な物で、ぶっちゃけ本格連載は次かその次位と言う…(笑)
ちなみに、今回の長男は七歳です。
あれですね。もの凄い違和感が…(爆死)
七歳の長男は、三歳の時に比べて表情・感情共に表現豊かです。
そんで、父ちゃんと仲良しってか…ね?(何だよ)
三歳の長男が何であんな感じだったのかは、また何れ形にしたいと思ってます。
ってか、三歳・七歳の時はあーでこーなのに、十五歳は本気でどう言う化学変化が起こってあげな事になっているのか…。
書いてる本人が一番謎です(爆)
さー!!さくさく進められるように頑張りますよぉおおぉおぉっ!!
2009.03.28
