他の何も入り込めないように。
丸い丸い
「神楽ちゃん、髪飾り歪んでるよ?」
そう言いながら、神楽の髪飾りに新八の手が伸びて歪みを直す。
「定春、ブラッシングしようか?」
デッキブラシの柄を外した定春用のブラシを持って、大人しく寝そべる定春のブラッシングをする。
「今度姉上と・・・」
にこにこと楽しそうにお妙の話しをする。
「お登勢さん、よかったらこれ食べて下さい」
見切り品が多く手に入ったからと、何時もより多く作った煮物を日頃のお礼に階下のババァにお裾分け。
「あ!土方さん、沖田さんこんにちは。見回りご苦労様です」
普段、どちらかと言えば迷惑を掛けられている真選組の連中にも、にこりと笑ってご挨拶。
新八の丸い丸い頭の中は、色んな人間や色んな事の為に何時もクルクル忙しい。
今は・・・そうだな。
モップで床を拭きながら、頭ん中じゃ今日の晩飯の献立を考えてる。
同じ部屋に居る俺の事なんて、きっと頭から抜け落ちてるんだろう。
のそりと転がっていたソファから起き上がって、足音も立てずに新八の背後に立つ。
俺の身体が作る影が突然新八に覆い被さったせいか、驚いた様に振り返った。
「銀さん?」
不思議そうに見上げて来る黒曜石に似た瞳を見返して、そろりと両腕を上げる。
新八は逃げない。
ただ、ただ不思議そうに目を瞬かせ、コトリと首を傾げるだけだ。
持ち上げた両手を、新八の後頭部に回して包み込む。
俺の両手で簡単に包み込んで仕舞える、丸い丸い小さな頭。
その頭を覆う黒髪がさらりと指の間を滑った。
「銀さん?どうかしたんですか?」
眼鏡のレンズ越し。
無垢な瞳がじっと俺を見詰めている。
少しだけ困った様に、戸惑うように瞳が揺れた。
後頭部を覆う手の角度を少しだけ変えて、掬い上げる様に新八の頭を持ち上げると、それに合わせて顔を近づける。
俺の意図を察したのか、瞬時に紅くなる円やかな頬に口唇の端が釣り上がった。
くるりと丸く大きく開かれる瞳を覗き込んだまま、殊更ゆっくりと口唇を合わせると、ぎゅっと両の瞼は閉じられる。
あぁ、残念。
もっとその瞳を見て居たかったのにと、胸の内で小さく溜息。
でもまぁ良いかと思い直して、後頭部を包んだままの手に力をもう少し込めて触れ合わした口唇の密着を深める。
一度、ほんの少しだけ口唇を離して舌先で新八の口唇を辿れば、微かな吐息と一緒に薄っすらと開かれた。
その隙間から舌を差し込めば、恐る恐ると言うように新八の舌が応える。
ん、んっと鼻に掛かる甘い声が時折零れた。
あぁ、たまんねぇなぁ・・・。
目を細めて、耳まで真っ赤に染め上げた新八を眺める。
今、この両手に収まった丸い丸い頭の中は、俺の事だけ。
何時でも何処でも、この丸い丸い頭の中は俺の事だけを考えてれば良い。
俺以外に目を向けず。
俺以外を気に止めず。
俺以外の声を聞かず。
俺以外を想わなくなれば良い。
くったりと力の抜けた身体を抱き締めて、離した口唇を旋毛に押し当てた。
ゆるりと暗い笑みを浮かべて思う。
この丸い丸い頭の中を俺の事だけにする為に、俺とお前以外の全てのモノを・・・。
消 し 去 っ て 仕 舞 お う か ?
END・・・?