プレゼントは物だけじゃないのさ☆










「いやいやいやいや・・・無いだろ、それは無いだろ」
「大丈夫ヨ。銀ちゃんは喜ぶネ」
「父様、喜びますなのです」
「この際親父が喜ぶとかどうかより、俺が嫌」



十数年前に、二階建てから三階建てに増築された万事屋銀ちゃんの三階は、坂田さん家のキョウダイの部屋と厠。
そして納戸があるだけで、必要が無い限り、坂田さん家の夫婦が上がって来る事は無い。
そんな訳で、キョウダイだけの密談を交わすにはちょうど良いのだ。
三人が居るのは、長男・閃時の自室で念には念を入れて額を突き合せるようにして小声で何事かを相談しあっている。
三人の中心には、長方形方のそれなりに高さの在るモノを綺麗にラッピングされた物。
箱の表面を十字に掛けられたリボンで四つに区切られた右上隅には『Happy Birthday!!』と印字されたシールがペタリと貼り付けられていた。

今日の日付は十月十日。

旧体育の日・・・ではなく。
坂田さん家の一応大黒柱、坂田銀時の四十ウン才の誕生日だ。
それに合わせて前日の夕方に宇宙から戻った神楽と、午後から三人で街に繰り出すとあーでもない、こーでもないと言い合いながら何とか誕生日プレゼントを三人で出し合ったお金で無事購入し、つい十分程前に帰宅した。
後は、階下で何時もより豪華な夕食を作るであろう新八に、手伝いで呼ばれるまでゆっくりしていれば良いだけなのだが、先程述べたように、三人は額を突き合わせて何やら言い合っている。
ちなみに、銀時は三人が帰って来る少し前に散歩と称して外出していた。
毎年、この日のこの時間になると、特に用事が無くても銀時はぶらりと外に出るのが決まりだ。
やはり、分かっていても驚かせたいと言う神楽の言により、強制的に定められている。



「と・に・か・く。普通におめでとーつうだけで良いだろ。俺の為に」
「それじゃつまらないネ。私が」



絶対に嫌だ!!と胸の前で大きくバッテンを作る閃時の腕を、がしりと掴んだ神楽が強制的に広げてバッテンを解いた。
うぎぎぎぎぎっ!!!と攻防を交える二人に、遊んでいるとでも思ったのか、蓮華はきゃっきゃっと楽しげに笑いながら閃時の身体に抱き付く。
そんな蓮華の姿に毒気を抜かれたのか、二人は二度目を瞬かせて顔を見合わせると、とりあえず攻防を止めた。



「やるなら、姉さんと蓮華だけでやれよ」
「ノリが悪いヨ閃時」
「悪くて結構だ」



ちょっとムカつく笑みを浮かべてそう返されて、むぅっと神楽は口唇を尖らせたが、階下から新八の呼ぶ声に気づいて、小さく肩を竦めると三人揃って呼び声に応えを返した。










「そんな事するの?」
「新八もするヨロシ」
「えー」



何時もより少し豪華な夕食の準備中、神楽の提案に新八は微妙な笑みを浮かべる。
その間も夕食を作る手は休む事は無い。



「ほら〜母さんも嫌がってんじゃん。あ、母さん木べら取って」



ちょうど、茹でたジャガイモの皮を居間で剥いていた閃時が木べらを取りに台所に顔を出すと、新八の表情を見てニヤリと笑った。



「嫌とは言ってないネ。閃時も好い加減諦めるヨロシ」
「やなこった」



新八から木べらを受け取ると、蹴ろうとする神楽の足をさっと避けペロリと舌を出して素早い動きで居間に戻った。
一口大に切った鶏肉にから揚げ粉を塗していたせいで其処から動けなかった神楽は、空振りした足をチッと舌打ちしながら戻す。
居間からは、手伝いますなのです!!と言う蓮華の声と、んじゃ支えてるから潰してと穏やかな閃時の声が聞こえる。
そして、四人掛かりで支度した夕食がテーブルに並んだと同時に、玄関からただいまーと間延びした銀時の声が響いた。










この年でと思いながらも、神楽と蓮華に急かされて、普通の店で売っているよりも二周りは大きいであろう手作りケーキに立てられた、火の点いた長い蝋燭四本とその半分程の長さしかない蝋燭を数本を、ふぅっと銀時は一息で吹き消した。
吹き消されると同時に鳴らされたクラッカーから飛び出した紙テープが、部屋の中を縦横無尽に飛び交う。
鳴らした後に、テーブル一杯に並んだご馳走や、銀時にとってはメインであろうバースデーケーキに紙テープが落ち掛けて、慌てた様子で彼方此方から伸びた腕がそれを絡め取った。
ケーキは食後のデザートなので、新八が万事屋でも一番の大皿を抱えて台所に運ぶ。
新八が居間に戻り、定位置に腰を下ろすと家族揃って手を合わせると『いただきます』と声を揃えた。
今も昔も変わらず坂田家の食卓は戦場で、新八は自分と蓮華の分だけを素早く確保すると早々に戦線離脱する。
その後は、食べ盛りの長男と相変わらずブラックホール並みの胃袋を持った長女、そして本日主役で在る筈の父との争奪戦が繰り広げられた。
怒声もあったが、それ以上に賑やかな笑い声が響く。
明らかに、五人で食べるには多過ぎる量の食事は文字通りあっと言う間に皿の上から消え去った。
台所に運んで一時間もしないうちに、大きなバースデーケーキは料理の乗っていた数枚の大皿を片付けたテーブルに戻される。
早く早くと銀時に急かされて、新八がケーキに包丁を入れた。
先ずは縦に半分、次に横に半分。
四等分した内の二つを、早々に用意していた皿に移し変えて、銀時と神楽の前に置く。
普段ならありえない配分だが、銀時はこの日の為に十月に入ってから糖分断ちをしていたので、流石の新八も今日だけはと妥協している。
残った分をまた半分ずつに切ると、それを新八・閃時・蓮華・定春に分けた。
全員に切り分けたケーキが回るのを待って、閃時と新八が立ち上がる。
閃時は足早に自室に戻ると、部屋の真ん中に置かれたままだったプレゼントを手に戻り、新八は和室から風呂敷を持って戻って来た。



「此処はやっぱり新八からネ」



二人が再び腰を下ろしたのを確認して神楽がそう言えば、新八は小さく微笑んで隣に座っていた銀時に向き直した。



「銀さん、誕生日おめでとうございます。僕からのプレゼントです」



風呂敷を受け取った銀時がそれを解けば、中から出て来たのは深川鼠(色の名)の着流しだった。
その上には紺の帯も添えられている。
当然、どちらも既成の物ではなく新八の手で仕立てられた物だ。



「ありがとな、新八」
「どういたしまして。間に合ってよかったです」



へらっと嬉しそうに相好を崩す銀時に釣られて、新八もにこりと笑い返した。
未だに放って置けば、直ぐに二人の世界を作り上げてしまう銀時と新八に、神楽がコホンッと一つ咳払いをして注意を促すと二人はやっとこっちの世界に戻って来た。
はははっと乾いた笑い声を零す二人に、神楽と閃時は軽く肩を竦める。
唯一人、良く分かっていない蓮華だけがコトンと首を傾げた。



「こっちは俺達三人からな。代表して蓮華、渡しといで」
「はいなのです」



閃時の傍らに置かれていたプレゼントを受け取って、蓮華がトタトタと可愛らしい足音を立てて銀時の前に立つ。



「父様、お誕生日おめでとうございますなのです」
「おめでとーヨ、地球のパピィ」
「おめでと、親父」
「おう、ありがとな」



三人からの祝いの言葉を受け取って、蓮華に差し出されたプレゼントを銀時は受け取った。
早速リボンを解いて、丁寧にラッピングを剥がすとガサガサと音を立てながら箱を取り出す。
ぱかりと蓋を開ければ、其処には茶のバイクグローブが納められていた。



「ウィンターグローブか。これから寒くなるからありがてぇわ」
「ってか、今まで持ってなかった事の方が可笑しくね?」



早速右手だけ装着してグッパッと銀時が嵌め心地を確かめていると、閃時が苦笑い交じりに言った。



「よかったですね、銀さん。毎年冬になると手が凍る!!って叫んでましたし」
「いや、ホント辛いのよアレ?」
「これで、冬でも買出しのアシに使い放題ヨ新八」
「うん、ありがとう」
「アレ!?何か俺の為のプレゼントじゃなくなってね!?」
「いいじゃん。二ケツは仕様なんだし」
「仕様なのです!!」



多分意味は分かってないだろう蓮華の楽しげな声に、四人は噴出すとケタケタと笑い声を上げる。
嵌めていたグローブを箱に戻すと、大事に使わせて頂きますと、銀時は三人に笑顔を向けた。



「ちょっと待つヨロシ!!!」



貰ったプレゼント大事そうに傍らに置くと、それじゃそろそろケーキを・・・と言い掛けた銀時を神楽が遮る。
早くもフォークを片手にしていた銀時は、意味が分からず目を瞬かせた。



「銀ちゃん、ケーキはもう少しお預けヨ」
「なんで?」
「イイからフォーク置いて目ぇ閉じるヨロシ」



ふふんっと明らかに何か企んでいますと言った笑みを浮かべる神楽に、銀時は怪訝そうに眉を寄せる。



「ちょ・・・マジでやんの?」
「好い加減諦めるネ」
「・・・だからさぁー姉さん達だけでやれば良いだろ?」



神楽の言葉に何かを察した閃時が、苦虫でも噛み潰したような表情を浮かべるのに、銀時は益々怪訝そうな表情を深めた。



「とにかく、銀ちゃんはさっさと目ぇ閉じるヨロシ!!」
「いや、何か怖ぇんですけど」
「閉じないと目潰しするアルヨ」
「閉じます」



冗談ではなく、本気で目潰しする気満々の神楽の気配を悟って、銀時は慌てて両目を閉じる。



「途中で目ぇ開けたら速攻目潰しネ」



さらりと恐ろしい発言をする神楽に、一体何をされるか分からない銀時はぐっと両瞼に力を込めた。



「閃時、諦めるネ」
「いやいやいやいや、無理だから。諦められる事と諦められない事とあるから」
「あんまり嫌々言ってると、目潰しするアルよ」
「それ目潰しじゃなくて目玉抉り出す気満々の指の形ぃいいぃぃぃっ!!!」
「あーもー。閃時、諦めなさい。抵抗するだけ無駄だから」
「兄様諦めて下さいなのです」



目を閉じている為、一体何が起こっているか見えない銀時ではあるが、ぎゃいのぎゃいの言い合う神楽と閃時のおかげで、大体の光景が想像出来る。



「ぅおーい、かーぐらー。何時までこうしてたら良いんだー?」
「まだヨ!!閃時早くするネ!!」
「チクショー・・・マジありえねぇ・・・」



万が一にも目を開けて仕舞わぬようにさらに瞼に力を込めていた銀時だったが、不満そうな閃時の声に続いて慣れ親しんだ気配が四人と一匹分近付いて来る事に、思わず目を開き掛けた。
が・・・。



「銀ちゃん」
「開けてない!!開けてません!!!」



神楽の鋭い一言に、慌てて力を込め直した。
この時、アレ?今日って銀さんの誕生日じゃね?何でこんな怖い目に合ってんの?と銀時が思ったが、この際そんな事は横に置いておく。



「皆準備はヨロシ?」
「よろしくねぇー」
「せーんーとーきー」
「すんまっせん。よろしいです、はい」



やけに近くで聞こえる二人の声に、ピクピクと瞼を震わせるが、それも何とか耐えて銀時は次に起こる何かに身構えた。
後頭部に定春らしき息遣いを感じて、久々にガブリと齧られるかもしれないと他人事のように思ったのも仕方が無い。



「それじゃ・・・改めて」



何処か笑いを混ぜた神楽がポツリと呟くと、本当に直ぐ近くで小さく息を吸い込む気配を銀時は感じた。



「「「「(銀さん・銀ちゃん・親父・父様)誕生日おめでとう(ございます・アル・なのです)」」」」



何度目かの祝いの言葉に、えっ?と思わず銀時が両目を開いた瞬間。
両米神と両頬に柔らかな感触、そして後頭部にはコツンとやや固めの感触を感じた。



「へっ?うっ?はっ?」



訳が分からないとばかりに目を瞬かせれば。



「ビッグ・サプライズ・プレゼント成功ネー!!!」
「あははははっ!!銀さん鳩が豆鉄砲でも食らったみたいな顔になってますよ!!!」
「ハトさんなのです!!」
「だぁああぁあぁあぁっ!!!もう、マジありえねぇええぇえぇっ!!!」



三人分の軽やかな笑い声と、一人分の叫びが聞こえた。
この全員の反応と先程の感触を思い出して、銀時はぐわりと顔に血液が集まるのを感じる。
神楽の言うビッグ・サプライズ・プレゼントは、家族全員からのキス。
定春はキスなど出来る訳も無いので、鼻先で後頭部を突付いた物ではあるが。



「ちょ、えええぇえぇええぇえぇっ!?も、恥ずかしいわチクショー!!!」
「銀ちゃん真っ赤ヨー!!!」
「父様お顔真っ赤なのです!!!」
「銀さんある意味凄いです、その真っ赤な顔」
「ちょぉおおっ!!マジ見んな頼むから!!!」



ぎゃー!!と悲鳴を上げて両手で慌てて顔を隠すと、ビッグ・サプライズじゃなくてビッグ・バーンって頭が破裂するわぁあぁあぁ!!と、意味不明の言葉を叫ぶ。
そして、赤い顔を隠すのを諦めたのか、がばりと両腕を上げて三人一纏めでぎゅっと抱き締めた。



「最高のプレゼントだコノヤロー!!!」



半ばヤケクソ気味に叫んだ銀時に、三人はさらに大きな笑い声を上げる。
暫しぎゅうぎゅうと三人を抱き締めた銀時は、腕を緩めると未だソファの背凭れを挟んで其処にいた定春に手を伸ばしてわしわしと頭を撫で繰り回した。
ふと、近くに一人足りない事に気付いて視線を巡らせれば、居間の隅で影を背負って打ちひしがれる閃時を見つける。
これが、まだ閃時が十にも満たない年頃であれば、そうでもなかっただろうが、さすがに思春期真っ只中の彼にはかなりキツイ物だったらしい。
あれだけ閃時が抵抗していた理由も分からなくも無い。
先程の赤面など何のそののニヤリとした笑みを浮かべると、銀時はしーっと口唇に人差し指を当てて静かにしているようにと三人にジェスチャーで伝えると、そろりと閃時の背後に忍び寄り・・・。



「受け取れ父の愛!!」
「ぎゃああぁあぁあぁぁぁあぁあ!!??」



がばっと両腕を広げて、完全に油断していた閃時が逃げるよりも早く抱き締める。
閃時からこの世の終わりのような悲鳴が飛び出して、銀時の行動を見守っていた三人は我慢出来ないとばかりに大笑い。



「ほーれほーれ、父の愛を存分に受け取れ息子よ」
「いらねぇえぇっ!!全力でいらねぇえぇぇっ!!つかキモォオォォオッ!!!」



すーりすりと背後から側頭部に頬擦りをかまされて、閃時は逃れようと暴れる。



「二人はほっといてケーキ食べるアル」
「食べますなのです!!」
「そうだね」
「おぃいぃいぃぃっ!!何悠長にケーキ食おうとしてんだぁああぁあぁあぁ!?」



何とか片腕を引っこ抜いて、その腕で少しでも銀時の顔を遠ざけようと悪戦苦闘する閃時を尻目に、三人はケーキにフォークを突き立てた・・・。















後書き

はい!!そんな訳で坂田誕生日小説でした!!!(えー・・・)
約一名可哀想な事になってますが☆(鬼)
時々、長男を弄くりたい衝動が襲ってきます。今回のが良い例です☆(こら)
ってか、後書き書いてて思ったんですが、これだったら坂田家でもよかったんじゃね?みたいなね!!(おい)
でも、二人からプレゼンチュ☆って言うのは、絶対誰かやってるだろうなぁと思うんでコレはコレでと言う事で・・・。
とか何とか言ってますが、実の所、新八誕の小説が自分的に甘くて、あんな感じのをまたやるのが居た堪れなかった(?)ので、今回はギャグチックにしたかっただけだけです(爆死)
新ちゃんと神楽だけだったらほのぼので終わりそうだったし(おい)
ちなみに、左頬は新八、右頬は蓮華、左米神は神楽、右米神は閃時からのプレゼンチュ☆でした!!!
結局、下は上に逆らえないんですよ(笑)
ってか、頭の悪いタイトルですみまっせん!!!!!(爆死)





Happy Bath Day!!!