清く正しく美しく
「「あっ」」
買い物の帰り道、神楽ちゃんと歩いていると、道端に光り輝く
モノを見付けた。
近寄って見てみると、それは一枚の5百円玉で。
「おぉっ!ラッキーネ、新八。
これで久しぶりにおやつが買えるヨ」
「え〜、おやつよりもまず
食費に回したいんだけど・・・
ってダメだよっ!落し物なんだからちゃんと届けないとっ!」
神楽ちゃんの言葉に、一瞬素で答えてしまった。
危ない危ない。幾らお財布が寂しい事になってても、
こう言う事はちゃんとしないとね。
侍たるもの、清く正しく美しくっ!
だが神楽ちゃんは、そんな僕の言葉をヘッと鼻で笑い飛ばした。
「何言ってるネ。これはどっかの誰かの財布と言う名の
天からの贈り物ネ。素直に貰っとくのがヨロシ」
「いや、それが落し物って事だからね?
ちゃんと届けなきゃダメだって」
言い聞かせるようにそう言うと、僕は神楽ちゃんの手から
5百円玉を奪い取った。
第一ちゃんと届けて、半年後に気分良く
名実共に自分のモノにする方が断然良いし。
「んだよ〜、良い子ちゃんぶりやがって。
銀ちゃんなら知らない顔で踏みつけて、さり気なく移動した後
きっちり自分の懐に入れてるアル」
「・・・ダメだからね、それ。
完全無欠でダメな見本だから、それ」
第一カッコ悪いでしょ?と言うと、神楽ちゃんは何かを思い出すように
天を仰いだ後、確かに・・・と頷いた。
どうやら既に神楽ちゃんの前でご披露されていたらしい。
ある意味いい人生の見本だ。反面的な。
「とりあえず届けにいこ?」
そう言うが、神楽ちゃんはまだ5百円玉に未練があるようで、
大変恨めがましい視線を送ってくる。
・・・神楽ちゃんの前で、お金の事言い過ぎたかな。
とりあえず今度からは自重して、居ない所で
攻め立てる事にしよう。
そう心の中で決意していると、
「お、何してんでィ、そんな道端で。
アリの行列でも蹴散らしてんのかィ?」
と、見慣れた顔の黒服が前方からやって来た。
「って何でそんな可哀想な事しなきゃいけないんですか、沖田さん」
ってかこの年でそんな事してたら、アリも可哀想だが、
それ以上に頭が可哀想だ。
「え?だって楽しいってか気分良いじゃねぇか」
そんな事を思っていたら、とても不思議そうにそう返された。
・・・アンタ、その年でまだそんな事してんですか。
あ、でも丁度良いかもしれない。
真選組と言えば一応お巡りさんだ。
例え目の前の人が、駄菓子の詰まった紙袋を
抱えていたとしても・・・だ。
そう思い、僕はここに居た経緯を話し、持っていた5百円玉を
沖田さんへと差し出した。
すると返って来たのは、眉を顰められた嫌そうな顔。
「んなのさっさと使っちまえばいいのに。
きっとアレですぜィ?それはどっかのヤツの財布から
零れ落ちたと言う名の神様からの施しでさァ」
「だからそれが落し物だって言ってんですよっ!
大体一応警察であるアンタがそんな事言ってどうすんですかっ!」
「そうネ。どうせなら金じゃなくて現物支給の
施しにして欲しいアル!!特に酢昆布的な」
「・・・いや、そんな施しもいらないからね?
神楽ちゃんだけだから、それで喜ぶのは。
ってかもし落ちてても絶対食べちゃダメだからねっ!!」
兎に角っ!と、更に5百円玉を差し出すが、沖田さんは
知らん振りだ。
なんでそんなに頑なに拒むんだろうか。
流石に不思議に思い、問い掛けようとしち時に再び僕等へと
聞き慣れた声が掛けられた。
「あ、近藤さん」
振り返ってみれば、少し顔の変形している近藤さんが立っていた。
・・・って、何で顔が変形・・・あぁ、止めておこう。
だって答えは判りきっているもの。
とりあえず近藤さんの顔は見なかった事にしていると、
不思議そうに首を傾げながら僕達の元へとやって来た。
「何やってるんだ?三人固まって。
ってか総悟は確か今日、内勤だった筈じゃ・・・」
「休憩時間でさァ。それよりも近藤さん、
新八達がはした金を拾ったそうなんで、受理しといて下せェ。
俺は忙しいんで」
「いや、アンタ今休憩時間だって言いましたよね?
しかもプラプラ歩いてましたよね?さっき」
「そんな事ありやせんぜィ?俺ほど多忙な男は居ねぇよ。
だから受理する時間も、その書類書く時間もねぇ・・・
ってか誰がやるかそんな面倒臭ぇ事」
「おいぃ!!本音駄々漏れぇぇ!!
隠すなら全面的に隠し通せよ、そこはっ!」
「それすらも面倒臭いんでィ」
オラ、さっさと渡しちまいな。と言って、5百円玉毎
僕の手を近藤さんへと向けた。
それを受け取り、ニッコリと笑う近藤さん。
「あぁ、確かに受け取ったよ。ご苦労だったね?」
そう言って近藤さんは、ニコニコと笑いながら僕と神楽ちゃんの
頭を大きな手で撫でてくれた。
・・・や、ちょっと嬉しいけど、流石に恥ずかしいですから、それ。
「総悟も休憩時間だって言うのに、ご苦労だったな」
って、さっきの会話聞いてました!?
神楽ちゃんの頭から手を下ろしながら、そう言う近藤さんに
少しだけ力が抜ける。
僕が言うのもなんだけど、近藤さんは少しは人を疑った方が
いいと思う。
「全くでさァ」
・・・で、アンタは少しは罪悪感を持て。
白々しくもそう言い、肩を竦める沖田さんに呆れていると、
受け取った5百円玉を丁寧に紙に包み、ポケットに入れていた
近藤さんが、今度は内ポケットから財布を出してきた。
そして、はい。と千円札を一枚、僕の手へと乗せる。
「え?あのこれ・・・は?」
近藤さんの行動の意味が判らず、乗せられたお金と近藤さんの顔に
視線を行き交わせていると、再び頭を撫でられた。
「偉かったからね?これはそのご褒美だよ」
三人でおやつでも買って食べなさい。そう言って最後にポンポンと
軽く頭を叩くと、近藤さんはそのまま歩いていってしまった。
え?あの、でも・・・・えぇ!!?
これって、これでいいの!?
慌てて近藤さんを呼び止めようとすると、不意に手の上にあった
お札を取られ、その代わりに駄菓子が一杯詰まった紙袋を寄越された。
見ればヒラヒラとお札を振る沖田さんが。
「ま、近藤さんがあぁ言ってんだから、素直に
甘えときましょうや」
「いや、アンタは甘えなくてもいいと思うんですが」
「ちなみにその駄菓子は俺からのご褒美でィ。
有難く涙しながら一つ一つ噛み締めて食いなせィ」
「マジでか!?仕方ないから
銀ちゃんに見付からないように一気に流し込むヨ!」
「いや、それ全然味わってねぇだろ」
さっさと近藤さんの歩いていった方向とは反対の方へと
歩き出す沖田さんと、それを追いかける神楽ちゃん。
僕はと言うと、本当にいいのかな?と、戸惑うものの、
急いで二人の後を追った。
そして並んだ僕に、神楽ちゃんがにししと笑う。
「良い事すると、気分がいいネ」
いや、気分と言うか何と言うか・・・
うん、でもやっぱりなんか良いね。
にっこりと笑い、同意する僕に、神楽ちゃんはますます
笑みを深めた。
その後、三人で食べたお団子も、神楽ちゃんと二人で食べた
駄菓子も、普段よりももっと美味しく感じたのは、
多分気のせいじゃないと思う。
うん、やっぱり落し物は届けるのが一番気持ち良いや。
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十代組と近藤さんの組み合わせが大好きですっ!!'`ィ(゜∀゜*∩
あーもーwwホント、和むww頬が緩み捲くるww
近藤さんは、もう皆のお父さんでいいと思いますっ!!!(力一杯)
太門さーん!!!遠慮なくがっつり強奪してすみまっせんっ!!そして、三万打越えおめでとうございますっ!!!