その男、伝説につき
「やっと見つけたぜ、高杉」
久しぶりに来た江戸で一人、気晴らしに街を歩いていると
不意に背後から声を掛けられた。
序に程よい殺気も。
高杉はククッと笑いを零し、ゆっくりと振り向いた。
そこには思った通りの人物、昔の戦友、銀時の姿が。
「おいおい、久しぶりに会ったってのに
そんなに殺気立ってんじゃねぇよ、まだ昼間だぜ?」
「うっせぇよ。なら殺気立つまで探させんじゃねぇっての。
こんな人気のねぇ裏通り歩きやがって」
表を歩け、表を!!そう怒鳴る銀時に、少し呆れる。
「・・・おい、オメー記憶力ってもんの存在を知ってるか?」
確か俺は指名手配されてる身なんだが・・・
と言うか、探しても見つからないが故の指名手配
だと思うのだが。
そんな真っ当な事を考えるが、生憎目の前の男は真っ当ではなかった。
「当たり前だろうが。そんなもんなかったら
テメーみたいな架空の存在に声掛けたりしてねぇよ。
知ってるか?妖怪ってのは人が記憶してる事によって
存在出来てるらしいぜ?
良かったな、覚えてくれてる人が居て」
「何処の古本屋で仕入れてきやがった、
そんな知識。
ってか勝手に妖怪扱いすんじゃねぇよ、この腐れ綿飴」
「んだよ、綿飴馬鹿にすんじゃねぇぞ?
糖分はなぁ、腐っても糖分様々なんだよ」
と、そのままの勢いで糖分について話し出す銀時に、高杉は黙って
懐から煙草入れを取り出し、刻みタバコをちょっと捻って火皿に詰め、
プカリと吹かす。
そして数回プカプカと吹かすと、一吹かししてから灰を落とし、
一度吹き込んで中の煙等を出し切ってから、再び刻みタバコを
火皿に詰めた。
優雅で粋に見える煙管だが、実際はものっそく忙しない。
が、暇潰しにはもってこいだ。
「・・・おい、俺の話聞いてたか?」
気が付けば銀時の糖分演説は終わっており、じっとりとした視線を
高杉へと投げ掛けていた。
それに高杉は吸った煙をブカリと吐き出すと、
「あぁ?人聞きの悪ぃ事言ってんじゃねぇよ。
んなもん、聞くわけあるめぇよ」
「おぉぉぉぉい!!
最初の言葉は何処に掛かってんだ?」
「テメーの話を全うに聞く事を・・・だな。」
「しみじみ言ってんじゃねぇぇぇ!!!!」
怒鳴りつける銀時に、高杉は少しだけ眉を上げると、
吹かしていた煙管からポンと灰を落とす。
「で?何の用だ?」
俺と殺り合いにでも来たのか。そう言ってニヤリと楽しげに笑みを
浮かべる高杉だが、きちんと煙管の後始末をする行動がなんだか切ない。
だが銀時は、それで最初の目的を漸く思い出したようだ。
自分を落ち着かせる為か、一つ深く深呼吸すると、ガシガシと
首筋を掻く。
「んな訳あるかよ。まぁ啖呵は切ったけどな?
今はそれよりも大事な用があんだよ」
とりあえずよぉ。そう言うと銀時は何時もより数倍真剣な表情を
高杉へと向けた。
銀時がこれだけ真剣になる・・・しかも自分に関わる用。
その事に、少しだけ興味が沸き上がる。
大人しく手入れしていた煙管を煙草入れに戻し、続きを促そうとした瞬間、
ヒョコリと表の道からこちらを覗く顔が目に入った。
「あ、やっぱり居た!も〜、行き成り走り出すから
何事かと思ったじゃないです・・・か・・・」
そう言って近付いてくるのは、目の前にいる男の助手で。
銀時の元へと走り寄って来たかと思うと、高杉の姿を見てポカリと
目と口を開けたまま固まってしまった。
しかし銀時はそんな新八の態度に気付いていないのか、
ナイスタイミング☆
と言いながら肩を抱き寄せ、高杉の方を指差した。
「ホラホラ新ちゃん。高杉だよ高杉〜。
よ〜く目を見開いてガン見して頂戴ね」
言われなくても既にガン見だ。
・・・と言うか俺が言うのもなんだが、そう簡単に犯罪者の前に
一般人を晒しだしていいんだろうか。
いや、銀時の元で働いているって時点で既に一般人とは言えめぇか。
いやいや、でも俺を前に固まっているってのは、正しい一般人の
反応か?
繁々と観察する高杉に、固まったままの新八。
微妙な空気の中、銀時一人だけがテンション高めのままだ。
「お、そうだ!見るだけじゃダメだな、うん。
漸く見付けたんだ。新八。
銀さんとお前の明るい未来の為、コイツの着物ベッタベタ
触っときなさい。今だけ許したげるから、俺以外に触れるの」
「アンタとの未来には赤い文字が連なる
虚しい明るさしかありませんよ。
って言うかなんで誰かに触るのに銀さんの許可が必要なんです?
寧ろアンタが僕に触るの、許可した覚えないんですけど」
と言うか最近やけに外出してたのは、この為かぁぁ!!
銀時の言葉に、漸く新八も体の固まりを解いたようだ。
何時ものように突っ込み返すと、肩に乗っていた銀時の手を
軽く叩いて引き離した。
「それに、多分銀さんの言ってるのは例の噂からでしょうけど・・・
ちゃんと高杉さんの着物、見ました?」
息を吐き、少し呆れたように言い返す新八に、銀時は不思議そうな
顔をし、高杉に視線を戻した。
そして次の瞬間、大きく目を見開く。
「あぁぁぁあああ!!!ちょ、高杉、おまっ・・・えぇぇ!?
なんでそんな地味な着物ぉぉぉ!!!」
そう、今日の高杉の着物は、何時もの女物の着物ではなく、
至って普通の着物なのだ。
銀時の叫びに、それまで黙って二人のやり取りを聞いていた高杉が
眉を顰める。
「別に普通だろうが、地味じゃあるめぇよ」
寧ろあの手の着物しか持ってないという方が普通じゃない。
と言うかコレを地味とか言う前に、あっちが派手なだけだ。
そうは思うが、銀時は納得しない。
「い〜や、地味だね。寧ろ高杉じゃないね、そんな着物。」
あ〜もう本当、使えねぇ!そう言って鼻を鳴らす銀時に、
高杉の眉間がピクリと動く。
・・・なんで着物一枚で存在否定をされなきゃなんねぇんだ?
「大体よぉ、テメーは無駄に派手な蝶柄靡かせて
フラフラヒラヒラ漂ってりゃいいんだよ。
なのに滅多に見掛けねぇわ、見つけても使えねぇんじゃ
意味ねぇだろうが!!」
「銀さん・・・一応高杉さんは指名手配されてるんですから、
今のが正統なんだと思うんですけど・・・」
新八の言葉に、高杉も頷く。
そう頻繁に街中を練り歩く指名手配犯なんて聞いた事はない。
・・・まぁ見た事はあるがな。
ヅラとかヅラとかヅラとか。
しかも日頃から派手な行動は慎めとは言われた事はあるが、
派手に漂ってろと言われた事はない。
なんなんだろうか、コイツは。
そんなに真選組に捕まって欲しいんだろうか。
とりあえずムカつくほどブチブチと文句を言っている銀時を捨て置き、
高杉は呆れた視線を送っている新八へと問い掛けた。
「なんだってんだ、コイツは。」
高杉から声を掛けられたという事に、少しだけ新八の体が
ビクリと動いたものの、直ぐに視線を寄越し、苦笑を浮かべた。
「あ〜・・・いやその・・・とある噂がありまして。
それが高杉さんに関連してると言うか何と言うか・・・」
「噂?」
その言葉に、高杉の口元がニヤリと上がる。
どうせロクでもねぇ噂に違いあるめぇよ。
今までの自分がやって来た事柄を思い浮かべ、それがどんな噂なのかと
続きを促すと、新八は大変言い難そうにモソモソと口を開いた。
一つ、高杉を見ると色気力が上がるらしい。
一つ、その上着ている着物の柄の蝶に触ると妊娠確実☆
・・・本当にロクでもねぇなぁ、おい。
「あ、でも本当、単なる噂なんで!寧ろ都市伝説的なものなんで!!」
よっぽど酷い顔をしていたのだろう、目の前の新八が両手を振りながら
慌ててそう言葉を続けた。
何故だろう、都市伝説的と言われると、もっと凹みたくなる。
と言うか今まで自分がやって来た事は
どの辺に捨てられてしまったのだろう。
色事とは全く関係ない、寧ろ殺伐とした事ばかりしてきた筈の
今までの事に思いを馳せる。
が、ある事に気付き、高杉は訝しげな視線を銀時に向けた。
「ってぇ事は・・・だ。アイツがアレだけ俺の着物に執着するってぇのは・・・」
そして次に新八へと視線を移した。
新八は高杉の視線に気付くと、ニッコリと笑みを浮かべ、
「単に馬鹿なだけですよ」
と、至って普通の事のように答えた。
「ちょ、新ちゃん!?何ものっそい笑顔で酷い事言ってんの!?
銀さんは新ちゃんとの明るい未来を現実にしようとだなぁ・・・」
「あぁ、病気ですね。重度の妄想癖って感じの」
銀時の言葉を、ニコニコと笑顔のままぶった切って行く新八の
言葉は冷たい。
序に纏っている空気も更に冷たい。
つい高杉も口を閉ざしてしまう・・・が銀時は黙らない。
「え、何コレ。ツンデレ!?新ちゃんの色気力は
ツンデレですか!?
高杉のお陰でツンデレ力鰻上りですかぁぁ!!?
いや、銀さんSだから。どっちかって言うと言いたい方ですから!
あぁ、でもこのちょっとツンとしたのもいいかも・・・あれ?
銀さん、ちょっと別の扉
開いちゃった!!?」
「そのまま、是非僕とは別の世界で生きていってください」
言い合う二人からそっと視線を反らし、高杉は再び煙草入れへと
手を伸ばした。
そして煙管を吹かし、プカリと煙を吐き出す。
・・・もう帰るか。
寧ろ帰りたい。目に痛いほどの青空を眺めながら、
なんだか妙に懐かしい自分の船を思い出していた。
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二万ヒットされた太門さんの所でフリリク企画を発動されてたので、遠慮なくリクさせて頂きました!!!
リク内容は、太門さんに特別に頂いた『伝説の男』の高杉編で!!!
と、無茶振りしたにも関わらず、こげな素敵な都市伝説を書き上げて下さいましたぁあぁぁっ!!!!
彼女は、ホント天才だと思います。攘夷組弄りのwwww
二万ヒット越えおめでとうございます!!!そして、本当にありがとうございましたぁあぁぁあぁ!!!
私も、例のヤツ頑張りますwwとりあえず、三と七はがっつり出したいと思いますwww(笑)