「う・・・動けない・・・」



万事屋の和室に敷いた布団の中、思わずそう呟いた言葉は妙に空しく響いた。










Give it up 後日談










真夜中に、喉の渇きを覚えて目を覚ましたまではよかったけど。
いざ起き上がろうとすれば、頭を持ち上げる事しか出来ずに溜息を吐く。
右腕は抱き枕よろしく、しっかりと神楽ちゃんがしがみ付いていて。
左隣に眠っている銀さんは、僕の首の下に右腕を滑り込ませ。
左腕で神楽ちゃんごと僕を抱き締めている有様。



そりゃ動けないよ。



暫くどうにかして二人からの拘束が緩まないかと頑張ってみたけど、さらにがっちりと絡む四本の腕に、やれやれともう一度溜息を吐く。
もがいたせいか、少し前まではまだぼんやりしていた思考もクリアになった。
そのついでに、そう言えば今日は二人共朝から妙だったなぁ何て思考を巡らせる。
父上の昔馴染みを見舞う為に二日程休みを貰った分、今日は万事屋の家事をしっかりやるぞ!!と何だか間違った方向に気合を入れる僕を他所に。



面白テレビしてるから座れだの。
今着てる服の袖口が解れてるから、このまま縫えだの。
耳が痒いから耳掻きしろだの。
今日なんか寒くね?家の中でもめっちゃ寒くね?
これは全員でくっついてねぇと駄目じゃね?だの・・・。



どう考えても家事の邪魔をする気満々だった。
今日一日で、何度『邪魔するなぁあぁぁぁあぁっ!!』と叫んだ事か・・・。
あ、思い出したら余計に喉が渇いて来た。
・・・けど、やっぱ起き上がるのは無理そう。
まぁ、何だかんだそんな事があって、結局予定していた半分も家事が出来ずに夜になってしまった訳だ。
明日は今日―日付はとっくに変わってるから昨日か―以上に気合を入れて家事をしなきゃいけないなぁ何て、やっぱり何処か間違った心配をする。
そして、家に帰るつもりだったのに、何やかんやと理由を付けられて万事屋に泊る事になった。
いやまぁ・・・僕が万事屋に泊るのは今に始まった事じゃないから別に構わないんだけど・・・。



何で、こんながっつりしがみ付かれて眠らなきゃいけないんだろう?



寝る前はちゃんと別々の布団に居たよね?
二人ともこんなに寝相悪かったっけ?
ってか、わざわざ布団の境界越えて来たの?コレ。
いいけどね、別に。
今夜はぐっと冷え込むとニュースで言ってたけど、寒さなんて全然感じないし。
あ、だから二人ともこんなにがっつりしがみ付いて来てるのかな?寒いの苦手だもんね。
あぁ、でも・・・。



たった二日僕が居なかった事が寂しかったから。



と言うのなら・・・。



僕は何て幸せ者なんだろうと思ってしまう訳で。



何とか自由に動かせる首から上を動かして。
左隣の銀さんには顎先に。
右隣の神楽ちゃんには旋毛に。
そっと口唇を押し当てた。



大好きですよ。大好きだよ。



その気持ちを出来る限り詰め込んで。
んーっと小さく声を漏らしてさらに擦り寄って来る二人に、くすりと一つ笑みを零し。
喉の渇きは我慢しようと両目を閉じた。
再び僕が寝息を立てた頃。
両隣の二人がそれぞれ、顎と旋毛を押さえてジタバタと悶えて居た事は。



残念ながら僕は知る由もない。




















後書き

『Give it up』の後日談でした☆
眼鏡のあの子は旦那と娘にどんだけ愛されてるかとか、あんまり分かってない気がするんですよ(笑)
そんで、旦那と娘は奥さんとマミィが半端ない程大好きです(爆)

まめまめこ様
後日談っと言う事で、かなり短く纏めてしまったのですが・・・物足りなかったらすみません(おい)
少しでもお気に召して頂ければ幸いです!!`ィ(゜∀゜*∩
2009.12.18