人はそれを、進化と呼ぶか?
坂田閃時、三歳(十二年前)
何時もより早い朝食の後、暫し食休みをした銀時は社長机に立て掛けていた木刀を腰に差し、台所に顔を出した。
「新八ぃ。そろそろ行ってくらぁ」
「もうそんな時間ですか?」
まだ眠っている神楽と閃時の朝食の準備をしていた新八は、玄関に向かう銀時の後を追う。
「今日は夕飯に間に合いそうですか?」
「あー・・・」
ブーツを履く銀時に新八がそう声を掛ければ、仕事帰りに一杯とでも考えていたのか、曖昧な返事が返された。
それに新八は一つ苦笑い、あまり遅くならないで下さいね?と念の為の釘を刺す。
おーっと気の無い返事から、これは午前様だろうと思っていた所で、パタパタと軽い足音が聞こえた。
銀時が振り返れば、まだ眠っている筈の閃時が其処に居る。
「父ちゃん見送りに起きて来てくれたんか?閃時」
立ち上がり、へらりと笑う銀時に閃時がコクリと頷いた。
「じゃあ、いってらっしゃいって言おうか?」
視線を合わせる為にしゃがみ込んだ新八にそう言われ、閃時はまた一つ頷く。
銀時を見上げ、いってらっしゃいっと言い掛けた所でくしゃりと表情を崩すと、ひしっと銀時の左足にしがみ付いた。
「閃時?」
首を傾げながら軽く銀時が左足を上げれば、しがみ付く閃時の身体も一緒に持ち上がる。
落とさない程度に少しだけ足を振ると、しがみ付いたままの閃時がむずがるように頭を振った。
「どしたの?父ちゃんお仕事行けねぇよ?」
銀時が問えば何やら小さな声で応えを返され、良く聞き取れなかった二人は耳を澄ます。
もう一度銀時がどうした?と問えば。
「いっちゃ、やーん・・・」
と、涙交じりの声で訴えられる。
ここ数日、年の瀬が近付いている事もあって大掃除やら年始に向けての買出しやら・・・その他諸々の依頼が増え。
銀時は朝は閃時が目覚める前に出掛け、夜は閃時が眠るか眠らないかの時間に帰宅するのが常であった。
日頃、産まれ立ての雛のように銀時の後ろをちょこちょこと付いて回る閃時が、それが寂しくない訳も無く。
どうやら今朝、その限界を迎えたらしい。
行かせまいと懸命に左足にしがみ付く姿に、だらしない程に銀時の表情が緩むのも仕方がないだろう。
「銀さん」
苦笑い交じりに新八に呼ばれ、口パクで時間と告げられた事に、あーっと声を上げて銀時は頭を掻いた。
すんすんっと鼻を鳴らす閃時を、よっこらせっと抱き上げると視線を合わせる。
「閃時、父ちゃん今日は頑張って晩飯までに帰って来っからさ。
一緒に風呂入ってねんねしようや。な?」
「・・・ぜったい?」
「おー絶対。約束」
ほれっと右手の小指を差し出す銀時に、閃時は小さく頷くと自分の右手の小指を絡めた。
二人で指切り拳万と節を付けて約束をした後、絡めた小指を解く。
暫し解けた小指を見詰めていた閃時だったが、銀時と視線を合わせて小さく笑う。
「じゃあ閃時、父ちゃん仕事行って来っから。いってらっしゃいのちゅーしてくんね?」
「あぃ」
んっと銀時が差し出した左頬に、ちゅっと可愛らしく音を立ててキスをして。
「はやく、かえってきて、ね?」
と、閃時はコトリと首を傾げた。
坂田閃時、七歳(八年前)
「お父さーん!!」
元気の良い呼び声と共に、うつ伏せで眠っていた銀時は背中にボスッと衝撃を受けてぐぉっと呻いた。
「朝だよー!!起きてー!!」
「ちょ、閃時・・・父ちゃん内臓口から出ちゃうからっ!!」
腰より少し上に馬乗りになったまま跳ねる閃時に、ギブギブッと銀時は慌てて畳を叩く。
それでも、起きてー!!と背中の上で跳ねられ、畳を叩く手がパタリと落ちた。
「お父さん?」
しーんっと言う擬音語が似合いの状況に、跳ねるのを止めた閃時が首を傾げて銀時の顔を覗き込もうとした瞬間。
ぐるんっと視界が回転して、ふぇっ?と間の抜けた声を零したかと思うと、伸びて来た二本の腕に布団の中へと引き摺り込まれた。
きょとりと閃時が目を瞬かせれば。
「悪戯坊主捕獲ぅ〜」
と、何処か楽しげな銀時の声が頭上から降って来た。
「捕獲された閃時君は、罰として父ちゃんと二度寝の刑に処されます」
「だーめー!!今日はお父さん、剣術の稽古見てくれるって約束したぁー!!」
「見るよー見ますよー。でも、もうちょい寝させて。父ちゃん眠ぃ」
ジタバタと腕の中でもがく小さな身体を押さえ込むように両腕に力を込め、銀時は閃時をしっかりと腕に抱き込む。
それと一緒に頭を撫でれば、徐々に抵抗は治まった。
「やくそくぅ・・・」
「分かってるって。もうちょい寝て、起きたら朝飯食って道場行こうな」
「うん・・・」
トントンッとリズムを付けて銀時が背中を叩くと布団の温かさには抗えなかったのか、閃時は銀時に擦り寄り少しの間を置いて寝息を立て始める。
それに釣られて一つ欠伸を零すと、銀時ももう暫しの眠りに意識を沈めた。
次ぎに二人を起こしに来た新八と神楽は、その光景に顔を見合わせ。
クスクスと小さな笑い声を零した。
坂田閃時、十五歳(現在)
「待ちやがれ!!この馬鹿親父ぃいぃいいぃぃっ!!」
「誰が待つかボケェエェエエェエェェッ!!」
今日も今日とて、坂田さん家の父子が元気に追いかけっこをしていた。
理由は至極簡単である。
新装開店したパチ屋に行きたい父と、依頼が入っているので、引き摺ってでも連れて行きたい息子のマジバトルであった。
こっそりパチンコに出掛けようとした銀時を、閃時が発見した瞬間からその追いかけっこはスタート。
この光景、はっきり言って日常茶飯事で。
しかも、父子揃って目立つ銀髪ともなれば、軽くかぶき町の名物となっていると言っても過言ではない。
ドドドドドドッ!!と、見事なドップラ効果を残しながら走り去る二人の姿を道行く人達は。
今日も万事屋さんの父子は元気だねぇー。
と、生温かくも優しい眼差しで見送るのだった。
それはさて置き。
「好い加減・・・観念しやがれコノヤロォオォオオォォォッ!!」
中々縮まらない距離に業を煮やした閃時は、そう叫ぶと同時に腰の後ろに並べ付けたボックスポーチの一つからピンポン球程の大きさの球を掴み出すと、左足で急ブレーキを掛けた。
当然、突然の動きに上半身が付いて来れる筈も無く、ぐんっと前のめりになる。
それに合わせて右腕を大きく振り被って、閃時は持っていた球を力の限り銀時に向かって投げ付けた。
球は前を走っていた銀時の背中の中心にクリーンヒットし、ぎゃっ!?と短い悲鳴が聞こえる。
どれ程の剛速球だったのか、銀時の身体が『く』の字に近い形で仰け反った。
銀時を強襲した球はダメージを与えるだけでなく、衝撃にパカンと割れると極細のワイヤーで出来た網を吐き出し銀時を拘束する。
「何だコレェエェエェェッ!?」
「対親父捕獲用道具。命名『スパイダーネット』」
蓑虫のような姿で道端に転がった銀時が拘束から逃れようとジタバタと諦め悪く暴れる様子に、閃時は腰に手を当ててニヤリと笑った。
が・・・。
「こんな事で・・・父ちゃんが諦めると思うなよぉおぉおおぉぉぉっ!!」
等と雄叫び、変な所で根性を見せるマダオが蓑虫のまま立ち上がり、揃えた状態で拘束されている両足で、銀時はぴょんこぴょんこと跳ねて逃げる。
その諦めの悪い姿に、ビキッと音を立てて米神に青筋を浮かべた閃時は。
「その気合を仕事に回せぇえぇぇぇぇえぇぇっ!!」
本日何度目かの怒声を上げ、素早く手首に装着した皮製のリストバンドから高強度特殊ワイヤーを引き出し投げ付けた。
二重の拘束にぎゃっと再び銀時が悲鳴を上げるのを無視して、思いっきりワイヤーを引けば見事に引っ繰り返る。
「ったく・・・毎度毎度手間掛けさせんじゃねぇよ」
「おぃいぃいぃぃぃっ!!どうなのコレ!?父ちゃんへの扱いとしてどうなのコレ!?」
「黙れ馬鹿親父」
不機嫌そうに表情を顰めてワイヤーを手繰った閃時は、足元で喚く銀時をぐしゃりと踏み付けて黙らせた。
以上、坂田閃時の進化の様子をご覧頂きまして。
真にありがとうございます。
「って、待て待て待てっ!!七歳と十五歳の間に何があったの!?
可笑しくね!?進化って言うかもう別人じゃね!?」
「親父の生活態度省みれば、俺がこうなるのは当然じゃね?」
「いやいや、どう考えてもミッシングリンクが存在してるよね?
確実に存在してるよねぇぇえぇぇっ!?」
「煩ぇ馬鹿親父」
後書き
『閃時の三歳と十五歳の性格と言うか、その他諸々の変化について』なリクでした。
やっつけ仕事なのでグダグダ☆-(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ
いやー・・・。ホント、ね。何がどうなったらこうなったのか・・・。
未だに書いてる本人が謎何ですよね。長男の成長の仕方(笑)
誰か予想して、私に教えて下さいませ!!(待てコラ)
K桐・K太・T美
本リク、結局出来ずにホントすまんとです・・・orz
でもね。あれは無理だと思うよ?詰め込み過ぎだと思うよ!?
長編連載に向けて、プロット作り頑張ってみまーす・・・。多分、確実挫けそうだけどな!!
企画参加ありがとねー!!
2009.12.18