あぁ、本当にコンチクショー。
惚れたら最後
起きろと急かしても、寒いから嫌だと布団に包まって駄々を捏ねる三十路も目前のオッサンに、溜息を吐く僕を誰が責める事が出来ようか。
片手は腰、片手は額に手を当てて、清々しい朝に似合わない盛大な溜息をもう一度吐く。
溜息を吐くと幸せが逃げると言うが、幸せを逃がしても溜息を吐きたく状況が多過ぎるのでどうしようもないだろうと思う。
「銀さん!!今日は久しぶりに晴れたんですから布団を干したいんです!!
起きて下さい!!ってか、起きろこのマダオ!!」
ぐっと布団の縁を掴んで引っぺがそうと奮闘するけど、銀さんの力は強い。
ふぎぎぎぎぃっ!!と、どれだけ力を込めた所で無意味だった。
「こ、んの・・・っ!!神楽ちゃーん!!手伝ってー!!」
「はいヨー!!」
こうなりゃ最後の手段と声を上げれば、スパンッと襖を開いて神楽ちゃんが飛び込んで来る。
飛び込んで来て直ぐに状況を察した神楽ちゃんは、キランッと蒼い瞳を輝かせて何の躊躇も無く掛け布団では無く敷布団を掴んだ。
そして・・・。
「ホワチャーッ!!」
と、気合の篭った掛け声と共に両腕を振り上げる。
当然・・・その上で寝ていた銀さんは、悲鳴を上げて部屋の隅まで転がって行った。
それでも、意地で掛け布団を離さないのは流石と言うか・・・何と言うか・・・。
「観念するヨロシー!!」
諦めの悪い銀さんに神楽ちゃんは畳を蹴って飛び上がり、問答無用でその身体の上に着地する。
ドスッと言う鈍い音に続いて銀さんの悲鳴が聞こえたけど、あえて気付かない振りをした。
「行って来ますヨー」
「はい、いってらっしゃい。気を付けてね」
神楽ちゃんの協力もあって無事に布団を干す事が出来た後、朝食の片付けをして洗濯掃除と忙しく動き回っているとあっと言う間にお昼になった。
当番制なのに、それを守られた事なんて月に一回か二回ある程度で、結局僕が昼食の用意をする。
朝の無体な―と言っても、悪いのは銀さんだ―な仕打ちに、未だ怒っていると言うよりも拗ねている銀さんは、黙々とそれを食べてソファに転がった。
何時もの事だと、神楽ちゃんと顔を見合わせて肩を竦め、僕等はそれを流す。
昼食の片付けをしている途中で、遊びに出掛ける神楽ちゃんが行って来ますと言うので、台所から顔を出してそれを見送った。
片付けを済ませて、暫しの休憩を取ろうとお茶を煎れた湯飲みを二つ持って居間に向かう。
「銀さん、お茶どうぞ」
そう声を掛けてテーブルに湯飲みを置いても、銀さんはぴくりとも動かない上に返事の一つも返さない。
こうなって来るとマダオはマダオだが、どっちかと言えば聞き分けの悪い子供と一緒としか思えなかった。
最初の頃こそ、まさかイイ大人がそんな態度を取るとは思わず、何か悪い事をしてしまったんだろうかとオロオロしたりなんかもしたけど・・・。
気付けば長い付き合いとなった中、そうやってオロオロする事も無くなり、放置するのが一番だと悟った。
テレビを点けて適当な番組を流しながら、ズズッと熱いお茶を啜る。
全身で拗ねてますと言う態度を取っているのに、それに対して何のアクションも起こさない僕に、銀さんがチラチラと視線を送って来るが・・・。
完全に無視の姿勢を貫く。
だって、一々構っていると切りが無いんだもん。この人。
半分程お茶を飲んで、はぁーっと息を吐き出した。
何で僕は、こんな駄目駄目な大人を好きなんだろうと、思わず自問自答。
確かに、銀さんには良い所がある。
けど、それを容易く上回ってしまう悪い所だらけだ。
良い所を上げろと言われれば、直ぐにネタは尽きてしまうけど。
悪い所を上げろと言われれば、延々と上げ続けられる自信がある。
嫌な自信だけど、事実だからしょうがない。
本日何度目かの溜息を吐いて、遂に不貞寝に突入した銀さんに、やれやれと軽く頭を振る。
そろそろ干していた布団も良い頃合だと思い出し、お茶を飲み干して立ち上がった。
夕方、最近は日が暮れるのが早くなったので先に洗濯物を取り込んで買出しに出る。
今日は、別に特売をしている訳でもなかったので、寝ている銀さんを起こさずに。
昼過ぎから眠っているにも関わらず、銀さんはまだ眠っていた。
これで夜もきっちり眠る事が出来るんだから、逆に凄いんじゃなかろうか?
何て、どうでも良いような事を考える。
好い加減起きてるだろうと思い万事屋に辿り着けば、部屋の中はしんと静まり返っていた。
玄関に在ったのは銀さんの草臥れたブーツだけ。
神楽ちゃんと定春は、遊びに出たまままだ帰っていないらしい。
本気でまだ眠ってるんだろうかと訝しがりながら、とりあえず買って来た物を台所に運んで片付けた。
漸く居間に顔を出せば、買い物に出掛けた時同様、ソファに寝転がって鼾を掻く銀さんの姿があってガクンッと肩を落す。
人は、人生の三分の一を睡眠に当てると聞くが、この人の場合それだけじゃ済まなそうだ。
好い加減、寝過ぎて脳味噌が解けるんじゃ無いかなんて、ありえない心配までしてしまう。
まぁ、寝ていてくれた方が家事の邪魔をされなくて良いと思考を切り替えて、夕飯の支度を始めるまでの間に洗濯物を畳んで仕舞おうと和室に向かった。
その途中。
陽が落ち始めたのに合わせて気温が下がって来たせいか、銀さんがくしゃみを一つ零す。
視線をそちらに向ければ、小さく唸りながら少しでも暖を取ろうと、窮屈そうに身体を丸めていた。
(まったく・・・)
半ば色んな事を諦めて、僕はそのまま和室に入る。
押入れから毛布を引っ張り出し、居間に戻った。
バサリと少し乱暴に毛布を掛けて顔を覗き込めば、銀さんの眉間に寄っていた皺が緩々と緩む。
もぞもそと窮屈そうに丸めていた身体を伸ばし、何処かほっとしたように緩む表情に苦笑った。
(仕事しないし、糖尿予備軍の癖に甘い物際限なく食べるし、家事の一つも手伝わないし。
未だにジャンプを愛読してるし、直ぐに拗ねるし・・・)
ソファで眠る銀さんの頭の横にしゃがみ込んで、緩んだ頬を突付きながら銀さんの悪い所をつらつらと上げて行く。
これ以上は止まらなくなると判断して、思考を中断する。
もう、これが日常だと割り切って、洗濯物を畳もうと立ち上がった。
毛布を掛けてから何度か銀さんが身動いだせいか、肩から少し毛布がずり落ちてたので掛け直してやる。
怪我には強いのに風邪には弱いから。
看病するのも大変だからと言い訳をしながら。
最後にポンポンっと軽く肩を叩いて、今度こそ洗濯物を畳む為に和室に向かおうとした。
不意に、うぅん・・・と小さく銀さんが唸り、目が覚めたかな?と見下ろす。
見下ろした先で、ぼやっと銀さんは目を開いて見上げて来た。
「毛布・・・」
「アンタ、風邪引き易いですからね」
ボソリと零された言葉に苦笑いつつ応えれば、もう一度うぅんっと唸る。
徐に伸びて来た手に、手を掴まれて軽い力で引かれた。
促されるままにもう一度しゃがみ込めば、銀さんは握った僕の手を頬に当てて、猫のように擦り寄る。
「しん、ぱち・・・」
「はい?」
「あんがと・・・だいすき」
まだ半分以上夢の中に居るのか呂律の怪しい口調でそう呟いて、銀さんはまた寝息を立て始めた。
後に残されたのは、不意打ちの『だいすき』の言葉に真っ赤になる僕で・・・。
見習いたくない大人の見本市みたいな癖に、まるで駄目なおっさんの癖に。
それでもやっぱり僕は。
悔しい位にこの駄目な大人が好き何だと、再認識させられた。
あぁ、本当に悔しい、腹も立つ。
それでも、それでも・・・。
「僕も大好きですよコノヤロー・・・」
小さく小さく呟いて、悔し紛れに眠る銀さんの頬にちゅっと軽く音を立ててキスをした。
惚れた方が負けとは、上手い事言ったもんだと思いながら・・・。
後書き
『普段ダメダメな銀さんに対して、ふとした瞬間に 『チクショウ。やっぱり好きだな、この人のこと』悔しいけど、やっぱ好きなんだよな。な感じの新ちゃん』な、リクでした!!
後半、坂田が羨ましくなって殴りたくなりました☆(おーい)
ホント、すみません。自分で書いておいて何ですが・・・。
坂田羨ましいんじゃコノヤロー!!と、叫びました(病院に行きなさい)
誰か、この胸の黒いの取って下さいぃいぃいぃぃっ!!(殴)
空の碧様
何だか、短く纏め過ぎた感じがするのですが・・・。すみませんorz
リク、クリア出来てますかね?(汗)
本当なら、碧さんの所の新ちゃんみたいに可愛くしたかったのですが・・・。
私には無理でした!!(元気良く挙手)
何時も何時も構って下さってありがとうございます!!
そして、企画参加ありがとうございましたぁあぁぁぁっ!!<(_ _)>
2009.11.29