※この小説は、白血球王編の設定が盛り込まれております。
それでも大丈夫!!とおっしゃって下さる方は、スクロールして本編へどうぞ☆
限界を突破せよ 後編
道なき道を駆け抜けて、神殿を見下ろす事の出来る崖の上に到着した二人は、膝に手を当ててぜぇぜぇと必死に呼吸を整えていた。
額から噴出す汗を手の甲で拭いカウンターを確認すれば、まだ猶予はある。
思いっきり息を吸い込んでゆっくりと吐き出して、さて、これかどうするべきかと崖下を見下ろした。
視線の先には、整然と隊列を組む全身黒タイツの群れ。
「ってか、何で全身黒タイツゥゥウゥウゥゥウゥッ!?」
「馬鹿っ!!見つかるっ!!」
「ぶっ!!」
思わず突っ込む閃時に、白血球王子は慌てて閃時の後頭部を掴むと地面に伏せた。
幸いな事に、向こうにまでは声は届いてないようだ。
「ちょ・・・なぁ・・・。普通の白血球は全身白タイツで、ウイルスは全身黒タイツなのが普通なのか?」
「無論だ」
きっぱりした返答に、さいですかと疲れたように適当な相槌を打って、未だ抑え付ける手を頭を振る事で落とす。
「つーかさぁー。何で此処まで増殖してんのに気付かないかねぇ君達は」
「ウィルスが先に此処を狙ったと言う前例がないのだ」
だから、どうしても警備が手薄になってしまっていたと、拗ねるように呟かれ思わず苦笑う。
「まぁ、良い勉強になったんじゃね?次からは要所要所の守りは厳重にってよ」
「貴様に言われるまでもないっ!!」
「はいはい。ってかよ・・・防御システムとかそう言う気の利いたもんはねぇ訳?此処」
「ある」
「いや、あんのかよ。それ作動させとけよ」
「多分、防御システムは破壊されていない。
破壊されていれば、此方にその異常は直ぐに伝わるようになっているからな。
どうにかして作動させて、中に居るだろうウィルスを駆除して魔王を叩く事が出来れば何とかなるかもしれん」
「無視か。おい、無視なのか。俺の言葉は無視なのかっ!?」
「問題は、この軍勢の中。どうやってその目を掻い潜って神殿内に入るかだが・・・」
「だから聞けよ。何コレ?完全スルーモード?会話のキャッチボールしろよコノヤロー」
「や、オメェも父ちゃんの話し聞かない事多いからね?
父ちゃんそれで何時も泣きそうになってるからね?実は」
「親父は下らねぇどーでも良いような事ばっか言ってるからだろうが・・・って、おぃいぃぃいぃっ!!
何で居んだよ馬鹿親父っ!!」
「ぐはっ!!」
会話のキャッチボールで暴投ばかり繰り返す事に溜息を吐いた所で聞き慣れた声が割って入り、極普通に返答した事で漸く閃時は可笑しな事に気付いた。
ばっと勢い良く自分の隣に視線を向ければ、当然のように傍らにしゃがみ込んでいた銀時を発見して条件反射の如き勢いで殴り飛ばす。
「ちょっ!?行き成り何て事すんの!?」
「いや・・・意味無く親父が近くに居ると殴り飛ばさなきゃ行けない使命感が」
「そんな使命感今直ぐ捨てろぉおぉおおぉぉっ!!」
「あーもーはいはい。ってか、マジで何で居んのよ親父」
「あぁん!?・・・あー何かよー。原チャの調子悪くてじじぃに診て貰おうって思ってよ?
工房に行ったらオメェが先に行ってるからって・・・。
コレ渡されて問答無用で叩き潰されて、たまの口の中に放り込まれた」
コレと言って、掌に収まるレーダー的な物を渡されて閃時は首を傾げる。
液晶部分を覗き込めば、三角の中に丸が点滅していた。
どちらがどっちの表示かは分からないが、此処に来る前に渡された二つの装置のどちらかに、レーダーに反応する発信機でも組み込まれていたのだろうと、閃時は納得すると白血球王子へ視線を戻した。
「なぁ・・・その防御システムの場所は分かってんのか?」
「神殿内なら、目を閉じていても何処に何があるか分かっている。
神殿内に入る事さえ出来ればの話だが・・・」
「じゃあ、もう一個。白血球軍はどっちから来る?」
「メインシステムから最短距離で来ると思うから・・・あっちだ」
閃時の問いに首を傾げながらも白血球王子は、白血球軍が進行して来るだろう方角を指差す。
「親父。聞いてたか?」
「何をよ?」
「白血球軍が来る方向だっつうの」
「あっちだろ?」
察しろよとでも言いたげな閃時の視線にムッと口唇を尖らせるが、銀時は先ほど白血球王子が指差した方を同じように指差した。
それに満足気に一つ頷いた閃時は徐に立ち上がったかと思うと、銀時の腕を掴んで立ち上がらせる。
「作戦名は『命を大事に』・・・って事で」
「は?」
余りにも突然の言葉に銀時は目を瞬かせるが・・・。
「死ぬ気で白血球軍に向かって逃げろ」
と、にっこり笑顔全開の閃時に有無を言う暇も無いままに崖から蹴り落とされた。
「ぎゃぁあぁああぁぁあぁあぁあぁあぁっ!!!?」
文字通り崖の上から転がり落ちて行く銀時の悲鳴は、見事なドップラ効果を残しつつ最後にぎゃっと短い悲鳴で途切れるが・・・。
「無理無理無理無理無理ぃいぃいいぃいぃいぃっ!!」
今度は別の悲鳴と共に、地鳴りのような音が響く。
そっと崖下を伺った閃時の視線の先には、銀時を先頭に未だ見えぬ白血球軍に向かうように動くウィルス軍の姿。
それはまるでハーメルンの笛吹き男の如き光景だったと、後に閃時は語るが今はどうでも良い事なので横に置いておく。
兎にも角にも・・・ウィルス軍は見事に神殿周りから姿を消した。
「よし・・・乗り込むかっ!!」
「いやいやいやいやっ!!えっ!?いいのかっ!?いいのかあれぇぇええぇえぇっ!?」
「心配すんな。この程度でくたばるようなら、もうとっくにくたばってるから」
「そ・・・そう言う問題か?」
「うん」
大きく頷く閃時に米神を指で揉み解していた白血球王子だったが、何事もなかったかのように崖の斜面を滑り降りる姿に、慌てて後を追う。
二人は尊いかどうかは別として、銀時の犠牲のおかげで苦も無く神殿内に侵入すると、直ぐに防御システムを作動させる為に奥へと向かった。
が、敵の本拠地に乗り込めば戦闘を避けられる筈も無い。
廊下の角を曲がった瞬間、ウィルスの一体と鉢合わせた。
「な・・・っ!?」
何者だっ!?と完全に問われる前にふっと身体を沈めて一気に踏み込んだ閃時が腰の刃引き刀を抜刀すると同時に、例の鍔の部分から噴出した光が刀身を包み込む。
あえてそれには意識を向けず、低い姿勢から右切上げに刃を走らせた。
確かな手応えの後、輝く刀身で残された軌跡を追うように、ウィルスはドットと化して消滅する。
初めて目にする装置の威力に、閃時は思わず短い感嘆の口笛を吹いた。
そして肩越しに振り返ると、背負った剣に手を掛けた中途半端な姿勢でクルリと左右色違いの瞳を丸くさせた白血球王子に言い放つ。
「先手必勝」
にひっと笑う閃時に、パチリと目を瞬かせた白血球王子は、無茶をする・・・と小さく呟いた。
「おら、サクサク行くぞ。見慣れない装置があったらとりあえずぶっ壊すって事で」
「アバウトにも程があるぞ」
突っ込みをはいはいと軽く流せされて、幾らか不満そうな表情を浮かべたが、刻々と迫っているタイムリミットに白血球王子はこっちだと閃時を促した。
そして、無事に防御システムを作動させ、中に残っていたウィルスを駆除しながら、魔王の元に辿り着く。
白血球王子に魔王が気を取られている内に閃時は蒸気に紛れて天上へと駆け登り奇襲を掛け、ウィルスの増殖に必要だった装置も破壊する事に成功した。
今は・・・己が力を溜める為の時間を稼ぐ為に、自ら囮となって神殿内を駆け回っている。
「本当に・・・無茶ばかりする」
そう言いながら、文句を言いつつもそれに乗っかる自分も自分だがと苦笑って、白血球王子は一つ深呼吸をすると背負った剣を抜き正眼に構えた。
「はぁぁああぁああぁぁああぁっ!!」
強く握り締めた柄から刀身へ、持てる力の全てを注ぎ込む。
白く輝く刀身。
額から滲み頬を伝う汗。
気を抜けば、刀身へ注ぎ込んだ力が逆流し暴走するかもしれない危機感。
それでも・・・。
「俺はオメェを信じる。だからオメェも俺を信じろ。
二人で限界、突破してやろうぜ」
そう言って不敵に笑う姿が脳裏を過ぎり、白血球王子も口唇の端を吊り上げた。
そして、一瞬だけ浮かべた笑みを掻き消すと・・・。
「坂田閃時ぃいぃいぃいぃっ!!」
吼えるように、閃時の名を叫んだ。
「ほーらっ!!鬼さんこちらっ!!手の鳴る方へっ!!」
「えぇいっ!!ちょこまか逃げるな小童っ!!」
威力は低いが、連続して打ち込まれる衝撃波を猫のような身のこなしで避けながら、閃時は神殿内を駆け回っていた。
完全に頭に血が上っているのか、魔王は白血球王子が閃時共に居ない事に気に掛ける様子は無い。
先ずは一人潰してからと考えているのかも知れないのだが・・・。
チラリと肩越しに振り返り相手との距離を測ると、閃時は足の裏に力を込めて急制動を掛けて反転した。
崩れ掛けた体勢を床に片手を突く事で防ぎ、間合いを一気に詰めると斬り掛かる。
だが、それは例の変形した羽によって阻まれた。
ちょうど腕を頭上で交差させた形で防がれ、ちっと舌打ちを零したが、再び魔王が衝撃波を打ち出す事に気付き飛び退る。
しかし、それよりも早く腹目掛けて衝撃波を打ち込まれた。
咄嗟に刃引き刀を盾のように身体の前に立てたが、分断する事は出来ずそのまま壁に叩き付けられる。
「かはっ!!」
衝撃の強さに肺の中の空気が強制的に排出され、一瞬呼吸が止まった。
ぐらり、床に向かって倒れ込む閃時へ追撃の衝撃波が放たれる。
が、左手を横に薙ぎ払った瞬間、閃時の身体はそれに引っ張られるようにして横に飛んだ。
そのまま再び壁に叩き付けられたが、くるりと身体を回転させ、重力に捕まえる前に床を蹴る要領で閃時は壁を蹴る。
「何っ!?」
ありえない動きに驚愕する魔王の一瞬の隙を見逃さず、振り被った刃引き刀を唐竹に振り下ろした。
切っ先は魔王自身には届きはしなかったが、反射的に伸びて来た羽の片方だけは切り落として飛び退る。
其処から侵食されるようドット化が始まるが、もう一方の刃に変形した羽がドット化する部分を躊躇無く切り捨てた。
しかし、それで終わりではない。
瞬き程の時間の後、其処からずるんっと切り落とされた部分が生えて来たのだ。
「蜥蜴の尻尾切りってかっ!?つーか何かキモッ!!」
「キモイ言うなっ!!魔王の心も傷付くんだぞっ!?」
「いやいやいや。キモイからね?それ、マジでキモイからね?」
「だからキモイと言うなと言っておるだろうがぁあぁぁぁっ!!」
吼えた魔王の両手から、連続射撃にも程がある勢いで衝撃波が打ち出される。
そして、枝分かれして本数を増やした刃にも襲い掛かられた。
あぁ、これは自分の悪い癖だと閃時は苦笑う。
ピンチの時こそ、相手を余計に煽る言葉を綴ってしまうのは。
だが、きっとこれは仕方がないのだ。
「何せ・・・宇宙一馬鹿な侍の息子だからなっ!!」
叫んで振り上げた左手・・・正確には左の手首に装着している皮製のリストバンドから銀色の細い光を天井に向かって走らせた瞬間、床を蹴る。
キュウゥッ!!と何かを巻き上げる微かなモーター音と共に、通常ならもう落下に変わっている筈の閃時の身体は上昇を続けた。
宙に浮いた足元の下。衝撃波と幾つ本もの刃が、床や壁を破壊する。
「どーこ狙ってんだ」
慌てて上を向く魔王にニヤリと笑って、素早く閃時は柄を咥えた。
自由になった右手を腰の後ろに回すと、腰の後ろに付けた皮製のポーチから何かを取り出して魔王の足元を狙って投げ付ける。
パンッと小さな破裂音の後、只でさえ粉塵で視界が狭まっていたのに上乗せするかのように白煙が辺りを包み、閃時の姿を隠す。
「小賢しいわっ!!」
姿は見えずとも位置は分かっているとばかりに、魔王は刃を操る。
しかし・・・貫いた感触は無い。
「こっちこっち」
「ぬっ!?」
「違うこっちだって」
「己っ!!」
「ほーら鬼さんこーちら」
声を頼りに足を進め闇雲に刃を操り衝撃波を打ち出すが、粉塵と白煙の中、爆音と破壊音と共にケラケラと笑う閃時の声が響く。
そして・・・。
「坂田閃時ぃいぃいぃいぃっ!!」
吼えるように叫ぶ白血球王子の声が。
何だと!?と、白く塗り潰された視界の中で魔王は必死で二人の姿を探すが、二人を見つけるよりも先に、視界の端を過ぎった銀色の微かな光に自由を奪われた。
「なっ!?」
ぐるりと身体に巻き付くそれを振り解こうともがくが、それは高強度特殊ワイヤー。
そう容易く切れる代物ではない。
「王子ぃいぃぃっ!!ぶちかませぇええぇええぇぇっ!!」
裂帛の気合いの篭った閃時の雄叫びと共に、魔王の身体が宙を舞う。
「何ぃいいぃいいぃぃっ!?」
粉塵と白煙の中から放り出された魔王が見たのは、刀身を倍以上に見せる白い光に包まれた剣を構える白血球王子の姿。
「食らえぇえぇえぇええぇぇっ!!!」
白血球王子もまた、裂帛の気合いの篭った雄叫びと共に剣を切り上げる。
「ぐぁあぁあぁぁぁあぁっ!!」
剣から迸る光の激流に飲まれ、魔王は断末魔の叫び声を上げてドットと化し・・・消滅した。
カランカランッ・・・と、何処かで破片が落ちる音がする。
それ以上に白血球王子の耳には、自分の荒く乱れた呼吸音が響いた。
持てる力の全てを魔王にぶつけた事で、立っているのがやっとだ。
だが、それも限界だったのか、ガクリと膝が折れ前のめりに倒れる。
受身を取らなくてはと思いはしても、もう・・・本当に限界だった。
「おっと」
そんな白血球王子を支えたのは、誰であろう閃時だ。
抱えるようにして支え、先ずは膝を突かせるとゆっくりと腰を下ろさせる。
白血球王子が床に尻を付けたのを確認して、閃時もその隣に腰を下ろし、あーっと声を上げるとそのまま後ろに倒れ込んだ。
それを暫し眺め、白血球王子も後ろに倒れ込む。
漸く薄れて来た粉塵と白煙の中、二人はパイプや配線、その他諸々の何かが縦横無尽に走る天上を見上げた。
最後に、魔王は此処が自分の企みの一歩を踏み出した場所だった事に気付いていたのだろうかと二人は思ったが。
それも最早どうでも良い事だった。
「・・・ボロボロだな。貴様」
「そう言うオメェはバテバテだな」
天井を見詰めながらお互いの姿に感想を零す。
確かに、閃時は全身を砂埃で汚し、小さな擦り傷や切り傷でボロボロであるし。
白血球王子も同じく全身を砂埃で汚し、力を使い果たした事でバテバテだ。
「私達は・・・勝ったのだな?」
「おーこれで負けって言われたら訴訟起こしたらぁ」
そんで勝つと呟く閃時に、白血球王子はそうかと頷く。
「なぁ・・・」
「何だ?」
「限界・・・突破出来たか?」
囁くような問い掛けに、一度両目を閉じた白血球王子は小さく笑みを浮かべた。
「きっと・・・な」
返された答えに、同じく両目を閉じた閃時がふっと笑う。
「そりゃ何よりだ」
その言葉に、最後の力を振り絞って掲げられた拳がコツッと音を立ててぶつかる。
それと同時に、閃時の腰のベルトに付けられていたカウンターがウィルス軍の消滅を知らせる零を表示させた・・・。
「くぉらぁあぁぁぁっ!!閃時ぃいぃいぃぃっ!!父ちゃんに何て事すんだぁあぁぁっ!!」
「王子っ!!無事かっ!?」
まったく正反対の響きを持つ二つの同じ声が、限界を突破した二人が穏やかな寝息を立てながら眠っているのを発見するのはもう少しだけ後の事・・・。
後書き
K桐『好い加減秘密道具を使ってよ閃時』
T美『ギャグ・シリアス混ぜてバトる閃時』
K太『自分の武士道を語る閃時』
総括『白血球王編設定で、王子も登場してギャグ・シリアル混ぜて魔王と秘密道具も使用してバトル。
そのバトルの中で自分の武士道を語る閃時』な、リクでした!!
なんだこの無茶振り。
ってか、白血球王編の設定どっから引っ張って来たのぉおぉおぉっ!?
掠っても無いよね!?誰のリクにも掠ってないよね!?なのに何故に出て来たその設定っ!!
ホント、無茶振りにも程があるよね?軽くイジメじゃね?(爆死)
うん・・・もうね・・・。途中でどうしていいのか分からなくなってるのが駄々漏れですorz
此処まで読んで下さった方・・・ホントすみません。そしてありがとうございます・・・っ!!
これ書いてて分かったのは・・・。
私にバトル物を書くのは無理って事です。はい。
そんで、最後またぶち切ってしまいました・・・。終わりが見えなかったからっ!!(泣)
余裕が出来たらってか、要望があればこの後の部分も書くかもしれません・・・。
ちなみに、閃時が今回使った秘密道具は。
『高強度特殊ワイヤーを仕込んだ皮製のリストバンド(通称・ガロット(絞首索))』と『煙玉』です。
K桐・T美・K太
お前等一回位ホント、どつかせてくれ(目がマジ)
企画参加あんがとねぇえぇえぇぇっ!!!(ノ゚Д゚)ノ。.:.:゚+ ┷┷ (笑)
2009.07.25