※この小説は、白血球王編の設定が盛り込まれております。
それでも大丈夫!!とおっしゃって下さる方は、スクロールして本編へどうぞ☆



















































限界を突破せよ  中編










薄暗く広い空間を有した其処に、愉快で堪らないと言いたげな押し殺した密やかな笑い声が響く。
薄暗い其処をさらに禍々しく演出するかのように、壁や天上を縦横に走るパイプから時折蒸気が噴出していた。



「まさか、先に制圧したメインシステムが囮で、白血球王がメインシステムを取り戻しに大軍を動かしている間に、我がエネルギーを利用して配下を増やしているとは思うまい。
我等ウィルスが情報を食らい増殖するという固定概念が奴等の敗因よ。
エネルギーを生み出す神殿を我等ウィルスが狙うと思っていなかったのだな。
之ほど意図も簡単に手に入れる事が出来るとは思ってはなかったな、将軍っ!!
この神殿を手中に収めている限り、我等は無尽蔵に仲間を増やす事が出来るっ!!」



と、蒸気のカーテンの向こう、何とも満足そうな哄笑が上がる。



「白血球王がそれに気付き軍を差し向けた所で、その頃には我等ウィルス軍が白血球軍の軍勢を大いに上回った後。
それに・・・先ほど、各地へのエネルギーを完全に遮断致しました。
エネルギーの供給が遮断された事に混乱しているのに乗じて各地に攻め込めば、赤子の手を捻るように容易く制圧出来ましょう」



その声と対峙していた全身黒タイツに闇色のマントを纏っていた、将軍と呼ばれたウィルスもまた、満足そうに口唇の端を吊り上げた。
二つの哄笑が響き渡る中、それを遮る程のけたたましい音を立てて広間の扉が開かれ、転がるようにウィルスの一人が飛び込んで来た。



「何事だっ!?騒々しいぞっ!!」
「申し訳ありません将軍っ!!神殿に鼠が・・・っ!!」



振り返った将軍の叱責に口早に謝罪の言葉を綴り、慌てて何事か報告しようしたそのウィルスは、最後まで言葉を紡ぐ事無くドットと化して霧散する。
驚きに目を見開き何事か叫ぼうとした将軍だったが、一筋の光に胸を貫かれて先程のウィルス同様ドットと化し音を発する前に塵となった。



「鼠とは聞き捨てならん。私からすれば、鼠は貴様等ウィルスの方だ」



一陣の風と共に、そう言ってゆっくりとした足取りで開け放たれた扉を潜る人影が一つ。



「将軍を一瞬で消滅させただとっ!?こんな事が出来るのはまさか・・・っ!?」



驚愕の声を上げ、吹き込んだ風に散らされた蒸気のカーテンの奥から現れた魔王と対峙するのは・・・抜身の剣を携えた白血球王子だった。



「あ、何だ。王子の方か」
「何だとは何だ貴様ぁあぁあぁあぁぁっ!?
王子である私だったら不服かっ!?不服なのかっ!?」



ほっと胸を撫で下ろす魔王の様子に、憤懣やる方ないと言った様子で白血球王子が叫ぶ。
が、直ぐに我に返ったように一つ咳払いをすると、視線を鋭くして剣を構えた。



「魔王っ!!貴様の企みも此処までだっ!!
白血球王に代わり、白血球王子である私が貴様を退治するっ!!」
「ふははははははっ!!白血球王子よっ!!良くぞ我等の本拠地がこの神殿であると見抜いたっ!!
だがっ!!一人で一体何が出来るっ!?」



勇ましい姿に、悠然とパイプやケーブルを組み合わせた大きな装置のような玉座に腰を掛けて、両手を大きく広げて問う魔王の言葉に応えを返したのは、白血球王子ではなく・・・。



「悪ぃが二人だ」



逆手で刃引き刀を握り、頭上から魔王を貫こうと飛び降りて来る閃時だった。
まさかの奇襲に、魔王は切っ先から逃れようと身を捩る。
玉座から転がり落ちると同時に盛大な破壊音を響かせながら、玉座に切っ先が突き刺さった。
ちっと舌打ちを零した閃時だったが、そのまま力任せに刃引き刀を振り切ると完全に玉座を分断する。
火花が散る音の後、ボンッとそれ程大きくない破裂音と共に白煙が上がった。
纏わり付く白煙を刃引き刀を一閃させる事で振り払い、クルリと手の中で刃引き刀を返すと峰でトンッと軽く左肩を叩く。



「ハロー魔王様。エンディングを迎える時間だぜ?」



勿論、こっち側のハッピーエンドでな。と、閃時は尻餅を突いて見上げる魔王を見下ろしニヤリと笑う。



「ぬぉぉおおおぉぉっ!?お主何て事をしてくれたっ!!
その装置は我が配下を生み出す為の重要な装置だったのだぞっ!?
これではもう配下を生み出す事が出来ぬではないかっ!!」



暫し呆然としていた魔王だったが、玉座であった装置が完全に破壊された事に怒声を上げて立ち上がった。
一瞬きょとりとした表情を浮かべた閃時ではあったが、直ぐに意地の悪い笑みに変える。



「そりゃ不幸中の幸いだな。一撃でテメェを仕留められなかったけど、一番重要な目的は達成出来た。
俺等の目的は、テメェ等ウィルスの増殖を止める事だったからなぁ。
お?どうやらこれがその装置って事に嘘はねぇみてぇだな。増殖率止まってっし」



ベルトに取り付けていたカウンターを外して目の前に掲げ、止まる事の無かった増殖率を示す数値が完全に停止した事を確かめる。



「さて、此処で問題です。現在、白血球軍とウィルス軍。比率が高いのはどっちでしょーか?」



ニヤニヤと性質の悪い笑みを浮かべつつ、閃時はカウンターを手の上で弾ませながら、何とも楽しそうに魔王に問う。
口を閉ざしたままの魔王にブーっと時間切れを知らせるブザーの音を真似ると、にぃっと口唇の端を吊り上げた。



「正解は白血球軍。それにプラスして、ちょっと厄介なのがそろそろ合流してるだろうから・・・。
まぁ、そっちの勝ち目はねぇと思え。ホント、厄介なのが加わったから。それはちょっと同情する」
「え?待って。何が合流したの?ねぇ、何が合流したのぉぉおおぉぉぉっ!?」
「テメェ等ウィルスより、ある意味性質が悪ぃとだけ言っとく」



ホント、色んな意味で性質が悪ぃもんなぁ〜と何故か額を押さえる閃時に、魔王は思わず一歩後退る。
が、暢気に会話をしている場合では無いと気付いたのか、バッと勢い良く二人から距離を取ると叫んだ。



「えぇいっ!!出あえ出あえぇえぇぇっ!!」
「え?この世界観でその台詞ってありなの?なぁ、ありなの?」
「私に聞くな」



配下を呼ぶ魔王を尻目に閃時は装置の残骸を蹴って飛ぶと、白血球王子の隣に並ぶ。
どうでも良いような閃時の質問に、盛大な溜息を吐いた。



「魔王よ。幾ら配下の者を呼ぼうとしても無駄だ。
この神殿内には、此処に居る私達以外には誰も存在しない」
「何だとっ!?」
「神殿周辺に待機してたのを期待しても無駄だぜ?どうやら、駆け付けた白血球軍と交戦中みてぇだし」



徐々にではあるが、カウンターのウィルス軍を示す数値が減っている事を確かめて閃時が肩を竦める。
白血球軍の数値も多少の減少は見られたが、微々たる物だった。
つまり・・・現在、白血球軍が優勢の戦闘を繰り広げている。



「例え貴様の配下が援護に戻って来たとしても、中に入るのは不可能だ」
「どう言う意味だ?」
「我等白血球側に貴様達の真の本拠地を悟られぬ為に、神殿の防衛システムを破壊しなかったのが災いしたな・・・。
神殿の防御システムを作動させて貰った」
「これで外からの侵入はシャットアウト。まぁ、外に出る事は出来る・・・が」



閃時が言葉を切ったのを合図に、二人はそれぞれの獲物を魔王に向かって構える。
すっと浅く息を吸い込み、眦を吊り上げた。



「「(テメェ・貴様)は、此処で(私・俺)達が倒すっ!!」」
「小童共がっ!!舐めるなぁあぁああぁぁっ!!」




ビリビリと空気が振動する程の雄叫び上げた魔王の背に、バリッと音を立てて蝙蝠の羽の様な物が生える。
閃時&白血球王子VS魔王の戦闘の火蓋が切って落とされた・・・。










ドォンッ!!と重い爆音が響き、内側に押し開く筈の扉が逆側に弾け飛んだ。
扉の残骸が飛び散り粉塵が巻き上がる中、二つの影が転がり出て来る。
同時に床を片手で突くと、転がる身体を強制的に止めて一気に走る体勢に整えるが早いかその場から駆け出した。



「うっわーっ!!魔王すげぇーっ!!かめ○め波的な何かかまして来てんぞっ!!」
「何が可笑しいんだ貴様はっ!?頭でも打ったかっ!?」



後方から咆哮を上げて黒い衝撃波を打ち込んで来る魔王の攻撃を避けつつ、ケラケラと笑い声を上げる閃時に、こんな時に不謹慎だろうがっ!!と白血球王子が噛み付くが、笑い声は止まらない。
ある程度距離を稼ぐと、今度は二人同時に急ブレーキを掛けて勢い良く振り向くと構えた。



「頭何か打ってねぇよ失礼な」
「だったら何を笑っているっ!?」
「何で分かんねぇかなぁー」
「何がだ?」
「別に戦闘狂って訳じゃねぇけど・・・。目の前に強ぇ奴が居たらワクワクすんだろうが。
自分の限界を超えられるかもしれねぇって期待でよ」



ニヤリと笑う姿に一瞬瞠目した白血球王子だったが、来るぞっ!!と叫んだ閃時の声に、はっと気を引き締めた。
二人目掛けて打ち出された衝撃波を、左右に飛んで交わすと次が来る前に一気に間合いを詰めて斬り掛かる。
が、何時の間にか鞭の先端に刃が組み合わさったような物に形状を変えた羽がそれを受け止めた。
受け止めた刃を弾くと、鞭の部分を撓らせて逆に斬り掛かる。
足元を狙われ後ろに飛び退れば、床で跳ねた先端が胸の中心を貫こうと伸びて来た。
それを上半身を仰け反らせる事で避け、片足を振り上げると爪先で弾き返す。
振り上げた足の勢いを借りてバク転の要領で身体を縦に回転させ、着地と同時に後ろに大きく飛んだ。
さらに追撃で刃が襲って来たが、鞭の部分の伸縮限界だったのか、胸元を微かに掠めただけで伸び過ぎたゴムが戻るように刃は魔王の元に戻った。
仕留め損なった事に、魔王はギリギリと歯を軋ませる。



「ちょこまかと逃げ回りよってっ!!」
「うぉっ!?やべぇっ!!一時退却っ!!」



先程の衝撃波よりも威力が増しているだろうと見ただけで分かるそれに、閃時は白血球王子の腕を掴むと近くの太く頑丈そうな柱の影に逃げ込む。
爆音の後に視界を完全に奪う粉塵が舞い、それを隠れ蓑に魔王に気付かれないように移動すると、ふっと短く息を吐き出した。



「さぁてと・・・そろそろ本気でどうするか考えねぇとな。流石に何の作戦もなし魔王は倒せんわ。
このままじゃ、力で押し切られそうだしなぁ」



あの衝撃波は厄介だなと呟くと、チラリと閃時は何事か考え込む白血球王子に視線を向ける。
直ぐに視線を外すと、自分達が潜む場所とは見当違いの方角で爆音が立て続けに起こっている事で、とりあえずの魔王の位置を確認した。



「策は・・・」
「あ?」
「魔王を倒す策は・・・あるにはある」



ポツリと呟かれた言葉は自信が無さ気と言うよりも、それを実行する事を躊躇する響きがある。
言うだけ言ってみろと促され、白血球王子は目を伏せると、閃時の反応を伺うように口を開いた。



「私の・・・最大の力を魔王にぶつける」
「策ってそれだけか?」
「それだけだ。だが、力を溜めるのに・・・時間が掛かる。
それも、機会は一度だけだ。タイミングを間違えば、勝機は無い」
「なるほどな。二人一緒に隠れてても、力が溜まる前に見つかったら意味がねぇ。
要するに、その間俺が囮になってれば良いって事か」
「違うっ!!そう言う意味で言った訳では・・・っ!!」
「声がでけぇ。見つかったらどうすんだ」



さらりとした閃時の物言いに慌てて声を上げた白血球王子だったが、ペシッと頭を叩かれて思わず口を閉ざす。
俯いてしまった白血球王子に、閃時は小さな溜息を一つ零すと頭を掻いた。



「オメェは何に対して躊躇してんだ?
俺を囮にする事に対してか?テメェの最大の力をぶつけた時に魔王を倒せなかった時のリスクに対してか?
それとも・・・その両方か?」



その言葉にピクリと跳ねた肩に今度は盛大に溜息を吐いて、徐に白血球王子の胸倉を掴むと。

問答無用で頭突きを食らわせた。

ゴィイィィンッ!!と言う衝突音は幸いにも爆音に紛れたが、余りの痛さに二人は額を押さえてその場に蹲る。



「〜〜〜っ!!何をするんだ貴様っ!?」
「煩ぇ馬鹿っ!!オメェがウジウジしてっから気合い入れてやったんだろうがよっ!?礼を言え礼をっ!!」
「誰が言うか馬鹿者っ!!」



額を押さえながら怒鳴る白血球王子を遮るように閃時が怒鳴り返せば、さらに怒鳴り返され、ピキッと同時に米神に青筋を一つ浮かべるとお互いの胸倉を掴み立ち上がった。



「大体オメェには勢いってもんがねぇんだよっ!!此処に来る前だってウジウジ悩みやがってよぉっ!!」
「勢いだけで物事が全て上手く行くと思うなっ!!貴様に足りないのは思慮だっ!!」
「ウダウダ考えてる暇があんなら行動に移した方が建設的だろうがっ!!
んな事してる間に事態が悪化したらどうすんだっ!?」
「そうなった場合の事を考えて行動する事が建設的と言うのだっ!!貴様のは只の無茶だっ!!」
「それはすんませんねぇっ!!ダチがピンチの時にウダウダ考えるようには育てられなかったもんでなっ!!
我が家の家訓は悩むより行動しろじゃボケェエエェエェェッ!!」



そう捲し立てて、閃時はもう一度ゴスッと鈍い音を立てながら頭突きをお見舞いする。
先程と寸分変わらぬ箇所への立て続けの衝撃に、白血球王子は堪らず目を回し閃時の胸倉を掴んでいた手からも力が抜ける。
パッと閃時が掴んでいた胸倉を離せば、支えを失くした白血球王子がその場にへたり込んだ。



「おら。目ぇ覚めたか馬鹿王子」
「・・・だから、何て事をするんだ貴様は・・・」



目、所か。脳味噌までぐわんぐわんっと音を立てながら回っているような感覚に、軽い吐き気を覚えて白血球王子は呻く。
だが、閃時はその様子に一つ鼻を鳴らすだけで、謝る気も心配する気も欠片も無い。
ただ・・・。



「守るんだろ」



と、はっきりした声音で一言発しただけだった。
しかし、それに返される言葉は無く、小さく溜息を吐くとガシガシと後頭部を掻いて、犬がお座りするような姿勢でしゃがみ込む。



「オメェ、言ったじゃん。たまを、この世界を守りたいって。
だったら・・・悩むな、迷うな。守るって口にしたら、どんな手ぇ使ってでも守り通す事だけ考えろ」



そこで言葉を切って、閃時は立ち上がった。



「俺はたまを守りたい。人間だとかカラクリだとかそんな事は関係ない。
俺が生まれた時からずっと一緒に居る大事なダチだから守りたい。
でも、俺一人じゃ守れねぇんだ。だから、オメェの力貸せ。
俺が囮になって魔王を引き付けとく。その間に力を溜めろ」
「・・・危険だぞ。さっきだって、二人だったから魔王の攻撃を分散出来ていたんだ。
貴様が囮になると言うなら、その攻撃を全て向けられる。下手をすれば殺されるかもしれん」



その言葉に、思わず閃時は苦笑う。戸惑っている一番の理由はそれだったかと。



「死なねぇよ、俺は。
例え、骨折られようが肉斬られようが、それで血反吐吐いて地べたに這い蹲ろうが・・・俺は死なねぇ。
誰かを守る為に死ぬ事だけは、絶対にしない。誰かに、俺の死を背負わせる事は絶対にしない」



そう言って、閃時は未だ座り込んだままの白血球王子に手を差し出した。



「何故・・・そう言い切る事が出来る」



呟いて、掴む事を躊躇する姿にニッと口唇の端を吊り上げる。



「それが、俺の武士道だからだ」



迷う事無く音にした言葉と共に閃時は白血球王子の手を掴むと、勢い良く引っ張り起こした。










どうして・・・と、問いに答えるべき相手が居ない広い空間に立って、白血球王子は呟いた。
どうして、あんなにも真っ直ぐ迷う事なく行動出来るのかと。
ウィルスの本拠地がメインシステムではなく、エネルギーを生成するこの神殿である事を、逸早く見抜いたのは閃時だった。
たまの分身が突如として霧散したのは、神殿を制圧したウィルスがエネルギーの供給を止めたのではないか?
無駄なエネルギーの消費を抑える為に、分身は霧散したのではないか?と言ったのも閃時だった。
多分、それは間違っていない。
確かに、エネルギーの供給は停止されていたのだから。
通常のエネルギーの供給を絶たれた事で、予備のエネルギーシステムが作動しているのか、メインシステムの最低限の機能は働いている。
セキュリティプログラムである白血球王子に、未だ異変が見られない事が何よりもの証拠だ。
直ぐに、父である白血球王へ伝令を送ったが、自分はどうするべきかと白血球王子は悩んだ。
白血球王からは、城を守れと命じられた。
だから、城に待機するのが正しい判断である事は分かっていた。
それでも・・・閃時に眼前に突き付けられたカウンターに表示されるウィルスの増殖は刻々と上昇し続け、白血球軍が神殿に到着する頃には、下手をすれば軍勢を上回られるかもしれないと思った瞬間、どうする事が正しいのか迷った。
城から神殿までは、メインシステムへの道程に掛かる時間の半分程で到着する事が出来る。
短時間でこれほどの増殖をすると言う事は、何かしらの装置を作り上げているだろう事は間違いない。
今、城から神殿に向かい、素早く装置を破壊する事出来れば、軍勢を上回られる前に増殖を止める事も不可能ではないかもしれない。
けれど、城に残された小隊を率いてウィルス軍で固められた神殿に向かった所で、焼け石に水にもならない。
それ所か、この城を守るべき者が居なくなってしまう。
城の奥には、白血球王の后で母である人と、姉姫と妹姫が居る。
大切な家族を守る為にも、それは出来ない。
例えば、今この瞬間ウィルス軍が大挙して攻め入って来たとして、小隊であっても篭城すれば白血球軍が戻って来るまでは時間を稼ぐ事は出来るだろう。
だが、神殿を取り戻さない限りウィルスの増殖は止まらない。



最も重要なのは、ウィルスの増殖を止める事。



それは分かっていた。
しかし・・・分かっていた所で何が出来ると、白血球王子は頬の裏を噛んだ。
たまを守る為に動きたい。でも、動く為の力がない。



「おい、行くぞ」
「え・・・?」



突然腕を掴まれて、白血球王子は目を瞬かせる。
きょとりとする白血球王子に、閃時は呆れたような表情を浮かべて溜息を一つ零した。



「どうせ、残ってる小隊は城の守りの為に動かせねぇんだろ?
だったら、俺等二人で止めんだよ。ウィルスの増殖を」
「何を言ってるんだっ!?出来る訳がなかろうっ!!」
「馬鹿かテメェ。やってもない内から諦めてんじゃねぇよ。
それとも何か?親父が居なきゃ、一人で何も出来ねぇのか?お・う・じ・さ・ま・は」



ワザとらしく言葉を切る閃時に、キッと眦を吊り上げて白血球王子は掴む手を振り払おうと腕を振り上げるが、一瞬早くその手は自らの意思で離され空振る。
ムッと表情を顰める白血球王子に、ニヤンッと閃時は意地の悪い笑みを浮かべた。
しかし、直ぐにその笑みを掻き消すと、打って変わった真剣な瞳で正面から白血球王子を見据える。



「迷ってる場合じゃねぇだろう。オメェにも、今一番しなきゃならねぇ事は分かってる筈だ。
此処で自由に動けるのは、俺とオメェの二人だけしか居ない。小隊長とか居るんだろ?
城の事はソイツに任せて、俺達は今直ぐエネルギー生成システムに向かうべきだ」
「それは・・・」
「まぁ、別に良いけどな。オメェが行かなくても、俺は一人でも行く。たまを守りたいからな」
「私だってたま様を、この世界を守りたいっ!!だが、私達二人で何が出来るっ!?」
「だから、何もやってねぇ内から諦めてんじゃねぇよっ!!
何が出来るか何か行ってみなきゃ分かんねぇだろうがっ!!違うかっ!?」



胸倉を掴まれて引き寄せられたかと思うと、額がぶつかるほどの至近距離で怒鳴られ、白血球王子は唇を噛んだ。
目を伏せるその姿に舌打ちを零し、閃時は突き飛ばすように胸倉から手を離すと背中を向けて走り出した。



「待てっ!!何処に行く気だっ!?」
「エネルギー生成システムに決まってんだろう」
「場所も分からない癖にどうやって行く気だっ!?」
「そんなの、その辺の白血球捕まえて聞きゃ良いだけだろうが」



どうにかして此処に留めようと声を上げたが、ばっさりと切り捨てられ口篭る。
切り捨てた閃時はと言えば、此処にはもう用は無いと言うようにバンッと勢い良く広間の扉を開け放って飛び出して行った。



「本気で・・・一人でどうにかするつもりなのか?」



ポツリ、零れた言葉は妙に広間の中に響いて、ゆっくりと一度瞬きをする。
そして・・・。



「一人でなど・・・何も出来る訳がなかろうっ!!馬鹿者がっ!!」



そう叫ぶと同時に、白血球王子は今し方閃時が飛び出して行った扉を自らも潜り抜けた。
門の所で、門番を捕まえて神殿の位置を問い質している姿を見つけ、門番がそれに答えを返すよりも早く腕を掴むと引き摺るようにそのまま走り抜ける。



「ちょっ!?扱ける!!マジで扱けるっ!!」
「だったらしっかり自分の足で走れっ!!」
「んだとコラッ!?テメェは城に残るんじゃなかったのかよっ!!」
「そんな事は一言も言っていないっ!!神殿への近道があるから付いて来いっ!!」
「偉そうにコノヤロー・・・本当に近道何だろうなっ!?」
「煩いっ!!黙って付いて来いっ!!」
「腹立つなぁー!!もーっ!!」



がぅっ!!と一つ吼えて閃時は白血球王子の手を振り払うと、先を走る背中を追い駆けた。















※思わぬ長さになった為、三部作に変更(*゚▽゚)・∵. ガハ!
2009.07.25