ベクトル感知器未搭載










「あー・・・恋がしてみたい」
「ぶっ!!」



時たま・・・と、言うかしょっちゅう巡回中の土方と、依頼で走り回る閃時は顔を合わせる。
大抵は挨拶と短い会話を交わしてそのまま分かれる事が多いのだが、稀にちょうど小腹の減る時間に顔を合わせると団子でも食うか・・・と、茶屋に寄る事があった。
今日もまたそんな日であったのだが、ふと零された閃時の言葉に、茶を啜っていた土方は思わず噴き出す。



「何その反応。
ってか、大丈夫?土方さん」



気管に入ったらしくゲホゴホと咽る土方の背を閃時は擦った。
前のめりになって暫く咽ていた土方だったが何とか落ち着き、隊服の袖口で口元を拭うと、胡乱気な表情で隣に座っていた閃時に視線を向ける。



「大丈夫?」
「あぁ・・・まぁな。ってか、なんだオメェはよ」
「え?何が?」
「何がじゃなくて・・・。そんなん興味ありません的な感じの癖に、行き成り『恋がしてみたい』とか言い出しやがって。思いっきり噴いただろうが」
「やーちょっと聞いてよ土方さん」



実はさぁーと言葉を続ける閃時に、土方はとりあえず茶のお代わりを注文して先を促した。
どうやら閃時の寺子屋の友人の一人に、彼女が出来たらしい。
付き合い始めてまだ二週間と言う、俺達超幸せでーす☆な感じの友人に、散々惚気られたと言う。
そうなれば、人と言うのは影響を受け易い生き物で、特にそっちに関しては興味の薄かった閃時も。
彼女欲しいかも・・・な感じになり、『恋がしてみたい』と言う発言に繋がったらしい。



「あーまぁなぁ・・・オメェもお年頃ってヤツだしな。
ってか、オメェはそれなりに出会いとかあんじゃねぇのか?」



注文した茶を受け取り、ずず〜っと音を立てて啜りつつ土方がそう言えば。
閃時はまだ半分茶の入ったままの湯飲みを、中身を零さないまま器用にクルクルと手の中で回して小さく溜息を吐いた。



「そりゃね?寺子屋や、依頼で出向いた先に年の近い娘さんが居たりとかはすっけどさぁ〜。
俺モテねぇし。出会いがあっても発展しなきゃ意味ねぇよ」
「はぁ?」
「いや、はぁ?って何?はぁ?って。
あーそうですよねぇー。未だに真選組一モテ男には分からん悩みでしょうねぇ〜。
サドプリの奇襲でストレス溜めて禿げろ土方コノヤロー」
「なんつぅ物騒な発言しやがんだテメェ。
ってか、え?オメェモテてねぇの?」
「モテた覚えなんざねぇよチクショー。
『土方さん、俺との事は遊びだったんですねっ!?俺を弄んだんですねっ!?』って泣き叫んでやろうか」
「オメェは俺に何の十字架を背負わせる気だコノヤロー」
「・・・変態エロオヤジ?」
「真面目な顔で答えてんじゃねぇぇええぇぇっ!!」



とんでもない発言を真面目な顔で発した閃時の頭をスパーンっと良い音をさせて叩くと、土方ははぁっと重々しい溜息を吐く。
軽い冗談じゃんかーっと叩かれた頭を擦り口唇を尖らせる閃時に、年長者として助言位はしてやろうと土方が口を開こうとしたその時・・・。



「あれ?閃?」



と、少女の声が割って入って来た。
閃時の略称を呼んだ事で顔見知りだと分かり、土方は口を閉ざして視線だけを向ける。
きょとりと目を瞬かせて閃時も視線を向けると、おーっと片手を上げて応えた。



「土方さん、ちょっとごめん」



そう断りを入れると、閃時は残りの茶を飲み干して立ち上がり、声を掛けて来た少女へと歩み寄って行く。
さほど離れてはいないので聞こえる会話の端々から、二人は同じ寺子屋に通う同級生だと言う事。
そして、少女の名前が
である事が分かった。
共通の話題で盛り上がる二人を何ともなしに眺めながら、土方はふとある事に気付く。
閃時の正面に立ち、会話を交わしている
の頬に薄っすらと赤みが差している事に。
拳一個半は背の高い閃時を見上げる瞳は、眩しい物を見るように煌いていた。



(あーそう言う事か)



こりゃ邪魔は出来ねぇなとこっそりと苦笑って、年寄りは退散しますかと土方は店員を呼んで勘定を済ませると徐に立ち上がる。



「あ、土方さん」



それに気付いたのか、偶々振り返ったのか閃時が来て来てと土方を手招いた。
いや、オメェ空気読めよ。俺が空気読んでんだからよ。と、言いたいのをぐっと堪え、土方は仕方なく二人の傍に寄って行く。



「どしたよ?」
のこの格好、全然変じゃねぇよな?」
「ちょっと、閃・・・っ!!」
「だって、
。俺の言う事全然信じてねぇもん。だったら第三者の意見が必要だろ?」



あわあわと慌てる
にコテリと首を傾げる閃時に、土方さんはどう思うよ?とさらに問われ、土方は不躾にならない程度に視線をさっと滑らせた。
恥ずかしそうに俯いた
に合わせるように、赤を基調としたちりめんを紐状に縫い込み、七枚の花弁を模様のある方のちりめん紐は小さく、赤だけのちりめん紐は大きく形作り重ね。
さらに、赤だけの方は、両端をリボンのように垂らし、先端に小さな金色の鈴の付いた櫛型の簪が揺れ、ちりりんと微かに涼しげな音を立てた。
まるでそれに合わせるように薄紅地に、所々赤い花が散った着物を纏っている。



「女らしくていいんじゃねぇか?」
「似合ってるよな?」
「そうだな」
「ほらなっ!!」



重ねて問われた土方が頷けば、閃時は勝ち誇ったようにニッと
に笑って見せた。



「何時もの青とか水色基調の小袖に袴でもいいけどさ。
、そっちのが似合うって」
「そ、そっかな・・・?」
「うん、すげぇ可愛い」



にっこりと裏の無い笑顔で告げる閃時に
はぷしゅ〜とでも音がしそうな勢いで頬を赤らめると、あ、ああありがとう・・・っと吃りつつも何とかそう言葉を綴った。
と、少し離れた所から
を呼ぶ声が聞こえ、 は慌てて顔を上げる。
そこには、同じ年頃と思わしき少女達が手を振っていた。



「ごめん。もう、行くね。皆と買い物行く約束してるの。あのお店にも行こうと思って」



軽く手を振り返して
は閃時に向き直し、はにかんだ笑みを浮かべる。
それに閃時も柔らかく笑い返すと、応と頷いた。
それじゃあと告げて歩き出した
だったが、あっと声を上げて振り返り櫛簪を指差す。



「閃、これ・・・本当にありがとう。おかげで私、変われた」
「どーいたしまして。きっかけになって何よりだ」



閃時の言葉に、にこりと嬉しそうに笑って
は少女達の下へと足早に向かって行った。
合流してもう一度振り返ると、小さく手を振るのに気付いて閃時も軽く片手を上げて応える。
色鮮やかな着物を纏った少女達はクスクスと楽しげな笑い声を上げながら、直ぐに人波に紛れて行った。



「・・・おい、閃時」
「何?」
「あの子はオメェの彼女とかじゃねぇのか?」
「え?普通に友達だけど・・・何で?」



心底不思議そうに問いに問いを返され、いや何でってこっちが何でって言いたいわ。と土方は胸の内で声を大にして叫んだ言葉を視線に込めて閃時に向けるが。
残念な事にまったく微塵にも伝わった様子はない。



「いや・・・何か、櫛簪やったみてぇな事言ってたからよ」
「あーあれか。あれ、実は侘びの品何だよね」



土方の言葉に苦笑い頬を掻いた閃時は、その時の事を話し始めた・・・。










「あ・・・」

それほど広い訳ではないが、人通りの多い通りに面した小物屋を通り過ぎようとしていた
は、小さく呟いて思わず立ち止まる。
きょろきょろと辺りを見渡し知り合いが居ないかを確かめると、暫し迷うように小さく唸ったが、ちょっとだけだからっ!!と誰にとも無く言い訳をして、小物屋に足早に近寄った。
店先に出された台には、髪留めや帯留め髪飾りと言った小物。
店の少し奥には、掌に収まるような小さな置物や巾着、可愛らしい刺繍の施された手拭い等がセンス良く並べられていた。
先ずは店先に並べられた物を一通り眺めた後、
は店の奥へ足を進める。
先客は片手で足りる程しか入っておらず、さほど広くない店内でも立ち止まってゆっくりと商品を眺める事が出来た。



「うわぁ・・・可愛い」



大き目のビーズの瞳で見上げながら小首を傾げる、布製の兎の置物を手に取って
はクスリと笑う。
つんっと軽く鼻面を突付けば、底部に重石が入ってるのかゆらゆらと
の掌で揺れた後、何も無かったかのように、また円らな瞳で を見上げていた。




「こんなお店・・・あったんだ」
「今日新規開店した所だから、まだあんま知られてねぇんだけどな」
「ひぁっ!?」



知らなかったなぁ〜と呟いた
の背後から突然声が聞こえ は悲鳴を上げてビシリと背筋を伸ばした。
その反動でか、掌に載せていた兎がバランスを崩してコロリと掌から転がり落ちる。
布製なので壊れる事はないだろうが、あっ!!と
が声を上げると同時に、今度は背後から腕が伸びて来て、難なく空中でそれを受け止めた。



「お客様〜商品は大事にお扱い下さ〜い」



注意と言うよりも揶揄いを含んだ言葉に、
は慌てて背後を振り返る。
其処に居たのは、ニッと悪戯っぽい笑みを浮かべた閃時の姿。



「閃っ!?何で居るのっ!?」
「いや、声がでけぇよ




しーっと自分の口唇に人差し指を当てて苦笑う閃時に、
は慌てて自分の口を両手で覆う。
店内に居た数名の客が何事かと不思議そうに振り返る姿に、曖昧な笑みを浮かべてペコリと頭を下げて
は原因である閃時を睨み付けた。
くっくっと喉の奥で笑う閃時の脇腹に軽く肘鉄食らわせて、
は先程閃時によって救われた兎の置物をその手から取り戻し、そっと棚の上に戻した。
そして漸く、正面から閃時を向き合う。



「此処で何してるの?」
「昨日まで此処の開店準備手伝いって依頼、俺が請け負ってたんだ。
んで、今日開店だから様子見ってとこだな。
後、依頼料の他に商品好きなの一個付けてくれるって言うから選びに。
そしたら、意外な人物が居たからちょっかい出しに来た」



こう言う店、興味あんだなと笑う閃時に
はキュッと口唇を噛むと俯く。



「・・・其処、退いて。帰る」
「あ?何でだよ?今来たばっかだろ?ゆっくり見て行けって」
「いい・・・帰るからほっといて」



ちょうど通路を塞ぐ形で立っていた閃時をそう言って押し退けると、店を出て行く。



「ちょっ!!
っ!?」



何処か焦ったような閃時の呼び声にも立ち止まらず、
は俯いたまま足早に歩を進め最後には走り出していた。
じわりと目の奥が熱くなった事に、
は慌てて近くの路地に駆け込む。
しかし、路地に入って数歩も進まない内に。



っ!!」



と、追って来たらしい閃時に名前を呼ばれると同時に腕を掴まれ、半ば無理矢理振り向かされた。
反動で、目尻に溜まっていた涙がぽろりと零れる。
慌てて
は俯くと、これ以上涙が零れないようにとぎゅっと強く両目を瞑った。
それは一瞬の事だったが左右色違いの瞳はしっかりと拾い上げていたようで、閃時は瞠目する。
そしてバツが悪そうに頭を掻くと、あーっと曖昧な声を上げた。



「どうせ、私にはあんな可愛い小物屋さん・・・似合わないわよ」
「あ、いや・・・その・・・」
「閃だって、オメェには似合わないって思ってんでしょ?別にいいわよ。その通りだもん」
「いや、だから・・・」
「どうせ、私には女の子らしい物何か似合わないわよっ!!」
「俺の話も聞けっ!!」



ぎゅっと目を瞑って俯いたまま叫んだ
だったが、突然両頬を包み込まれて強引に顔を上げさせられ、反射的に両目を開いた。
視線の先には、拳一つ分しか空いていない距離で、しっかりと
の瞳を覗き込む左右色違いの瞳。
余りにも近いその距離に、クルリと
の瞳が丸くなった。



「とりあえず、俺の話も聞いてくれ。お願いします」



真っ直ぐ覗き込んで来る瞳に、
は言葉も出ずにただコクコクと頷くだけだ。
それに閃時はほっと表情を和らげるが、手を離すつもりも距離を開ける気もないのか、そのままの状態で再び口を開く。



が泣いたのは、俺が『意外な人物』とか『こう言う店、興味あんだな』って言ったせいか?」



困ったような表情を浮かべ、涙の跡の残る
の目尻を親指の腹でそっと拭うと閃時が問う。
内心その仕草にあわあわとしながらも
は小さく頷いた。
それに閃時は一度顔を背けるとはぁーっと大きく溜息を吐いて、また視線を合わせる。



「先ずはごめん。んで、弁解させてくんね?」
「う・・・うん」
さ、あー言う店に行こう?って言われても、何時も興味ないから行かないって断ってただろ?
だから俺・・・本当に興味がないと思ってたんだ。
別に
に似合わないからとか、そう言う意味で言ったんじゃねぇんだ。
でも、そう言う風に聞こえたなら・・・ホントごめん。マジで謝る」



ごめんなさいと頭を下げる閃時に
はフルフルと首を横に振る。
?とそっと呼び掛ける閃時の声に、ひっくと、小さくしゃくり上げる声が被さった。



「違う、の。閃が謝る事じゃ、ないの・・・っ。私が勝手に・・・卑屈になっただけで・・・。
私、男兄弟ばっかりの中で育って、小さい時からお兄ちゃんのお下がりとかばっかりで・・・。
今はそうでもないけど、小さい時は男の子に間違われる事が多くて。
女友達には『
って男の子っぽいね』って言われて・・・っ
私、何時の間にか男の子っぽく振舞わなきゃいけないって思い込んでて・・・っ」
「うん」
「本当は、あー言う可愛い小物屋さんに並んでる小物とか、好きなの・・・っ。
でも今更、そんな事言えなくて、友達には興味ないって断ってた・・・っ!!」
「そっか・・・我慢してたんだな。なのに、ホント・・・ごめんな?」



しゃくり上げながら必死で言葉を綴る
に、閃時は両頬を包んでいた手を下ろすと、そっと両腕を の背中に回してやんわりと抱き寄せる。
後頭部に片手を添えて肩口に引き寄せ、トントンッと片手で背中を叩いてやった。
暫し、その優しい手に宥められるがままに身を任せていた
だったが、はたと我に返る。



(な、ななななななな何この状況っ!?)



完全にパニックに陥ったせいか、涙も引っ込んだ。



「お?落ち着いたか?

「は、はははははははいっ!!」
「・・・まだ落ち着いてねぇか?」

「いえっ!!落ち着きました!!ホント、もう完全に落ち着きましたっ!!」



だから離してぇえぇぇえぇえぇっ!!と内心絶叫をする

に、訝しがりながらも閃時は本人がそう言うならと両腕を緩めて を解放する。
解放されると同時に慌てて閃時から一歩距離を置き、バクバクと跳ねる心臓を押さえる為に両手を胸の前に引き上げて押し付けた。




「え?な、何?」
「あのさ、ちょっと此処で待っててくんね?」
「え?」
「直ぐ戻るから。ホント、マジで直ぐ戻るから」
「え?ちょっ!!閃っ!?」
「絶対其処に居ろよーっ!!」



そう言うが早いか。閃時は呼び止める
の声を無視して、来た道を走り戻って行く。
置いてけぼりにされた
は、ポカンとした表情を浮かべながらも見送る。
そして、直ぐに戻ると言う宣言通り、閃時は五分もしない内に駆け戻って来た。



。手ぇ出せ」
「え?」
「ほら、手ぇ出せって」
「う、うん・・・」



コトリと首を傾げる
に、閃時は早く早くと言うように、左手の掌を上にして差し出す。
戸惑いながらも
は閃時を真似て、右手の掌を上にしておずおずと手を差し出した。



「ほい」



差し出された右手の手首を軽く掴んで引き寄せると、閃時は右手に持って居た物を
の右手と自分の右手とで挟むようにして乗せる。
ちょうど閃時の掌に覆われて仕舞い、何が乗せられたか分からずに、
は首を傾げた。



「やるよ」



そう言って笑うと、閃時はそっと重ねていた手を除ける。
その下から現れたのは、紐状に縫い込まれたちりめんを七枚の花弁に編み込んで出来た櫛簪。
細部まで覚えている訳でないが、確かにあの店の軒先に並べられていた商品の一つだった。



「えぇええぇっ!?も、貰えないよっ!!」
「いーから。四の五の言わずに受け取っとけ」
「いや、でも・・・じゃあお金・・・」
「さっき言っただろ?依頼料のおまけで好きな商品一個くれるって。だから、タダ。
ってか、侘びの品として受け取って貰えるとありがてぇんだけど?」



それじゃ駄目か?と、困ったよう表情で首を傾げる閃時に、フルフルと頭を振ってそれならと
は受け取る事を了承する。
それにほっと表情を和らげると、くしゃりと閃時は
の頭を撫でた。



「先ずはこれ一つ・・・な」
「え?」
「ちょっとずつでいいからさ。集めて行けよ。自分には似合わないとか思わずにさ」



頭を撫でた手でそのまま
の横髪を後ろに流すと掌で押さえ、櫛簪を の手からそっと取り上げるとそれを髪に挿す。
櫛簪の装飾の一つである金鈴が、チリリンと可愛らしい音を立てた。



「似合ってんじゃん」
「・・・本当に?」
「おう」



おずおずと問い掛ける
に閃時は頷いて見せる。



「オメェは女の子だよ。そう言う可愛いもんが似合うさ。
だから、もう我慢したりすんな」



そう言ってふっと笑うと、閃時は
の額を軽く小突いた。
痛い訳ではないが、反射的に小突かれた額を押さえた
は、持ち上げた指先でそっと櫛簪を撫で、確かにそれが其処にある事を確かめると閃時を見上げて、ありがとうとはにかんだ。










「・・・とまぁ、そんな事があったんだよ」



いやーあん時はマジで焦ったなーとのんびりした口調で閃時が話を締め括った瞬間。



ゴスッ!!



と、痛そうな音がして、閃時は足を進めながら目を瞬かせた。
視線を隣に向ければ、其処に居るはずの土方の姿が無く、音がした後方へ視線を向ける。
其処には、何故か電柱と正面衝突をした土方の姿・・・。



「何やってんの土方さん」



呆れた声を上げる閃時に、それはこっちの台詞だぁぁぁぁあぁっ!!と胸の内で叫んで、ぶつけただけでなく痛む頭を土方は押さえた。
が実際どんな性格であるか土方には知る由も無いが、男兄弟ばかりの中で育ち、尚且つ女友達には『男の子っぽい』と言われる程であれば、多少気の強い性質である事は推測出来る。
そんな少女が、ただの男友達に言われた言葉に其処まで過剰に反応するかと言われれば・・・否であろう。
つまり、その時点で多少なりとも閃時へ好意を寄せていたと、これまた推測出来る。
その上、そんな事をされれば何とも思っていなかったとしても、余程の事が無い限り堕ちる可能性は大だ。



「おい、閃時」
「何?ってか、大丈夫?」
「大丈夫だ・・・ってか、閃時。それ何時頃の話だ」
「えーっと・・・一週間ちょい前?ってか、女ってすげぇなぁ。一週間であんなに変わるなんてさ。
これ内緒だけど、ホント
って男っぽい感じだったんだぜ?
それが一週間で真選組一モテ男に女らしいって言わせるんだから、ホントすげぇよ」



と、うんうんっと頷く閃時に、ちったぁ気付けよオメェはよっ!!と、またまた胸の内だけで土方は叫ぶ。
一週間。たったの一週間で、男っぽいスタイルを崩さなかった少女が女らしくなったと言うならば、貴方の為に変わりましたと言ってるような物である。



「やっぱあれかな?」
「あぁ?」
「ほら、女って好きな奴が出来るとすっげぇ変わるって言うじゃん?貴方の色に染まります的な。
もそうなんかな?そう言うのって、やっぱ男冥利に尽きるってヤツだよなぁー。
俺もさぁーいねぇかなぁー。そうやって俺の為に変わってくれるような子」



まぁ、いねぇだろうけどな。俺モテねぇしと、残念そうに溜息を吐く閃時に。



何でそこまで気付いてて、それが自分だと分からねぇんだ。



と、土方は思いっきり叫びたくなった。
だが、叫ぶ事はせずに、変わりに深々と吸い込んだ煙草の煙を盛大に吐き出すと、閃時を追い越して行く。



「閃時」
「んー?」
「オメェ、さっき『恋がしてみたい』とかほざいてたな」
「ほざ・・・まぁ、うん。それがどうかした?」
「オメェにゃ絶対無理だ。諦めろ。絶対無理だから。ホント、マジで諦めろ」
「何でっ!?」
「いや、ホント絶対無理だから。ってか、オメェに恋愛が出来ると思うな」
「全否定っ!?何故にっ!?」



土方さんんんっ!?と、慌てて追い掛けて来る閃時に溜息を吐いて。
厄介な相手に惚れたらしい
に、幸あれと思わず祈る土方だった・・・。















後書き

『長男相手の夢小説で、フラグを自ら折って歩いているにも関わらず、全く自覚ない癖に恋をしてみたいとマヨ辺りに相談して夢や希望すら折られてしまう長男』
と、言うリクでしたっ!!初っ端からリク内容外しました・・・っ!!orz
ってか、書いてる途中で長男の頭を引っ叩きたくなりました(え?)
ヒロインを抱き締めるシーンがありますが、本気で特別な感情無くナチュラルにかましております。
妹達(蓮華&咲)が何かあって泣いたりすると、こうやって宥めるので、彼の中では泣いた人間にはこうするのが当然みたいな感覚です。
まぁ、野郎相手にはしないと思いますが(おい)
長男の頭を引っ叩きたくなった方は、どうぞ思う存分引っ叩いてやって下さいませ(爆死)

太門様
あえての呼び捨てとの事でヒロインはあんな感じで、鈍感王子を前面に押し出してみましたが如何でしょうか?(笑)
何か、やり過ぎた感があると言うか何と言うか・・・すみまっせんんんんっ!!(土下座)
やっぱり夢小説はこれが基本スタイルになりそうです。鈍感王子(爆)
そして、何時も色々とホント、ありがとうございます!!
今回は企画一番乗りもして下さって感謝の言葉が足りません!!
これからも、お付き合いお願いしますお師匠様ww
2009.06.20