091.昼下がり (坂田さん一家)










092.におい





今日も明日も明後日も。





夕方帰り道。
彼方此方の家から、換気扇を通してイイ匂いが漂って来る。
道に台所が面している家からは、匂いだけじゃなくてトントンカチャカチャパタパタ。
ちょっと忙しそうな音も一緒。
きっと、万事屋でも新八が忙しそうに夕飯の支度をしている筈。
今日のメニューは何だろうと考えると、自然と早くなる足取り。
見えて来た万事屋の看板。
階段は二段飛ばしで、さぁ急げ。
漂う匂いに、今日の夕飯のメニューに気付く。
今日も明日も明後日も、この時間この場所で新八が待ってくれている。
十年後だって、きっと・・・ね。










END





さて、これはどちらの心情でしょう?
2008.09.02




















093.しあわせ

2008年12月2日〜2009年1月24日拍手お礼小説に使用。






「もー!好い加減起きて下さいよ銀さん!!今日は依頼入ってんですから!!!」



朝から元気な新八の声に叩き起こされて、渋々と布団から出る。
ってか、その前に布団剥ぎ取られたからね。
この時期布団剥ぎ取られる事がどんだけ辛いと思ってんのこの子は!?
何て言ったら、倍にして返されるので黙っとく。
欠伸しながら洗面所に向かえば、先客が居てガクンガクンと頭を前後に振りながら歯を磨いていた。



「うぉーい、かーぐらー。歯ブラシ刺さんぞー」
「んーひんひゃん、おひゃひょうネー」
「おーおはようさん」



ガクンガクン揺れる頭を手で押さえると、眠そうな眼で見上げられて朝の挨拶を告げられる。
それに返して、ちょっと洗面所の前を譲って貰うと、冷たい水で顔を洗う。
少しの間なのに、手が冷たさに痺れた。



「ひんひゃん、ひへー」
「あー剃る剃る」



顔を洗う為に身を屈めていた所で横から神楽の手が伸びて、顎の辺りを撫でられる。
少し伸びたヒゲが、神楽の小さな手と擦れてザリザリと小さな音を立てた。
それが面白かったのか、さっきまで眠そうな眼だったのが嘘のように楽しそうに瞳を輝かせてさらに擦られる。



「って、ちょぉおぉおぉおっ!皮剥ける!!皮剥けるから!!!」



ちょっとの間遊ばせてたら、遠慮なく力を込めて擦られだして慌てて神楽の手を掴んで遠ざけた。
お前はホント、気を付けなさい!



「二人とも遊んでないで早くすませちゃって。朝ご飯冷めちゃうよー?」
「「はーい」」



台所から新八の声が聞こえて二人揃って返事を返す。
いや、別に銀さんは遊んでないんだけどね?
髭剃りは後に回して、洗顔と歯磨きを終わらせて居間に戻る。
一足先に戻っていた神楽はすでに定位置に着いて、新八に山盛りで白飯をよそって貰っていた。
今朝は、ワカメと油揚げの味噌汁と、昨日特売だった魚の干物と白飯。
出来たてだと無言で告げるように、温かな湯気がどれからも上っていた。



「ほら、銀さんも座って。食べましょう」
「はいよ」



よっこらと思わず掛け声を零してソファに座ると、すでに茶碗には大盛りで白飯が盛られている。
今日は朝から仕事と言う事で、昨夜新八は万事屋に泊まっていたので一緒に朝食を取る為、新八用の茶碗にも白飯が盛られていた。



「んじゃ、いただきます」
「いただきますヨー」
「はい、召し上がれ」



きちんと手を合わせてから箸を持てば、にっこりと笑って新八がそう言った。
あーなんつうかねぇー。
別に何時もと変わらないし、きっと何処の家でも見られるような光景。
普通なのに、な。
特別でも何でもないこんな光景が幸せだなとか思うのは、俺も年取ったせーかねぇ。
気付かない内に箸が止まっていた事に、新八に不思議そうに声を掛けられたけど何でもないと軽く流す。
あーホント、やべぇなぁー。
弛みそうになる口元は、味噌汁を啜る事で隠した。











END





日常の光景を幸せと思えるのは、一人じゃないから。
何気ない幸せに気付ける事が、一番の幸せ。
2009.01.24




















094.夕焼け





その優しい色。





夕焼けは嫌いだった。
この身を血に染めたあの頃を思い出せる物だったから。
血を浴びてない筈なのに、真っ赤にこの身を染め上げるソレは、まるで俺を責めているように思えた。
だから、血のように真っ赤な夕焼けが嫌いで目を逸らしてばっかりだった。
・・・そう、嫌いだった。
気付けば過去形に変わった言葉。



『家族と思ってくれていいですからね』



その一言で、変わった。
血を連想させる夕焼けに重なったのは、瞳に薄っすらと涙を浮かべて口唇をへの字に曲げて、泣くのを堪えようと必死になる横顔。
その時初めて、夕焼けの紅が優しい色だと知った。
そして気付く。
この身に浴びさせかけられるコレは、俺を血に染めて責め立てる訳じゃなく、優しく温めるように包んでいてくれた事に。
都合の良い解釈だと笑われても良い。



「綺麗な夕焼けですね、銀さん」



優しい紅に照らされて、隣でお前が笑ってくれるなら・・・。



「だなぁ」



俺も笑って夕焼けを見詰める事が出来るから。










END





心変われば世界は優しくなった。
2008.09.19




















095.雪解け










096.額合わせ










097.ひみつ





どう考えても、俺は新八に惚れてるらしい。ってか、惚れてる。
うん、惚れてる惚れてる。
だって、新八が他の奴に笑顔向けてたら腹立つしね、その笑顔向けられてる奴に。
いっそ抹殺してやろうかって思うしね。
ソファでゴロゴロダラダラしてたら、好い加減にしゃきっとしろ!!て腰に手を当てて怒る姿なんか、怖いどころか可愛いとしか思えないしね。
口で言い負かせれば、拗ねてツンって突き出す口唇にそのままちゅーすんぞゴラァアァァア!!って叫びたくなるしね!!
けど、まだまだこれは秘密。
確実に新八を手に入れる為に、計画立ててじっくり時間掛けて落としてやろうと思います。
勿論、新八に寄って来ようとする虫は全力で排除します。
とりあえず今は・・・。
忙しそうに家事をこなす姿を堪能しますかねぇ。
ばれないように、こっそりと・・・。










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そして勘違いされる坂田です。
2009.04.29




















098.おやすみ





銀さんを、心の内の読めない人だと思っていたのは、もう随分前の事だ。
色々・・・本当に色々な事を一緒に乗り越えて、少しずつその内側を見せてくれるようになった。
だけど、やっぱりそう簡単には全てを見せてはくれない。
確かにそれは少しだけ悲しいし、寂しいと思う。

でも、それで良いんじゃないかと僕は思うようになった。

時折、何かあったなんて話してはくれないけど、迷子になった小さな子供のような表情を浮かべて銀さんは僕を見るようになったから。
そんな時は、ソファの端に座り直してポンッと一回膝を叩く。
合図に気付いた銀さんは、何も言わずに僕の膝を枕にソファに横になる。
僕のお腹に顔を埋めるように横になるから、どんな表情をしているのか分からないけど。
膝に無防備に預けられる頭の重みや、左手で触れた右肩から強張りが少しずつ溶けるのを知っている。
ふわふわと、気侭に跳ねる銀髪を右手でそっと撫でれば、細く長くゆっくりと息を吐き出すのを知っている。

きっと、今はそれで十分なんだろう。

何時か、何かあった時にはちゃんと話してくれる日が来るかもしれない。
それがどの位先の事かは分からないけど・・・もしかしたら、そんな日は来ないかもしれないけど。
それでもきっと、銀さんは僕に合図をくれる。

だから僕は、その合図を見逃さないのにこの人の傍にずっと居よう。

何時の間にか寝息を立てていた銀さんも、それを望んでくれればそれで良い。



「おやすみなさい。銀さん」



ふわふわと揺れる銀髪を梳きながらそっと囁けば、少しだけ銀さんが笑ったような気がした。
















END






3月13日〜の絵茶で、魂史記の之ノ字さんが描いてくれたもの(↑)に付けた小話です。
素敵絵なのに、小話が微妙ですみませんんんんん!!!
しかも、この小話貰ってくれるそうです。やっぱり、彼女は天使か女神だと思う(目がマジ)
2010.03.14




















099.みんな










100.穏やかな