081.マフラー





「んじゃ、いってくらぁ〜」



久々の依頼に出掛ける為に、ブーツに足を突っ込んでサイドのジッパーを上げながら奥に向かって声を掛ければパタパタと慌てた足音がやって来る。
それに、気付かれないようにこっそり。でも、確かににんまりと笑った。



「銀さんマフラー!!」
「おー忘れてた」
「寒がりの上に風邪引き易いのに、何で忘れるんですか?今日は何時も以上に寒いって言うのに」



呆れた表情で紅いマフラーを差し出す新八に、受け取る為の手は出さず、んっと首を突き出す。



「無精者・・・」



さらに呆れる新八を他所に、はーやーくー等と催促してやれば、溜息と共にふわりと首に掛かるマフラー。
顎の下で一回交差させて両端を背中に回そうと、新八が一歩踏み出す。
敲きに立って少しだけ背を丸めた俺と、上がり框に立つ新八の目線はほぼ同じ。
眼鏡越しの黒い瞳とカチリと視線が合って、俺はニヤリと笑う。
きょとりと瞳を瞬かせる一瞬を逃さず、首を伸ばして新八の口唇を掠め取った。
途端、今度はくるりと丸くなる瞳。
チュッと態と音を立てて口唇を離し、もう一度いってくらぁ〜っと声を掛けながら玄関の戸を開ける。
肩越しに振り返って見れば未だ何が起こったのか分かっていないのか、何処か呆けた表情を浮かべる新八に。



「次は『ただいまのチュー』な」



またニヤリと笑って言ってやれば、半分程閉めた戸の隙間から、ボンッと音がしそうな勢いで真っ赤になった新八の顔が見えた。










END





隙在らば狙ってます。坂田テメェ・・・(待て)
2009.12.31




















082.ひっそり (坂田さん一家)










083.ごめんね










084.オルゴール










085.ろうそく










086.静寂 (坂田さん一家)










087.白い息 (坂田さん一家)










088.大きな (坂田さん一家)




















089.いっしょ






昼寝から目覚め喉を渇きを潤す為に台所に踏み入れば、邪魔にならない水周りの隅っこで、赤いカーネーションが一輪挿しの花瓶に飾られていた。
何で?と首を傾げたのも束の間、今日の日付を思い出して、あぁなるほどと納得する。
五月の第二日曜日。
今日は『母の日』だ。
これは、神楽から新八への贈り物。
神楽にとっちゃ、新八は同じ万事屋の従業員と言うだけでなく家族で。
しかも、ポジションは地球のマミィだ。
何とも微笑ましい事だと頭を掻いて、俺は漸く冷蔵庫に向かった。
が、途中で止まる足。
台所の隅っこで、水を溜めたバケツにこれまた赤いカーネーションが一輪。
はて?これは何だ?と再び首を傾げていると、玄関から新八の帰宅を告げる声が聞こえた。
軽い足音が近付き、買い物袋を携えた新八がひょこりと現れる。



「あれ?もう起きてたんですか?」



俺が何時から昼寝してたか知ってるくせに“もう”何て付けるのは、嫌味でしかない。
それも何時もの事と、まぁなとダルそうに返せば、新八はやれやれと肩を竦めた。
不意に視線を動かしたかと思えば、一輪挿しに活けられた・・・ってか、活けたカーネーションを見詰めほわりと柔らかい笑みを浮かべる。
きっと、いや、間違いなく。
花が萎れてしまうまで、新八はそれを目にする度同じような笑みを浮かべるんだろう。
それを思い、ガシガシと頭を掻いた。



「はい銀さん。喉、渇いてたんでしょ?」



何時の間にやら買い物袋の中身を片付けた新八が、いちご牛乳を半分ほど入れたコップを差し出して来た。
半分だけの量に文句を言い掛けたが、此処で文句を言おう物ならそのまま没収される事は重々承知で、いちご牛乳を飲む前に文句を飲み込んで。
あんがと、と短く礼を行って受け取った。
喉の渇きを潤す為に一気飲みして一息付いた所で、なぁと新八に声を掛けた。
それ以上は何も言わなかったけど、新八はそれを待っていたようににこりと笑うと。
バケツに活けられてたカーネーションを取り上げ水を切ると、はいっと俺に差し出して来た。
俺はオメェの母ちゃんじゃねぇぞと、少し不機嫌そうに返せば、新八はクスクスと楽しそうに笑って首を横に振る。



「アンタへじゃないですよ。アンタが渡すべき人が居るでしょ?」



どうせ何も用意してなかったんでしょ?問い掛けと言うよりも、核心の篭った言葉に、何の事だ?と惚けて見せた。
そんな俺の態度なんてお見通しだったのか、はいはいと簡単にあしらって、新八は無理矢理俺にそれを持たせ代わりにコップを取り上げる。



「さっさと行かないと、お店を開ける時間になっちゃいますよ?
お客さんとかに見られても良いなら、別に良いですけどね?」



にっこにこ。
面白そうに、楽しそうに笑うその顔が、腹が立つけど可愛いと思う事に、やっぱり腹が立つ。
あぁ、チクショー。出来た嫁だよオメェはホントによぉ!!
相変わらずにっこにこと笑う新八からコップを奪い返して、半ば叩き付けるようにしてシンクに置く。
きょとんとする新八を無視して、空いた手を掴むとヤケクソ気味に足を踏み出した。



「え?ちょ、銀さん?」



慌てて新八が俺を止めようとしたけど、無視して玄関に向かう。
オメェも一緒に来いと、ブーツに足を突っ込みながら口早に言って肩越しに少しだけ振り返る。
やっぱり其処にはきょとんとした表情の新八が居て。



「旦那の母ちゃんは、嫁の義母ちゃんだろうが」



ニヤリ笑って言ってやれば。
誰が嫁だ!!と、耳所か首まで真っ赤にして新八が叫んだ。










END





これでも母の日小説だと言い張ります。
何が言いたいのか分かんねぇよ!!と思われた方、すみません。
小説を書くには多少の勢いが必要だけど、勢いだけで書いちゃいかんと言う事ですね。反省!!
2010.05.09





















090.粉雪