030.はちみつ
031.噴水
032.赤い頬
「銀ちゃん、イイコト教えてやるネ」
感謝しろヨ?と言って、神楽がにひっと笑った。
さて、どうすっかねぇ・・・っと玄関の前で頭を掻く。
階段を上がる時、足音を立てないように気を付けていたので、中に居るだろう新八はまだ俺が帰って来た事に気付いて無いと思う。
帰って来たら必ず玄関でただいまを言う。
これは、万事屋がまだ俺と新八の二人だけだった時からの決まり事。
どうしても手が離せない状態で無い限り、新八は必ず出迎えてくれる。
まぁ、つまり・・・玄関の戸を開けるまでに腹を決めなきゃいけないって訳で・・・。
いや、別にそんな大層な事じゃないんだけどね?
「でもなぁー。改めてってなるとなぁー」
ほら銀さん、少年の心を持ってるし?シャイだし?と、誰に聞かせるでもなくブツブツ呟いてさらに頭を掻いた。
「あーチクショー・・・。神楽に乗せられてこんなもんまで買っちゃってどうすんのよ俺?」
頭を掻いていない逆の手を軽く上げて、手の中にある物にチラリと視線を向ける。
どうすんのよ俺?とか言ってても、最初からどうするか決まってんだ。
よしっと一つ気合を入れて、玄関の戸を開ける。
「たでぇーまー」
敲きにのそりと立って間延びした声を上げれば、パタパタと新八の足音が聞こえた。
「お帰りなさい銀さん。ご苦労様でした」
実は仕事の為に外出していたので、出迎えてくれる新八の言葉は柔らかく労わる響きが篭っている。
さり気なく片手を背中に隠して、新八が近づいて来るのを待つ。
ブーツも脱がない俺を不思議に思ったのか、一歩手前で立ち止まった新八はコトリと首を傾げた。
「上がらないんですか?また出掛ける予定でも?」
「あー・・・いや、そーじゃなくよー」
うーとかあーとか意味の無い声を上げる俺に、益々不思議そうに新八は目を瞬かせる。
このままでは埒が明かないと、ガシッと最後に大きく頭を掻いて背中に隠していた手を新八の前に突き出す。
その手に握っていたのは、ラッピングされた一輪の赤い薔薇。
「えっと・・・あの、銀さん?」
突然目の前に突き出された物に意味が分からないと言いたげに、新八は一輪の薔薇と俺の顔へと交互に視線を向ける。
「今日、何の日か知ってっか?」
「え?今日・・・ですか?」
「今日、1月31日だろ?」
「そうですけど・・・」
俺の問いに二度目を瞬かせて考えるそぶりを見せるが、結局は分からなかったのか、少し困ったように眉尻を下げた。
まぁ、そうだよなぁ・・・。
「ま、そう言う事だから」
「はっ?」
出来れば、俺の口から説明するのは勘弁して欲しいので、もういいやとばかりに身体の横に垂らされていた手を取って無理矢理俺の手の中にあった物を握らせた。
「やる」
「え?ちょ、銀さん!?」
乱暴に扱ったせいかラッピングの中で頭を揺らす薔薇に慌てて、もう一方の手をそっと添えた新八は無意識にか胸の前に引き寄せている。
え?え?っと驚いた表情を浮かべる新八を他所に、手早くブーツを脱いで居間に向かった。
柄にも無い事をやったせいか、何となく頬の辺りが熱くなってる気がする。
「いやいやいやいやっ!!意味分かんないんですけど!?え?何でっ!?」
「黙って受け取っとけコノヤロー」
「黙って受け取れない状況だから訊いてんでしょうがコノヤロー」
追い駆けて来た新八に着流しを引っ張られて思わず立ち止まった。
ちらっと肩越しに視線を向ければ、説明するまで離さんぞっと決意した瞳が眼鏡越しに軽く睨んで来る。
あーっと、今日何度目か分からない声を上げて、わしわしと後頭部を掻いた。
「俺も神楽に聞いたんだけど・・・。1月31日って1をアルファベットのI(アイ)。31をサイって読んで『愛妻の日』ってヤツらしいわ」
「はぁっ!?」
「だからよー・・・銀さんの奥さんにプレゼントしただけですが、それが何か!?」
「いやいやいや、アンタ何キレてんのっ!?ってか、恥ずかしくてキレる位なら最初からすんなよっ!!」
恥ずかしさの余り振り返って新八に噛み付けば、正論で噛み付き返された。
でも、それはその瞬間だけで、きっと吊り上げていた眉尻を下げてはにかんだ様な笑みを浮かべる。
「ホント・・・恥ずかしい人ですねアンタ」
「うっせぇ」
「ってか、人を『妻』カテゴリーに当然のように置くの止めてくれません?」
「んだよ・・・嫌なんかよ」
「そりゃ、僕だって男ですからね」
口唇を尖らせて問えば、苦笑いを浮かべた。
ホント、こんならしくない事やっぱすんじゃなかったと後悔をし始めた所で、新八がでもっと言葉を続ける。
「お花、ありがとうございます。凄く綺麗。それに・・・良い香り」
ふふっと笑って新八は一輪だけの薔薇に鼻を寄せた。
俺はと言うと・・・。
ほんのりと薔薇色に染まった赤い頬に誘われるように口唇を寄せた。
そして・・・。
同じように赤く染まっていたらしい俺の頬にも、そっと新八の口唇が触れた。
END
一番恥ずかしいのは、こんなもん書いた蒼月です(*゚▽゚)・∵. ガハ!
2009.01.31
033.さえずり
2009年03月06日〜2009年04月14日 拍手お礼小説に使用。
ちゅんちゅんと、朝も早くから雀が囀る。
楽しげな囀りがやけに鬱陶しい。
あーあーホント、朝も早くから勘弁してよ。
とっ捕まえて焼き鳥にすんぞコラァ。
何て毒吐きながら、あー煩ぇと布団を頭から被って遮断して、まだ足りない眠りを貪る。
雀がいなきゃ、こんな事でイライラせずに済むのにとちらりと考えて。
それが、一人だった頃の俺の朝。
今日も朝からちゅんちゅん雀が囀る。
あー煩ぇと、やっぱり布団を被って遮断するけど、あー朝かーと喜ぶ自分が居た。
うつうつ微睡みの中、気遣うようにそっと玄関の戸を開く音が聞える。
少し間を置いて、キシキシとこれまた遠慮するような足音。
大体この辺りで微睡みから完全に覚醒するけど、小さな物音に目を閉じて耳をじっと傾ける。
水を使う音、コンロを着火する音。
一定のリズムでまな板を叩く包丁の音。
一人じゃありえなかった、微かな音の群れ。
思いっきり声を上げて笑いたいのをぐっと堪えて、只管耳を済ませる。
襖一枚隔てた向こうから聞える音と、窓の外からは雀の囀り。
今日も朝を告げてくれてありがとな、なんて…。
思っても絶対ぇ言わねぇけど。
END
ツンデレ坂田(おい)
2009.04.14
034.ビー玉
035.花束
新八がくれるのは、綺麗な物ばかり。
まるで、綺麗な花を一輪一輪そっと手渡してくれるように。
綺麗な花束が出来る。
色取り取りの綺麗な花束が。
それなのに、此方は一輪の花も返す事が出来ずに、また一輪花を受け取る。
また少し大きくなる花束。
ごめんね、何も返せなくて。
その代わり、新八がくれた花で出来た花束は枯らさないように大事に大事にするから。
そして、一粒だけ植えた種をそっとそっと育てるよ。
何時か抱え切れない位にこの花束が大きくなったら、その時には育てた花も綺麗に咲いてくれている筈。
新八がくれた花で出来た花束には叶わないだろうけど、沢山の想いを込めて育てた花を受け取って。
『ありがとう』と『大好き』を。
END
抽象的過ぎる上に、もの凄く恥ずかしい。
旦那でも娘でもどちらでもお好きな方でご想像を!!(逃)
2009.05.01
036.公園
さぁ、帰ろう。
「あ、お母さん!!」
突然上がったそんな声に、神楽は顔を上げた。
釣られたように、他の子供達が顔を上げる。
公園の入り口の傍で、買い物袋を片手に提げた女性が一人、声を上げた少女に向かって小さく手を振っていた。
表情こそ逆光で見えはしないが、きっと穏やかな笑みを浮かべている事だろう。
辺りは茜色に染まり始め、公園で遊び子供達が帰宅する時間が差し迫っている事を告げていた。
「帰るね!!」
少女は笑顔でそう言ったかと思うと、返事を待たずに駆け出す。
まるで仔犬のような姿は、微笑ましいの一言に尽きる。
母親の元に辿り着いた少女は一言二言母親と言葉を交わして手を繋ぐと、一度だけ振り返ってつい先程まで一緒に遊んでいた友達へと手を振った。
神楽の直ぐ傍らで、それに応えるようにバイバイと言う声が上がり、手を振り返す姿がある。
神楽も、また明日ネと言って手を振り返した。
一人が帰途に着いた事をきっかけに、残った者も帰ろうかと砂埃で汚れた衣服を叩く。
そして、また公園に声が響いた。
その声に応えたのは、少年の二つの声。
また駆け出す足音。
呼ぶ声、呼ばれる声。
交合に響いて、あっと言う間に公園には神楽だけが取り残される。
それら全てを手を振って見送って、神楽は広げて肩に掛けていた番傘をクルリと回した。
「お腹空いたから帰るネ」
ポツリと、誰に聞かせるでもなく呟いて、神楽は呼ぶ声も呼ばれる声も無いまま歩き出そうとした。
その時。
「神楽ちゃーん」
「かーぐらぁ」
「わん!!」
響いた三つの声に、はっと顔を上げれば少女を迎えに来た母親のように公園の入り口で佇む影。
一つだけでは無く、三つ。
「お腹空いたでしょー?早く帰ってご飯にしよー」
「今日はカレーだぞー。肉は入ってねぇけどなぁー」
「わんわん!!」
柔らかく響く声。
やる気なくダルく響く声。
早く早くと急かす元気な鳴き声
耳で拾った三つの声を全身に響かせて、神楽はニヒッと笑った。
「はいヨー!!!」
元気良く応えて駆け出せば、番傘が嬉しそうにクルリと回った。
END
ベタだけど、押さえて置きたい愛娘お迎えネタ(笑)
2008.09.19
037.あくび
038.おもてなし
2010年02月10日〜拍手お礼小説に使用。
039.ふわふわ
特別だと思っていいですか?
銀さんの髪は色だけで見るとちょっと硬そうに思うけど、天パだからふわふわ。
少し細めで量が多いみたいだから、さらにふわふわ。
銀さんは自分の髪があんまり好きじゃないみたいだけど、実は僕は凄く好き。
触ると、長毛種の猫みたいな感触で、何て言うか・・・癒し?
それに、銀さんの髪がふわふわなのは見れば分かるから知ってる人は多い。
でも、そのふわふわな感触を知ってる人はきっと数える位じゃないかなって思う。
一応あんなんでも大人だし、背が高いからそうそう頭を撫でられる事は無い。
って言うか、銀さんはあんまり人に触れられるのが好きじゃないみたいだしね。
不意打ちとかは別として、相手が自分に触れようとする意思を少しでも示すと、さりげなく距離を取って触れさせない。
本当に猫みたいな人。
でも、でも・・・ね。
僕と神楽ちゃんだけは別。
触るぞ!!って意思表示しても、気付かないフリしてお好きにどうぞって感じで触らせてくれる。
ねぇ、銀さん。
これは僕等を特別だと思ってくれる証拠だと思っていいですか?
僕等は、アンタの家族だから特別だと思ってくれると思っていいですか?
僕の膝を枕にして眠る銀さんに、まだ一度も音にした事のない問いを胸の中だけで呟いて、ふわふわの髪の中にそっと指を差し込んだ。
END
絶対坂田は起きてます。
2008.09.07
040.なでなで