012.おめかし





ずいっと一歩前に前進されて、ずざっと一歩下がる。
さらに一歩二歩と前進されて、合わせて一歩二歩と下がったら、ドンッと背中に衝撃。
ひやりと堅いそれは、振り返らなくても何か分かる。
これ以上の後退は許さないと阻むのは、物理的にも精神的にも逃げ道を塞ぐ壁。
さぁーっと血の気が引く俺に、目の前のきらびやかな着物を纏った人達がにやりと笑った。
着物だけならきらびやかな女物。
だけど・・・その首から上は明らかに、女ではない造りのゴツイ男の顔。
きっちりと分厚い化粧を施された彼等・・・否、彼女達は歌舞伎町の夜の蛾。



「「「「「覚悟しなさい」」」」」



ひどく楽しそうに零された言葉に、無理と音も無く呟いたけど・・・。
意味なんてまったくなかった。










「はーい!皆さん注目!!久々の新人よぉ!!!」



そこそこ広い店内に野太い声が響いて、わいわいと騒いでいた客達の視線が声の持ち主に注がれる。
あぁ、もう何か色々終わったなと半分意識を飛ばす中、残った意識の半分で、どうか知り合いが客の中に居ませんようにと祈った。
薄紅地に白の蝶を染め抜かれた着物を纏って、地毛と同色の付け毛をポニーテールに。
ばっちりメイクされた顔を僅かにひく付かせて、ヤケクソになって言ってみる。



「新人の閃子でーっす!よろしくお願いしますっ☆」



急募、介錯人。
そんな言葉が、脳裏に浮かんで消えた・・・。










END





かまっ娘倶楽部に依頼(拉致)された長男の悲劇(笑)
長男幼少時代とどっちにするか迷ったけど、あえてこっちでww
長男弄くり隊ですΣd(・ω・´。)
2008.11.09




















013.そよ風






「何だかんだ言ってても、閃時はちゃんと銀さんの背中を見て育ってますね」



チクチクと針を進めながら、そう呟いて新八がにこりと笑った。
はてさて、何がどうしてそんな発言に繋がったのか。
酒の入ったコップ片手に首を傾げれば、新八はクスクスと楽しそうに笑い声を零して繕い終わったばかりのそれを目の前に広げて出来映えを確認していた。
俺のライダースーツに良く似たデザインだが、袖がなく素材も違う其れは閃時のだ。
何とも綺麗に繕われているので見ただけでは分からないが、繕われる前は彼方此方裂けていた。
昼間、蓮華をお妙に預けて久しぶりに俺・新八・閃時の三人で依頼に出向いた。
最近じゃ、新八は道場があるので依頼を請け負う回数が減り、俺と閃時が一緒にか各自でこなす事が多かったので本当に久しぶりの事だ。
まぁ・・・何の因果か、大立ち回りを披露する破目になったのは別に久しぶりでも何でもないんだけどな。
普通なら非日常が日常と化している事に、それはどうなんだと思いはしたが今更だと思い直す。
兎にも角にも、多少の傷と斬られた衣服と引き換えにそれなりの報酬は頂けた。
階上の自室では、とっくに閃時は夢の中だろう。
本日あった事を思い返してみたが、新八の発言が何処にどう繋がるかやっぱり分からずもう一度首を傾げた。



「分かりませんか?」



問われ、益々首を傾げる。
それを見て、やっぱり新八は楽しそうに笑う。



「あの子、一対一の時はそうじゃないんですけど・・・今日みたいに大人数に囲まれると動きが変わるんです」
「何それ?状況によって動き変えられるって事?」
「意識してじゃないですね。無意識に最も効果的な動きを選択してるんですよ。
閃時自身、気付いてない可能性はありますけど」
「効果的な動きねぇ・・・。剣筋は新八に似て来たなぁとは思ったけど」



真っ直ぐで迷いの無い剣筋は、本当に新八に良く似ている。
大立ち回りをやらかしながら、随分強くなったじゃねぇのと内心感心したものだ。



「何で其処には気付いて、他は気付かないかなぁ」



呆れた表情を浮かべる新八に、年甲斐もなく口唇を尖らせれば。
四十路越えたおっさんがそんな顔しても可愛くないですと、間髪入れずにぶった切られた。
愛が見えないっ!!



「ほら、よぉく思い出して下さい」



あの子がどんな風に動いていたのかと、新八は意味有り気な笑みを浮かべた。
促され、視線を天井に向けて記憶の引き出しを開ける。

跳んで走って、切り結んで。
迷いの無い真っ直ぐな剣筋で相手を叩き伏せて。
相手の刀を受け流して、遠心力をたっぷり乗せた蹴りを叩き込んで・・・って、アレ?
いや、うん。それは効果的だ。着地と同時にステップ踏んで次をまた叩き伏せて。
型に拘らず、流れるように動く身体。
俺なら間違いなく次はそう動くだろうなと思う動きを、形にしていく姿。

あぁ、そう言う事かと小さく唸って額を押さえた。



「気付きました?お父さん」



クスリと新八が笑う。
確かに剣筋は新八に良く似ている。
だけど、それを生かす動きは俺にそっくりだ。
稽古なんて碌に付けてやった事も無いのに、何時の間に・・・。



「偶にはね。あの子に稽古付けてあげて下さい。喜びますよ。
親の背中を見て育ってくれるなんて、そんなに長くはないんですから」
「あー・・・そうねぇ。考えとくわ」



新八の言葉に額に当てていた手で顔を撫で下ろし、にやけそうになる口元を隠してそう呟いた。










END





長男は、まだまだ成長途中って事で『そよ風』を選択。
はい、こじ付けですorz
何だかんだ言いながらも、息子は父親の背中をちゃんと見て育っております。

2009.10.12




















014.おそろい





仲良しですから。





ターミナルの到着ロビーに出た神楽は、うーんっと伸びをすると大きく息を吐き出した。
特別許可で一緒に船に乗っていた定春も、ぐうっと伸びをした後にブルブルと全身を振るわせる。



「定春、早く家に帰るネ」
「わふっ」



よしよしと相棒の頭を撫でると、賛成とばかりに控えめに定春が鳴いた。
ニヒッと笑って、神楽は軽い足取りで歩き出す。
今回は少し遠い星に出ていたので、地球に戻ったのは一ヶ月ぶりだ。
昨日の内に今日帰る旨を連絡していたので、今夜はきっと地球のマミィがご馳走を用意してくれてるネと、神楽は鼻歌を歌う。



「姉様!!定春!!」



到着ロビーのゲートを通り抜けた所で、聞き慣れた幼い声が響いて神楽はくるりと瞳を大きくさせると素早く視線を巡らせた。
次々とゲートを通り抜ける同じ船に乗っていた人々が壁になって、声の主は直ぐに見つからない。



「蓮華、何処アルか?」
「姉さん、こっちだ」



きょろきょろと辺りを見渡していると、今度は聞き慣れた少年の声が神楽の気を惹く為に響いた。
人込みの中でも通る声を頼りに視線を向ければ、人の波の向こうで軽く片手を上げて笑う少年の姿。
そして、片腕に抱き上げられた少女の姿が見つかった。
ぱっと笑顔を浮かべた神楽は、素早く定春に人は轢いちゃ駄目ヨ?と注意すると、自分はスルスルと人の波を縫って二人に近付く。
近付いて、目を丸くさせた。



「お帰り、姉さん」
「お帰りなさいなのです、姉様」



何処か悪戯が成功した悪ガキのような笑みを浮かべる少年と、ニコニコと満面の笑みを浮かべる幼い少女に、神楽は反射的にただいまヨと言葉を漏らした後、パチパチと目を瞬かせる。
普段は、深い藍色の洋装な閃時と着物に袴が基本な蓮華が、今日はチャイナ服を身に付けていたのだ。
閃時は黒生地に銀糸で龍の刺繍をされた物で、蓮華は薄い紅生地に白糸で蓮の花が刺繍された物である。



「どうしたネ、その格好」
「あぁ、コレ?ちょっと前に移転する店の荷運びの依頼があってさ、売れ残りだからって報酬のおまけでくれたんだ。姉さん迎えに行くんだから折角だしと思って」
「姉様とおそろいなのです!!」
「ってか・・・すっげぇ偶然だな、コレ」



神楽の姿を頭の天辺から爪先まで見下ろして、閃時が笑った。
何故なら・・・。
神楽が今日身に付けているのは、紅の生地に艶を落とした金糸で全身に絡み付くように龍が刺繍され、左胸と右の太腿の辺りに同じく艶を落とした銀糸で蓮の花が刺繍されているチャイナドレスだったからだ。



「本当アルな」



釣られたように神楽が笑えば、未だ閃時に抱き上げられたままの蓮華が違いますなのです!!と声を上げた。
きょとりとした姉と兄の視線を受けて、蓮華はにっこりと笑う。



「蓮華と姉様と兄様が仲良しだから、偶然じゃなくて当然なのです」



えっへん!!と小さな胸を張る蓮華に、神楽と閃時は顔を見合わせるとぷっと小さく吹き出して、その通り(アルな・だな)と、蓮華の頭を撫でる。
楽しげなきょうだい達の傍らで、大人しくしていた定春がパタパタと尻尾を振って、賛同するようにわんっと鳴いた。










END





神楽なら、どんな派手なチャイナドレスでも着こなしてくれると信じてます(馬鹿)
ちなみに、蓮華の髪も神楽とおそろいでした(そう言う事は文中で書けや)
2008.09.06




















017.お買い物





だって心配なんです・・・。





「これがお使いメモ。もし置いてる場所が分からなかったら、お店の人にちゃんと聞くんだよ?お財布は落とさないようにちゃんと首に掛けて置く事。出すのはお会計の時だけね?」
「はいなのです!!」



麗らかな昼下がり、万事屋銀ちゃんこと坂田さん家の玄関ではそんな会話が繰り広げられて居た。
青い着物と袴を身に纏うのが、坂田さん家の良妻・新八さん(29歳)薄い紅色の着物と紺色の袴を身に纏うのが、坂田さん家の次女・蓮華ちゃん(5歳)である。
ぴんっと右手を上げてとても良いお返事をした蓮華に満足そうに新八はにっこりと笑うと、紐の付いたガマ口財布を蓮華の首に掛けて、懐に仕舞ってやった。
お使いメモは、取り出しやすいように左の袂に仕舞ってやる。



「母様とのお約束言える?」
「言えますなのです!!」
「じゃあ、言ってみようか?」
「おうだんほどうをわたる時は、あおしんごうで右を見て左を見て手を上げてわたりますなのです」
「二つ目は?」
「知らない人にはぜったいについていっちゃダメなのです」
「最後の一つは?」
「まっすぐお家にかえって来ますなのです!!」
「良く出来ました」



小さな手に繋がる指を一本ずつ折り畳みながら、玄関に出る前に新八に言い聞かされた三つの約束事を確かに言葉にすれば、よしよしと頭を撫でて新八は微笑む。
蓮華も褒められた事が嬉しかったのか、にっこりと笑い返した。
上がり框に正座して蓮華と目線を合わしていた新八は徐に立ち上がると、既に草履を履いて出かける準備万端だった蓮華を、自分も草履を履いて手を繋ぐと階段下まで共に降りる。
階段下で手を離すと、新八はしゃがみ込んで再び蓮華と目を合わせた。



「いってらっしゃい。気を付けてね」
「いってきますなのです!!」



そう言って新八に背中を向けると、蓮華は元気良く歩き出す。
そっと立ち上がって暫し小さな背中を見送っていると、今し方蓮華が通り過ぎた十数m先の物陰からひょこりと二つの銀色が突き出した・・・かと思うと素早い動きで大通りを幾らか進み、また素早い動きで物陰に引っ込んだ。



「・・・何やってんのアレ」



二つの銀色の正体に気付いて、新八は額を押さえる。
かと言って、追い駆けて引き摺り戻すには距離があり過ぎる上に、蓮華に気付かれては意味が無いと思い諦めた。



「ったくもぉ・・・気付かれないでよね。二人とも」



交差点を曲がってしまった為に見えなくなった三つの背中に、新八はただ苦笑いを浮かべた・・・。










END





蓮華、初めてのお使い。そして、馬鹿父(39歳)&馬鹿兄(13歳)
2008.09.014




















043.ちょうどいい





坂田閃時と言う少年は、基本的に何かを無駄にする事を嫌う人種である。
特に嫌うのは『時間』を無駄にする事だ。
例えば、彼の父親の銀時がしょっちゅうと言うか毎日する昼寝を、彼は余程疲れているか、睡眠時間が十分に取れなかった時など、昼寝をする方が効率が良い場合以外では滅多にしない。
良く言えば合理的、悪く言えばただの貧乏性である。
そんな彼が考え事をする場合はどうするか?
他の事を排除して考え事に没頭するのが大多数で、その場合、傍から見ればただぼんやりしているだけに見えるだろう。
大多数がそうであっても『時間』を無駄にする事を嫌う彼がその方法を取る事は無い。
余程の事が無い限り。





「んぁ?」



何時も通りソファに転がって惰眠を貪っていた銀時は、唐突な覚醒に妙な声を上げてパカリと目を開けた。
しょぼしょぼする目を瞬かせた後、顎が外れるのでは無いかと言うほどに大きく口を開けて欠伸を一つ零す。
寝転がったまま伸びをすれば、彼方此方でパキポキと間接の鳴る小気味良い音がした。
ふと、人の気配を感じて向かい側に銀時が視線を向ければ、閃時が片足をソファの上げ立てた膝に顎を預けながら、その足を両腕で抱え込むようにして座っている。
一瞬寝ているのかと思った銀時だったが、俯き加減になっているもののその両目は開かれていて、ぼんやりと手元を見詰めていた。
釣られるように視線を落とせば、左手で何かを握り、チマチマと右手を動かしている。
動く右手には細長い金属の棒。
さらに、小指を下にして拳を作る左手からは、右手が動くのに合わせてにょろにょろと紐らしき物がドンドン伸びている。
早い話が、心此処に在らずな状態で彼はリリアンを編んでいた。
焦点の合わない瞳で手元を見詰め機械的に手を動かし糸を編む姿は、正直ちょっと怖い。
が、坂田さん家では見慣れた光景なので、銀時は『あぁ、何か考え事してんのか』と、あっさり状況を把握して華麗にスルーした。
むくりと起き上がると、もう一度欠伸を零し、銀時は自分が寝転がっていたソファの背も垂れを抱え込むようにして上半身を捻る。
視線の先には和室の襖を開け放ち、その真ん中でせっせと洗濯物を畳む新八の姿。
見慣れたその姿に、にへっとだらしなく相好を崩した。



「し〜んちゃ〜ん」
「はーい、何ですかー。年中無休でだらけてる銀さーん」



穏やかな声音で、ぐさりと刺さる言葉をさらりと口にする新八にもめげずに、銀時はさらに声をかける。



「銀さん、新ちゃんが淹れてくれるお茶飲みたいでーす」
「その位自分で淹れろやっ!!!」
「だから、新ちゃんが淹れてくれるお茶が飲みたいんだってー」
「アンタ、人が今何してるか見えてないんですかっ!?自分でやって下さいっ!!」
「えー?やーだー」



ギッ!と睨まれながらも、ヘラヘラと笑い銀時は間延びした声を上げ続ける。
実際喉が渇いてお茶が欲しいと言う事に嘘はないだろうが、それよりも新八に構って貰いたいオーラを遠慮なく振り撒いていた。
その後も淹れない・淹れての応酬が続き、最後の一枚を畳み終わってしまった新八は盛大な溜息を吐き出すと渋々と立ち上がる。



「ったくもー・・・ホント自分では動かないんだから」



ブツブツと文句を言いつつも居間を横切って台所に向かう新八に、銀時はイヒッと満足そうな笑みを浮かべた。



「お菓子はないですからね」
「えー」
「えーじゃないっ!!」
「新ちゃんこわーい」
「好い加減しばき回しますよ」



ジトッと銀時を睨みながらも、急須の湯のみを乗せた丸盆をテーブルに置く仕草は穏やかだ。



「閃時も飲む?」



両親のくだらないやり取りの間も黙々とリリアンを編み続けていた閃時に新八が声を掛ければ、二呼吸分間を置いて、小さく頭が上下に振られた。
余程考え事に没頭しているのだろう、反応が鈍い。
が、これも何時もの事なので新八も気にせず三人分のお茶を淹れた。
先ず銀時の前に湯飲みを置き、次に閃時の前に湯飲みを置くと、自分の分を片手に銀時の隣に腰を下ろす。



「しーんちゃーん」
「はいはい、何ですか?って、寄って来んな」
「まぁまぁ」
「何がまぁまぁ!?ってか、お茶飲みたかったんでしょうが!?」



にじにじと寄って来る銀時に、犬を追い払うようにしっしっと新八は手を振るが、その程度で銀時の行動を抑止出切る筈も無い。
完全に構ってモードに突入していると判断した新八は、程よく冷めたお茶を一気に煽ると素早く立ち上がった。
まだまだするべき事が残っているので、銀時を構っているような暇はまったくないのだ。



「もういいです。もう一回昼寝でもしてて下さい。邪魔ですから」
「ちょっ!!酷くない!?それ酷くない!?」
「事実を述べただけです」
「新ちゃん冷たいっ!!銀さん悲しいっ!!」
「はいはい」



喚く銀時を軽く流して新八はモップを取り出すと、事務所兼居間の掃除を始めた。
その後ろを銀時が付いて回りながら、構えオーラをさらに振り撒く。
はっきり言って鬱陶しい。
少しの間はそれも適当に流していたが、好い加減我慢の限界を感じた新八が怒鳴ろうとした瞬間・・・。



「親父ウザイ」



抑揚の掛けた閃時の呟きと共に、ガスッ!と何かが突き刺さる音が響いた。
銀時から。



「いったぁああぁぁあぁぁぁっ!!ちょっ!!マジで何か刺さってるぅううぅぅうぅっ!?」



ぎゃあぎゃあと喚きながら後頭部突き刺さったモノを引き抜くと、ピューと血が噴出したがこの際無視である。



「閃時ぃぃいぃぃっ!!いきなり父ちゃん攻撃するってどう言うこと!?」
「ウザイから」
「ウザイから攻撃ってどう言うこと!?ってか、何でリリアン編んでんのお前ッ!?」
「編み棒で」
「違うからっ!!何を使って編んでるか聞いてるんじゃないから!!どうして考え事する時にリリアンやってんのか訊いてるからこの場合っ!!」



噛み付く勢いで銀時は閃時に向かって喚くが、何も聞こえません的な態度で、閃時は黙々とリリアンを編み続ける。



「ってか、編み棒父ちゃん持ってるのに何でさらに持ってんの!?」



可笑しくね!?コレ、可笑しくね!?と突っ込むその手には、確かにしっかりと耳掻きの形状に似た金属で出来た編み棒(血付き)が握られていた。
そして、閃時の手にもしっかり握られチマチマとリリアンを編んでいる。
反応の無い閃時に居た堪れなくなったのか、寂しくなったのか、銀時はコホンと咳を一つするとビシリと編み棒で閃時を指した。



「この際編み棒二本持ってるのはいいや。とりあえず、父ちゃん攻撃してごめんなさいって言えコノヤロー。ほら、ゴーメーンーナー・・・」
「親父煩ぇ」



ちょっと調子に乗った銀時の額に、再びガスッと音を立てて編み棒が突き刺さる。
衝撃そのまま後ろに倒れた銀時を無視して、閃時は自分の傍らに一度手をやると再び編み棒を手にチマチマとリリアンを続けた・・・。





新八はと言うと、これも何時もの事だと肩を竦めて掃除を諦めると、倒れて白目を剥く銀時は放置して少し早い夕食の準備をする為に台所に向かった・・。










END

考え事する度に生産されるモノは後々加工され、蓮華の髪飾りになったり、束ねて食器洗い用のスポンジになります。
後、ボンドとかで固めて鍋敷とかに・・・。
ちなみに、編み棒はまだまだ予備があるので復活しても刺されます。
太門さーん!!イメージとはちょっと違うかもしれないけど、これでOKですかー!!!(笑)
お題の『ちょうどいい』は『考え事するのにちょうどいい』ではなく・・・。
『(親父を)攻撃するのにちょうどいい』と言う意味です(おい)
2008.10.31




















054.散歩





「ありがとうございました」
「お大事に」



その言葉を受けて、ぺこりと頭を下げると清潔感溢れる真っ白なドアを閉めた。
半分だけの視界に少々戸惑いながら壁伝いに待合室に戻る。
暫く待っていると名前を呼ばれ、保険証と診察券を渡された。
飲み薬と軟膏の服用・使用方法の説明を聞き、最後に予備の眼帯も入っていると言われる。
それに頷いて診察料を払えば、またお大事にと言葉を掛けられた。
軽く会釈を返してその場を後にする。
スリッパから履き慣れたブーツに履き替え、自動ドアを潜れば。
病院の入り口にある数段の階段の下から二番に、背中を丸めて座り込む親父を発見した。
何処と無く元気の無い姿に大仰な溜息を吐き、大きな歩幅で近寄る。
ふっと、俺が作る影に覆われて親父が振り返ると同時に、拳を振り下ろした。



ゴィイィィィンッ!!



何とも良い音が響く。
ちょうど傍らを通り抜けようとしてた人がぎょっとした表情を浮かべたが、無視した。



「なぁに情けねぇ面晒してんだ馬鹿親父」
「閃、時・・・っ、オメェなぁ・・・っ!!」



マジで痛いんですけどぉおぉおぉおぉっ!?と噛み付いて来る親父を煩いと一蹴して、片目だけでギロリと睨み付ける。
片目なので威力は半減しているだろうに、うっと言葉に詰まった親父がたじろぐ。
その姿に、もう一度大きく溜息を吐き出し、ついでに短く帰ると吐き捨てた。
は?え?と戸惑う親父を放って、片目にも関わらずサクサク先に進む。
眼帯に覆われているのは左目。実は左が利き目。
それでもサクサクと進む。いざと言う時の為に、ほんの少しだけ左手を上げて。



「閃時ー。おーい閃時くーん」



煩い馬鹿親父。音にはせずに胸の内だけで呟く。
きっとまた情けない面を晒してるだろうから、あえて振り返らない。



「せーんとーきくーん。左が利き目でしょ?遠近感取れなくない?
ほら、父ちゃんの袖掴んどけって」



ひらひらと、右の視界の端で親父の着物の袖が揺れる。
けど・・・やっぱり無視してサクサク足を進めた。
と、ぐいっと上着の裾を後ろから掴まれてたたらを踏んだ。



「閃時・・・ごめんな?父ちゃん、ちゃんと守ってやれなくて・・・。怪我、大丈夫か?」



ボソボソと、この距離だから辛うじて聞こえる声に眉間に皺を寄せて振り返る。
ついでに、上着の裾を掴んでいた親父の手を叩き落した。
ギロッと睨み上げれば、まるで叱られた大型犬のようにしゅんっと肩を落とす。
耳と尻尾があれば、確実に垂れ下がってるだろう。あえて想像はしないが。
怒鳴ってやろうと思い大きく開いた口は、結局言葉ではなく溜息を吐く為に少しの隙間を残して閉じた。
くるり。
背中を向けて親父の方を見ないまま、んっと隣を指差す。
それに気付いて慌てて隣に来た親父の着物の片袖を掴む。



「腹減ったから、さっさと帰んぞ」
「・・・そーね」



不機嫌そうに呟いた俺に、親父は半歩前を歩き出す。
暫くお互い無言のまま歩を進めるが、チラチラと此方を伺うように視線を寄越す親父に思い出すのは母さんの言葉。



『銀さんはね。懐に入れた人間の胸の内を読み取るのがもの凄く下手糞なんだ。
だから、ちゃんと言葉にして伝えてあげて。読み取れなくて、直ぐにオロオロしちゃうんだから』



クスクスと笑う姿まで思い出して、全く持ってその通りだと内心溜息を吐いた。
何で俺がこんなに怒ってるのか、親父は全然分かってない。
眼帯に覆われた左目・・・正確には、左目の瞼。
つい先程、俺は五針其処を縫われた。
理由は、親父と一緒に受けていた依頼の最中の大立ち回り。
其処に至るまでの経緯は何とも下らない事なので省くが、その大立ち回りの最中に相手の刀の切っ先が掠め負傷した。
幸い、瞼を切られただけで眼球には問題が無く、視力も低下する事はない。
縫った事によって多少の傷は残るかもしれないと言われたが、前髪で隠れる部分だし、別に男だからそんな気にする事も無いだろうと割り切った。
なのに、親父は自分が傍に居たのに怪我をさせてしまったと責任を感じてやがる。
そして、俺が怒っているのは其処だと言う事に気付かない。

一歩間違えば片目を失っていたかもしれない。

だけどそれは、相手のそして自分の力量を測り間違った俺が背負うべき失態の筈だ。
それなのに親父は、自分の責任だと勝手に奪って行こうとする。

ふざけんなバーカ。親父のバーカ。何時までも子供扱いしてんじゃねぇよバーカ。

普段、下の毛生えたら一人前とか言ってんだからその通りにしろってんだよ。



「親父」
「どした?傷が痛むか?」



何時にない労わるような口調に、あぁ!!もう!!と叫びたくなった。
でも、かわりに別の言葉を紡ぐ。



「無茶してごめん」



これで理解しろコンチクショー。
口早に・・・まるで吐き捨てるように謝罪してそっぽを向く。
足は相変わらず動いてる。けど、親父からは何の反応も無い。
ちらり。右目を動かしてそっと伺えば。
わしわしと右手で頭を掻き、あぁ、うん・・・と何処か呆けたように出来損ないの言葉を零した。



「まぁ・・・無茶すんのは仕方ねぇか。何つっても、俺と新八の息子だし」



へらりと笑う姿に、何とか伝わった事を理解する。
それににっと笑って、掴んでいた袖を少し強く引いた。



「どったの?」
「ちょっと遠回りして帰ろうぜ。俺、二週間は片目生活だからこの視界に慣れなきゃなんねぇし」
「あーそれもそうだな・・・。土手の方回って帰ぇるか」



俺の提案に頷いて、右に行き掛けていた爪先を親父は左に向ける。



「あ、そーだ。帰ったら治療費くれな」
「ちゃっかりしてんなぁーったくよー」
「当然の請求だろがっ!!あーあー暫く相掛かり稽古は出来ねぇなー。素振りの回数増やそうっと」
「あんま動き回って傷開いても知らねぇぞー」
「んなドジ踏まねぇよ」



下らない会話は家に着くまで続いた。
そして・・・。



「荷運びの依頼で何怪我して帰って来てんだゴラァアァァァァッ!!」
「「すみまっせんんんんんんっ!!」」




実は多少なりとも怪我をしていた親父と俺は、二人一緒に母さんに叱られた・・・。










END





親だから背負おうとする父親。
親だから背負って欲しくない息子。
そして、坂田さん一家の最(強・恐)は母親です(当然の摂理)
2009.10.12




















070.安心





久しぶりの休日、土方は隊服から私服の着流しに着替えてぶらりと町を歩いていた。
屯所でゆっくりしていようかとも思ったが、屯所に居てはゆっくりは出来ないと判断しての事だ。
とにかく、特に目的地を決めずブラブラとしていた。
ふと、土手を歩いていると、土手の斜面で鈍く光る物を見つけ一瞬顔を顰めた土方だったが、目を凝らしてみればそれは杞憂である事が分かり心持ち歩幅を広げ足を進める。



「何やってんだ?」



気温が上がるのに合わせて伸びた雑草を踏み締めながら斜面を下っていた土方は、何時もはしゃんと伸びている筈の背中を丸めて座り込む後姿に声を掛けた。



「っ!?」



声を掛けた途端、丸まっていた背がビシッと伸び、左右色違いの瞳を丸くさせながら閃時が振り返る。
パチパチと二度目を瞬かせ、声の主が土方だと分かると、ほっと息を吐いて反射的に強張っていた身体の力を抜いた。



「こんちは」
「おう」



肩越しに振り返ったままの状態で軽い会釈と挨拶を受け、土方も何時もの調子で応えを返すと徐に閃時の隣に腰を下ろす。
そして、袂から煙草を取り出して火を点けると、先ずは一服と深く煙を吸い込んでゆっくりと吐き出した。



「オメェがこの時間に走り回ってねぇ何て珍しいじゃねぇか」
「俺、そんなに走り回ってるかなぁ・・・」
「泳いでないと死ぬ鮫並みに走り回ってるだろうが」



しれっとした土方の例えに閃時はえぇ〜?と胡乱気な声を上げるが、普段の自分を思い出したのか、そう間を置かずに苦笑いを浮かべる。
今日は依頼は無いのか?と言う土方の問いに、入ってはいたが、午前中で事の済む簡単の物だけだったと閃時は正直に答えを返した。



「で?家にも帰らずに何でこんな所で黄昏てんだオメェ」
「あーいや・・・家には帰ったんだけど、一回。もーなんつうかねぇ・・・。
帰ったら親父がソファで何時も通りアホ面晒して寝てて、こう・・・。
寝首掻きたい衝動に駆られてまた外に出て来た所」



こうね?キュッと首絞めたくなった。
・・・と言って、閃時は両手で何かを掴む仕草をした後、キュッと両手で出来た輪を縮める。



「迷わず殺ればよかったじゃねぇか」
「流石に、この年で犯罪者になるのは戸惑われたんで」




ものっそ真面目な顔でそう言う土方に、こちらもものっそ真面目な顔で返す。



「戸惑うな。思い切って殺っちまえ」
「いや、犯罪者になるのは俺だから」



それが嫌だから家出て来たっつうの!!と叫ぶ閃時に、土方は短くなった煙草を携帯灰皿に押し付け、また新たに煙草を一本取り出して火を点けた。



「安心しろ。殺っちまっても俺がきっちり揉み消してやる」



ふーっと煙を吐き出しつつ、物騒な言葉も吐き出されて、閃時は目を瞬かせる。



「国家権力、舐めんなよ?」



心なしか丸くなっている左右色違いの瞳を覗き込んで、土方はにやりと笑みを浮かべた。
その笑みに、閃時の瞳がさらに大きく丸くなり口唇が微かに震えたかと思うと・・・。



「土方の兄貴ぃいぃいぃいぃぃっ!!」



がしりと閃時は空いていた土方の手を両手でしっかりと握り締めて、感動の叫びを上げた。










END





坂田に死亡フラグが立ちました(笑)
最後の土方さんの台詞は、我が師匠・太門さんから頂きましたぁああぁぁっ!!(待て)
ホント、大好きです!!!師匠!!!(やめんかっ!!)
2009.05.12




















073.お嫁さん





娘が生まれると、男親はある一つの夢を抱くと言う・・・。





月に一回の割合で、坂田家と近藤家は皆揃って夕食を共にすると言うのが何時からか自然と決まっていた。
何だかんだかで、お互い昼間も頻繁に顔を合わす機会が多いので、これと言って報告し合う事もないのだが、賑やかな夕食は楽しいのでこれはこれで構わないらしい。
そんな訳で、何時も以上に賑やかな夕食を済ませ、銀時と近藤はチビチビと酒を舐めていた。
食事中は酒を飲む事を禁止されている為だ。
料理で腹を満たさせ、酒の入る余地を減らすと言う奥様方の策略である。
それは功を奏して、ぐいぐいと流し込む事は出来ないのだが、二人は半分意地のように酒を流し込んでいた。



「そう言やぁゴリさんよ」
「ん?」
「咲嬢ちゃんに『アレ』言って貰った事あるか?」
「『アレ』?」



不意に零された銀時の言葉に、近藤は目を瞬かせる。
『アレ』って何だ?と首を傾げれば、分かんねぇのかよとでも言いたげな視線を向けられた。



「娘を持つ男親の夢だろうがよぉ」
「男親の夢?・・・あぁ!!『アレ』か!!」



銀時の言葉に合点がいったのか、近藤は思わず人差し指を立てる。
銀時もそれだと同じく人差し指を立てた。



「そう言えば・・・言って貰った事ないなぁ」
「え?ないの?」



腕を組みうーんと唸る近藤に、銀時はひょいっと片眉を上げる。
それに、ないなぁ・・・と呟いて近藤はがくりと項垂れた。



「そうか・・・ねぇのか」
「そう言うお前はあるのか?」



意気消沈したまま逆に問われ、銀時も腕を組んでうーんと唸った後、ないなぁ・・・と同じく項垂れる。
と・・・。



「うわっ!?何だこの空気っ!?」



食器を台所に運びに行っていた閃時の驚いた声が響いた。
居間に入ろうと襖を開けたのは良いが、思わず一歩引いてしまう程に、ずーんと重い空気が其処には満たされている。
はっきり言って、入るのを止めようかと真剣に考えてしまう程に。
煌々と電灯は灯っている筈なのに、心なしか居間の中は暗い気がする。



「はっ?え?何がどうなったら数分もしない内にこんな空気で満たされる訳?」



つい先程まで、賑やかで楽しかった夕食の時間の余韻で満たされていた筈だったのにと、閃時は目を瞬かせた。
このまま踏み込むべきか踏み込まざるべきかと、かなり本気で悩んでいた閃時だったが、戻って来た事に気づいた近藤と銀時にいいから入れと手招かれ、訝しげな表情を浮かべつつ仕方なく足を踏み入れる。
とりあえず、テーブルを挟んで二人と向かい合うように腰を下ろした。



「で?何この空気?自分達のマダオっぷりを懺悔でもしてんの?」
「「懺悔すらしないのがマダオです」」
「親指立てんな。腹立つわ」



揶揄うつもりの言葉に、項垂れたまま親指を立てるマダオ二人に、思いっきり冷たい視線を向けてみるが
効果はないらしい。
じゃあ何だよ?と、閃時は軽く眉を寄せた。



「「娘を持つ男親の夢が、未だに叶えられてない事に落ち込み中」」
「男親の夢?」



余計意味が分からんと、テーブルの天板に顎を突く二人に閃時は益々怪訝そうな表情を浮かべる。
ってか、もう付き合いたくないとばかりに腰を上げ掛けた所で、廊下と居間を仕切る襖がすっと廊下側から開けられた。
反射的に三人がそちらに視線を向ければ、仲良く手を繋いだ蓮華と咲の姿があった。
この二人は、閃時を手伝って食器を運んだ後、直ぐに歯磨きをしに洗面所に向かっていたのだ。



「ちゃんと歯、磨いたか?」
「「はい(なのです・ですの)!!」」



先程までの怪訝な表情を消して、ふっと柔らかく閃時が笑みを浮かべれば、二人もにっこりと笑う。



「じゃあ、本当にちゃんと磨けたかチェックするからな」



笑顔のまま来い来いと手招けば、はーいと楽しげな返事が返された。
閃時は駆け寄って来る二人に上半身を捻って向かい合うと、あーんしてみ?と促す。
素直にあーんと口を開く二人に、クスクスと笑い声を零して、んじゃ次はいーとさらに促した。
綺麗に並んだ小さく白い歯に、よしっと閃時は頷いた。



「よく出来ました」



よしよしと二人の頭を撫でてやれば、にこっと笑って二人は閃時の首に抱き付く。
上半身を捻った幾らか無理のある体勢だった為、そのまま二人を抱き上げて胡坐を掻いた膝の上に下ろしてやれば嬉しいのか楽しいのか、蓮華と咲はさらにぎゅうぎゅうと閃時に抱き付いた。
何時も以上に甘えてくる二人に不思議そうにしながらも、軽く背中を叩いてやる。
見上げて来る蓮華と咲に、ん?どうした?と閃時が笑顔のまま首を傾げると、二人は声を揃えてあのねと言葉を綴った。
何?と先を促せば・・・。



「「(蓮華・咲)は、大きくなったら(閃)兄様のお嫁さんになります(なのです・ですの)」」



と、可愛らしい笑顔と共にこれまた可愛らしい事を言う。



「〜〜っ!!あーもー可愛いなー!!チクショー!!」



一瞬、きょとんとした表情を浮かべた閃時だったが、直ぐにそれを笑顔に変えると、ぎゅうっと二人を抱き締め返して思わず叫んだ。
きゃあきゃあと歓声を上げる二人のつむじに閃時が口唇を押し当てれば、二人からはちゅっと音を立てて頬にキスを返される。
暫くの間、ぎゅうぎゅうと抱き合っていた三人だったが、お風呂の支度が出来たからと声を掛けに来た妙に連れられて二人は風呂に向かった。



「あーあー・・・何時まであんな可愛い事言ってくれんだろうなぁっ!?」



二人を見送っていた閃時は、すっかり存在を忘れていた銀時と近藤に視線を向けながら言葉を綴っていたが、語尾は不自然に跳ね上がる。
それもその筈。
突然、眼前に木刀と真剣の切っ先を突き出され、仰け反る事でそれを回避したのだから。
そのまま左肩を畳みに突き、それを基点に回転した閃時は一気に後ろに飛び退った。



「ちょっ!!行き成り何すんだ!?今の本気で刺す気だっただろっ!?」
「「ちっ!!」」
「挙句舌打ち!?」



何考えてんのぉおおぉおぉっ!?と叫ぶ閃時を他所に、銀時と近藤はダン!!と勇ましくテーブルの上に片足を振り下ろす。
思わず、閃時がさらに後退る殺気を漂わせながら。



「閃時ぃ」
「え?な、何・・・親父」
「オメェは、今・・・娘を持つ男親の夢を奪った」
「はぃ?」



まったく話しが見えないと困惑する閃時を他所に、二人はそれぞれの獲物を持ち直すと、ガバリと顔を上げた。
両目を涙で潤ませながら。



「「羨ましいんだよコノヤロォオォオォォオォッ!!」」
「母さんんんん!!伯母上ぇええぇぇぇっ!!」




雄叫びを上げながら襲い掛かって来る二人に、マジで殺されるぅうぅぅっ!!と叫んで、閃時は殺気立つ二人を止める事が唯一出来るであろう奥様二人の下へ助けを求めに逃げ出した・・・。










END





この後、何とか無事に台所に逃げ込めた長男は『息子・甥っ子に何しとんじゃぁああぁぁあぁっ!!』と叫ぶ奥様方によって一命を取り留めます(笑)
ってか、私は何が書きたかったんでしょうか・・・(訊くな)
途中で本気で訳が分からなくなりましたorz
何かもー・・・ノリで書き切りましたよ(馬鹿)
男友達に娘が生まれた時、「『大きくなったらパパのお嫁さんになる』って言って貰う!!」とほざいてた事を思い出したので出来たネタです(爆死)
2009.04.29




















080.田舎





その日は依頼はあったが午前中に済んでしまい昼飯を食った後、自室でダチ借りた推理小説を読んでいた。
母さんも稽古が休みと言う事で、稽古がある日には手の回らない場所の掃除や何やらで・・・まぁ、早い話が一日家に居たのだ。
推理小説を半分程読み終わった時点では、特に何かあった訳ではない。
事が起きたのは主人公がトリックを見破り、犯人を燻り出す為の作戦を実行しようとしたその時だった。
先ず最初に母さんの怒鳴り声が聞こえ、続いて親父が面倒臭そうに何事か返す声。
それに母さんが怒鳴り返し、さらに返す親父の声が少し大きくなった。
仰向けに寝転がって顔の上に掲げていた推理小説を閉じて、俺は腹筋をフルに活用して起き上がる。
反動を利用してさらに立ち上がると小説を畳みの上に置いて押入れの襖を開けて、中から頭陀袋を引っ張り出す。
その間も、階下からは何を言ってるのかは定かじゃないが、お互い怒鳴り合いに発展した二人の声が聞こえていた。



「えーっと・・・とりあえず三日分あればいっか。向こうにも着替え置いてるし」



それをBGMに押入れ箪笥から着替えを適当に掴み取って、頭陀袋に放り込む。
まだ半分程余裕があるので、蓮華の部屋に行って同じく着替えを放り込んだ。
ちなみに、蓮華は咲と遊ぶと言って昼飯の後から恒道館に行っている。
兎にも角にも、俺と蓮華の二人、三日分の着替えを突っ込んだ頭陀袋を肩に掛け、一度部屋に戻った。
少し考えて、畳の上に放置していた小説も一緒に中に入れて、ぎゅっと紐を引いて口を締める。
最後に刃引き刀を腰に差して部屋から出た。



「もーそろそろかねぇー」



階段を降り、最後の段に座り込んで呟く・・・と、同時に。



「オメェには関係ぇねぇだろうがっ!!」



そんな親父の言葉がはっきりと聞こえて来た。
はいビンゴーとやる気なくまた呟いて、やれやれと腰を上げる。
暫しの沈黙の後・・・。



「実家に帰らせて頂きます!!この天パァアァアァァァァッ!!」



本日最大声量の母さんの怒声に続いて、親父の悲鳴アーンド衝撃音。
ドスドスと重い足音が和室に消えた事を確かめて、ガラリと廊下と居間を仕切る戸を開けた。
目の前には引っ繰り返った社長机と、それに引っ掛かるようにして目を回してる親父の姿。



「親父ー生きてるかー」



一応声を掛けてはみるが・・・返事がない、ただの屍のようだ。
まぁ、それならそれでいいかと割り切って、転がっていた電話を床の上に置き直す。
通常応答の設定を無応答転送設定に切り替えた。
これで、万事屋の電話は俺の携帯に転送される事になる。



「依頼、一人で十分なヤツだけだと助かるんだけど・・・」



成るようにしか成らねぇかと溜息を一つ零した所で、バシンッと小気味良い音を立てて和室の襖が中から開けられた。
顔を上げれば無表情で風呂敷を抱える母さんが居たけど、何か言われる前に肩に掛けていた頭陀袋を掲げて見せれば、にっこりと菩薩の笑みを浮かべる。



「じゃ、行こうか。閃時」
「イエッサー」



にこにこと笑みを浮かべたまま母さんはそう言って、わざわざ親父の頭を踏み付けてから玄関に向かった。
何か鈍い音が聞こえた気がしたけど・・・。うん、気のせい気のせい。



「あのさー親父・・・。とりあえず、悪い事は言わねぇから学習能力を身に付けよーぜ」



完全に意識を飛ばしてる親父に届く訳が無いと分かっていても呟いてしまったのは、せめてもの慈悲と思って頂きたい。



「閃時ー帰るよー」
「うぃーっす」



玄関から母さんの急かす声が聞こえて、返事を返しながら立ち上がる。
はいはい、帰りましょうねーっと。
踵を返して一歩踏み出せば、転がっていたペンを蹴飛ばした。
拾い上げ暫し考えた後、一緒に転がっていたメモ帳に走り書きをする。
ぺたっとそれを親父の額に貼り付けて、よしっと一つ頷いた。

『自業自得』

の四文字に、親父が気付くのは何時になる事やらと肩を竦め、先に出て行ってしまった母さんを追い掛ける。
階段を駆け下りて、少し前を歩いてた母さんに並んだ。



「今日の晩御飯、何が良い?寒くなって来たから鍋が良いかなぁー」
「あーいいねぇー。キムチ鍋・・・は、駄目か。蓮華と咲が辛いの苦手だし。
寄せ鍋とか良いんじゃね?」
「そうしようか」



にこにこと笑う母さんの米神には、はっきりと分かる程の青筋が浮いていて、俺はあえてそれに気付かないフリをして話を合わせる。
そしてこの後一週間・・・。



「新八ぃいぃいいぃぃっ!!銀さんが悪かったですぅうぅぅっ!!」
「失せろ!!不法侵入者ぁあぁああぁぁぁっ!!」




などと言う遣り取りが、盛大な打撃音と悲鳴と共に恒道館で繰り返されるのは・・・当然と言えば当然の事。

え?夫婦喧嘩の理由?さー知らないね。
どうせ下らない事に決まってるし、夫婦喧嘩は犬も食わないって言うだろ?
理由は何であれ、親父が『禁句』を言った以上。悪いのは親父なんですよ。

我が家では、ね。










END





例え夫婦であっても、言っちゃいけない事があるんですよ。
長男はもう慣れたもんです。
なので、あえて理由を突っ込みません。
夫婦喧嘩で奥様が実家に帰る度、親父はロンリーです。これが仕様です(笑)
2009.10.18




















091.昼下がり





平和平和。





「ただいまぁ」



昼食の後、短時間で済む極々簡単な依頼を終えて戻った新八は玄関の戸を開けて目を瞬かせた。
たたきに並ぶ履物は、四足。
新八以外の坂田家の面々はどうやら在宅のようだ。
それにしては、妙に静かだなと首を傾げる。
先ず、一応大黒柱である銀時と、坂田家の長女&長男が同じ時間に家に居て静かである確立はかなり低い。
三階の自室にそれぞれが篭っているなら話は別だが、玄関脇にある階段の上から二人の気配は感じない。
うぅん?と小さく唸りながら草履を脱ぐと、新八は居間に向かった。
そっと廊下と居間を仕切る戸を開けてみたが、其処はもぬけの殻。
この時間なら居間で昼寝しているだろう、銀時の姿も定春の姿も無い。
あれ?っと首を傾げると、さらに奥にある和室に、慣れた気配達が集まっている事に新八は気付いた。
極力足音を消して、さらに気配も抑えながら和室に近付くとそぉっと慎重に襖を開く。
襖を開くと聞こえて来たのは、うーんうーんっと何処か苦しげに呻く声に混ざって穏やかな寝息。
和室のど真ん中で大の字で寝転がる銀時が、右胸を閃時、左胸を神楽に枕にされていた。
銀時の右胸を枕にして眠る閃時の隣では、投げ出された閃時の左腕を枕に眠る蓮華の姿。
定春は、ついでとばかりに銀時の左太腿を枕にして眠っていた。



「何でこんな団子になって昼寝してるの・・・」



呆れたように呟いた後、呻く銀時にぷぷっと新八は噴出す。
眠る人間の頭は、思っている以上に重い。
それが両胸に乗っているのだ。呻いても仕方ないだろう。
それにと、新八は思う。
これは、起きた時にあちこちが痺れてのたうつ事になるなぁと。



「そう言えば・・・前にも似たような事あったっけ?」



団子状態で眠る家族を見下ろしながら、ふむっと新八は記憶を探る。
確か、あれはまだ閃時が三つか四つ位の時の事だ。
今のように、大の字で転がっていた銀時の胸を枕に神楽が眠り、閃時は腹の辺りを枕にして眠っていた。
その時も、うーんうーんと銀時が呻き、起きた時に胸と腹が痺れてのたうっていた筈だ。
暫しの間思考を巡らせた新八は、開けた時同様そぉっと襖を閉めると、足音を忍ばせて団子状態な家族へ近寄った。
神楽と定春の間でゆっくりと膝を突いてそろそろと身体を倒すと、銀時の腹を枕にして身体の力を抜く。
うぅっと銀時が呻いたが、どうやら覚醒には至らない。



(ちょっとだけ・・・ね)



そう胸の内で呟いて、新八は両の瞼を下ろした。





それは、何とも平和な昼下がりの光景。










END





結局、皆が目覚めたのは一時間後。
親父は全身が痺れてのたうち、長男は左腕が微妙に痺れただけで済みました。
ある意味拷問(笑)
2008.09.05