040.なでなで
「土方さん、沖田さん」
不意に、後ろから聞き慣れた声に呼び掛けられて、土方と沖田は足を止めると振り返った。
振り返った二人の目に、にこりと笑う閃時の姿が映る。
「閃時君じゃないですかィ」
「巡回中?」
「まぁな」
「何時もご苦労様です」
軽い会釈と共に労いの言葉を贈られ、ホント、中身は男だけど母親な新八に似てよかったなと二人が同時に思ったとか思わなかったとか・・・まぁ、それは置いておこう。
土方と沖田は、半身だけを向けていた姿勢から、さらに身体を半回転させて閃時に向き直した。
「そっちも仕事中ですねィ」
「当たり。でも、良く分かったね」
沖田の言葉にきょとりと目を瞬かせる閃時に木刀だからなと、煙を吐き出しながら土方が呟く。
その言葉に一瞬だけ閃時は瞠目したが、気付かれてましたかと直ぐに苦笑いを浮かべた。
何時も持ち歩いている刀袋に納めた刃引き刀を、閃時は依頼の時は自室に置いて出る。
代わりに、木刀を腰に差すのだ。
刃引き刀は、未だに稽古時の型の確認以外では抜いた事が無い。
だから、仕事中だとあっさりと沖田は見破ったのだ。
「あれは、腰に差さねぇのか?」
「一応廃刀令の出てるご時世に、警察が帯刀を促していいのかよ?」
悪戯っぽく笑う閃時に、あんなのはあってねぇようなもんだろうがと、土方と沖田は肩を竦める。
それもそうかとあっさりと納得すると、閃時は腰に差した木刀をぽんっと軽く叩いた。
「・・・あれを腰に差すにはまだ足りねぇから、今はこれで」
「身長がですかィ?」
「半年待ってやがれコノヤロー。絶対ぇ抜いてやっから」
成長期舐めんなコンチクショーと、笑顔で告げる閃時に生意気でさァと呟くと、沖田は若干高い身長を生かしてぐいぐいと閃時の頭を押さえ付ける。
じゃれ出した二人を横目に、土方は溜息のように煙草の煙を吐き出した。
「足りねぇってのは?」
「・・・まぁ、色々」
「色々か」
「うん、色々」
何気ない土方の問いに、沖田の手から逃げた閃時はニヒッと笑いながら応える。
土方はそれ以上は追及せず、そうかと頷くだけに留めた。
そして徐に片手を上げると些か乱暴な手付きで、閃時の頭を撫で繰り回す。
まさか土方がそう言う行動に出るとは思ってなかったのか、きょとりと目を丸くした。
「まぁ、頑張れよ」
「頑張りなせィ」
そう言って沖田にも頭を撫でられ、暫し呆気に取られたような表情を浮かべたが、照れ臭そうな表情に変えて大きく頷いた。
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連載始める前に、100のお題で色々伏線張ろうと目論んでおります'`ィ(゚∀゚*∩
ってか、これ書いたのはいいけど、どのお題に当て嵌めようかと真面目に悩みました・・・。
2008.12.16
何か、敬語な長男に違和感感じて、ちみっと口調を直しました。
攘夷組のオッサン共にはタメ口なのにね!!みたないな感じだったので(笑)
2009.02.08
082.ひっそり
土方さんと沖田さんが巡回に戻るのを見送って、ちょっと乱暴に撫でられた自分の頭に手を置く。
何つうかなぁ・・・もしかしなくても、バレてんのかなぁ・・・。
小さく溜息を吐きながら歩き出し、何となく木刀の柄に触れた。
これ、何本目の木刀だったっけ?と思い出そうとしたが、やっぱり止める。
考えるだけ無駄だ。
小さい依頼が大事になった回数に近い分だけ、木刀を折ってるのは確かだから。
折っちまう原因は分かってる。馬鹿正直に、真正面から受け止めるせいだ。
母さんは受け止めるんじゃなくて受け流して逆に相手に返すから、木刀に掛かる負担が軽い。
だからそう簡単には折れない。
この際、親父の木刀が中々折れない理由には触れないで置く。
親父に貰った刃引き刀なら、真正面から攻撃を受け止めたとしても、折れずに居てくれるだろう。
でも・・・まだ腰に差す覚悟が出来ない。
俺自身が、まだ俺の剣を見つけられていないから。こんな状態で腰に差せば、刃引き刀の強度に頼った戦い方しか出来ない。
それじゃ駄目だ。
そんな戦い方しか出来ないままじゃ、誰かや何かを守る所か、自分自身すら守り切れるかどうか怪しい。
色んな覚悟と共に受け取った一生の相棒だから、中途半端な状態で腰に差す事はしたくない。俺が、俺の剣を見つけられるその日まで…。
まだ少し待っていて欲しいと、そっと胸の奥で呟いた。
END
誰にも告げずに、ひっそりと静かに研ぎ澄ます長男の決意。
でも、きっと周りの大人達にはバレバレ(笑)
2008.12.16
思う所あって微妙に改正しました。気付かれないとは思いますが(笑)
2009.03.20