この子何処の子?ウチの子仔猫!!










暦ではすでに春ではあるが、冬の最後の悪足掻きのようにぐっと冷え込んだ夜。
新八・神楽・閃時・銀時、四人の足元に定春。
川の字でもなく歪な山の字でもなく、二人で寝るならまぁそれなりに広いが、さすがにこれだけの人数になれば狭い。
それでも、四人+一匹で団子になって眠れば寒さなんぞ何処吹く風なもので、皆、朝までぐっすりだ。
ぬくぬくぽかぽか。
家の外は冷たい風が音を立てていたが、万事屋銀ちゃんの一室はそんな穏やかな光景があった。
そう・・・夜が明けるまでは…。










万事屋で一番の早起きは、勿論新八だ。
まだ季節的に薄暗い中そっと起き出すと、眠っている家族を起こさないように枕元の眼鏡を掛けて、予め用意してた着替えを持つと暖かい布団に名残惜しさを感じつつも抜け出す。
洗顔のついでに洗面所で着替えを済ませると寝巻きの単を洗濯籠に入れて、皆が起き出す前に朝食の準備に取り掛かる。
粗方の準備が済む頃に、神楽と定春が起き出して来るのだ。



「新八ィ〜おはようネ〜」
「おはよう神楽ちゃん。朝ご飯もう直ぐ出来るから、顔洗ったら二人を起こして来てくれる?」
「まかせるヨロシ」



半分閉じている目を擦りつつ台所に顔を出した神楽に新八がそう言えば、頷きつつそんな応えが返される。
洗面所から神楽の顔を洗う水音を聞きながら、新八は朝食の準備を進めた。
と、その時…。



「新八ぃいいぃいぃいぃいぃいぃぃっ!!!」
「ふぇっ!?」



銀時の雄叫びと同時に寝室の方からすぱーん!!と勢いよく襖を開ける音が響き、新八は思わず妙な悲鳴を上げた。
洗面所に居た神楽も驚いたのか、タオル片手に駆け出して来る。
二人で何事かと目を瞬かせていれば、バタバタと銀時の足音が近付いて来た。



「カメラァアァァァァァアァッ!!カメラ何処ぉおぉおぉおぉぉっ!?」
「「はっ??」」



ダンッ!!と勇ましい足音と一緒に台所に踏み込んで来た銀時にそう叫ばれて、新八と神楽は胡乱気な表情で首を傾げる。
傾げて…ぱかりと二人揃って顎を落とした後…。



「「カメラァアァァァァァアァッ!!カメラ何処ぉおぉぉぉおぉぉぉっ!?」」



二人揃って銀時とまったく同じ台詞を叫んだ。
三人がぎゃいぎゃいと騒ぐ中、実は銀時に抱えられていた閃時がコシコシと小さな手で閉じそうになる目を擦りながら、こてりと首を傾げる。
頭にひょこりと生えた白い三角耳と、寝巻きの単の裾からすらりと伸びる白く長い尻尾を揺らしながら・・・。










「しっかし…こりゃどう言う事だ?」
「あれですかね…新種の宇宙病?」
「きっと、変な薬の効果ヨ」



会話だけ聞いてみれば、かなり真面目に話し合っているように思えるが、その前にカメラを引っ張り出して、予備に置いていたフィルムを丸々二つ使い切った後である。
何にって?

猫耳尻尾が突然生えた閃時の撮影の為ですよ。

何度も遠慮なく浴びせ掛けられたフラッシュのせいか、銀時の膝の上で少しだけ閃時は目を回している。
少しへたっている猫耳を、これ幸いとばかりに銀時は突付いたり軽く摘んだりと好き放題だ。



「銀ちゃん、次は私ヨ!!早く閃時寄越すヨロシッ!!」
「ちょっ!!待て待てっ!!もうちょっとっ!!」
「さっきからそればっかりネ!!閃時ィ〜お姉ちゃんの所に来るヨロシ〜」



にっこにこの全開の笑顔で呼ばれ、きょとりと目を瞬かせながらも閃時は銀時の膝から降りると、さぁ来い!!と言わんばかりに両腕を広げる神楽の元へトテトテと駆け寄った。
早速、小さな弟を膝の上に抱き上げた神楽は、満面の笑みで小さな頭を撫でピンっと立った白い耳に触れる。
くすぐったかったのか、閃時は首を竦めてパタパタと耳を動かした。
どうやら、しっかりばっちり神経が通っている上に自分の意思で動かせるようだ。
耳の付け根をくすぐられ閃時はイヤイヤと首を振ると、神楽の腕の中から逃げ出して新八の元へと逃げ込む。
至極残念そうにする神楽に苦笑いつつも、新八は閃時を抱き上げると背中を撫でてやった。



「閃時、気持ち悪いとかそう言うのはない?」



新八に問われ、大丈夫だと言うように閃時はコクリと頷く。
じゃあ、何処か痛い所はない?と続けて問うてみても首を縦に振るだけである。
耳と尻尾が生えた意外は特に影響はないようだ。

いや、耳と尻尾が生えた時点でかなり影響は出ているのだが。

徐に銀時がテレビの電源を入れて朝のニュース番組にチャンネルを合わせるが、特に代わり映えの無いコーナーやニュースが流れるだけで、新種の宇宙病が流行っている等と言うニュースはまったくない。
新八の言った新種の宇宙病説は、この時点ではどうも当て嵌まりそうになかった。
それなら、神楽の変な薬説か…と、銀時は新八の膝の上で自分に生えた耳や尻尾を不思議そうに触る閃時に視線を向ける。

別にこのまんまでも良くね?

等と思ったその時。
くーっと小さな音が響いた。



「新八ィ…お腹空いたネ」
「そう言えば、朝ご飯まだだったね」



音の発信源はブラックホールな胃袋持つ神楽からで、朝からのドタバタですっかり朝食の事を忘れていた新八が苦笑う。
するともう一度、くーと小さな腹の虫が鳴く。
今度は神楽でなく膝の上の閃時からで、新八はクスクスと小さく笑い声を零した。
そんな新八を見上げて、閃時は口を開く。
おなかすいた…とでも発せられる筈の言葉は。



「みゃぅ」



と、言う仔猫の鳴き声だった。



「「「ビデオカメラァアァァァァァッ!!!」」」



綺麗に揃った三人の叫びに、階下のお登勢から煩ぇええぇえぇぇっ!!と叫び返されるのは、一呼吸後の事…。










とりあえず、原因究明は朝食の後にしようと結論を出し、新八は途中だった食事の支度に戻った。
その間に洗顔等がまだ終わっていない銀時と閃時は洗面所に向かう。
踏み台を出すのが面倒で、銀時は洗面台まで背の届かない閃時の腹にぐるりと片腕を回して抱き上げると、顔を洗うように促した。
その前に、鏡に映った自分を不思議そうに眺め、ピコピコと耳を動かす姿をしっかり堪能して。



「ほら、顔洗え〜」
「みぃ」



本当ならうんと言ってるのだろうが、やはり言葉でなく仔猫の鳴き声が零された。
蛇口を捻って水を出してやれば、何時もなら直ぐに流れる水に手を伸ばすのだが、今日は様子が違う。
水に触れる前に手を引っ込めると、イヤイヤと頭を振って顔を洗うのを拒否したのだ。



「どったの?閃時」
「みぅっ!!」
「ちょっ!?こら、落ちっぞっ!!」



パタパタと四肢をバタつかせる閃時に慌てて、ザーザーと音を立てて流れる水を一度止めると、片腕に座らせるように抱き直す。



「どしたの?顔洗わなきゃ駄目でしょうが」
「みぃっ!!」
「いや、ごめん。何言ってるのか父ちゃん分かんないわ」



何やら抗議してるのは分かるが、一体それが何に対してなのか分からず、困ったように銀時は頭を掻いた。



「銀さん?閃時?朝ご飯用意出来ましたよ?」
「あー新八ぃ、ちょっと困った事が起きたよ」
「は?」
「いやね?何か、閃時が顔洗うのものっそ嫌がんだよ」
「え?」



銀時の言葉にパチリと目を瞬かせた新八は、その目を閃時に向ける。
白い耳をペタリと後ろに伏せる姿を無言で懐から取り出したカメラでパチリと一枚撮影した後、どうしたの?と問い掛けた。



「みぅ…」



フラッシュが焚かれなかったからか閃時は目を回す事無く、問いに答えるように一声鳴いてから視線を蛇口に向けて、再び新八に視線を戻すとイヤイヤと頭を振る。
その仕草にふむっと何か考えるように目を伏せた新八は、あっと声を上げポンと手を打ち鳴らした。



「もしかして、水に濡れるのが嫌なの?」



そう!!と言いたげにコクコク頷く閃時に、銀時はあーなるほどと零す。
猫は水に濡れるのを嫌う。
どうやら、耳や尻尾だけでなく、感覚まで猫のようになっているらしい。



「かと言って、顔を洗わない訳にはいかないし…」



嫌がる理由は分かったが、困ったなぁと言う表情を暫し浮かべた新八だったが、またあっと声を上げて洗面台の隣に造り付けられた戸棚から新しいタオルを一枚取り出した。
それを水でしっかり濡らして水が滴らない程度に絞ると、閃時に顔を向けるように促す。
一瞬嫌がるような様子を見せたが、銀時に抱えられて居る為逃げる事も出来ずに、渋々新八へ顔を向けた。



「ちょっと我慢してね」
「みぅ…」



やはりペタンと耳を伏せたまま濡れタオルで顔を拭かれ、反射的に逃げようとしているのか、小さな頭は後ろに下がる。
それを押さえるように銀時は閃時の後頭部に顎を当て、それ以上の後退を止めた。
うむむっとタオル越しにくぐもった抗議の声が上がる。



「ん…よしっ!!綺麗になったっ!!」



目脂の付いた目頭も綺麗に拭い、ちゃんと水で洗い流した時と同じように綺麗になった事を確認して、新八は満足そうににっこりと笑った。
が、閃時はじっとりと濡れた感覚にうみゅぅと不満そうな鳴き声を零すと、銀時の寝巻きの肩口に顔を擦り付ける。



「って、こらこら」



タオルで拭きなさいタオルでと銀時が言えば、悪戯が成功した事を喜ぶように閃時は尻尾の先を揺らした。



「新八ィ〜まだアルか〜?お腹空いたネ〜」
「あ、はいはい。おいで閃時。銀さんも早めに来て下さいね?」
「はいよ」



中々戻って来ない三人に痺れを切らせたのか、洗面所に顔を出した神楽に新八は閃時を銀時の腕から受け取り、居間の方へ戻って行く。
それを見送って、両手が自由になった銀時はばしゃばしゃと水を散らしながら顔を洗った。
髭を剃るのは後回しにして、先ずは朝食と銀時も居間へ足を向ける。
其処には後は銀時が座れば良いだけとなった食卓。
早く早くと神楽に急かされ、へいへいと適当に返事を返して腰を下ろした。



「「「いただきます」」」
「みぅみぃ」
「わふ」



全員揃った所で手を合わせ食前の挨拶をすれば、今日は二つの鳴き声が響く。
本日の朝食は、鰆の切り身と豆腐と人参の味噌汁に白米、食卓の真ん中にキャベツの浅漬けと沢庵を乗せた皿が置かれていた。
普段は特別魚が好きと言う訳でない閃時だったが、今日に限っては鰆の切り身に瞳を輝かせて、新八が食べ易い大きさに切り分け終わるのを待っている。
早くと言いだけに耳がピコピコと忙しなく動き、尻尾が嬉しげにくねっていた。



「はい、どうぞ」



コトリと目の前に置かれた皿の上の鰆を、何処か動きは覚束ないがしっかりと握った箸で一切れ挟む。
落とさないように慎重に持ち上げてパクリと口に入れると、もぐもぐと咀嚼しながら、にへっと笑った。



「閃時〜お魚美味いか〜?」



右手で箸を握って操りつつ、左手でハンディカメラを構えた銀時に問われ、閃時は大きく頷いてまた一切れ口に入れる。
行儀悪い事この上ないが、新八からは叱責所か、しっかり撮って後で見せて下さいねと視線で語られ、銀時も任せとけと力強く視線で語り返した。
神楽に至っては、ピコピコ動く耳や機嫌良さそうに揺れる尻尾に目が釘付けである。
朝食を食べ終わったら、間違いなく弄り倒す気満々なのだろう。
その傍らで、確実に銀時がハンディカメラを構えている筈である。
鰆を全て食べ終わると閃時は残念そうな表情を浮かべたが、まだ残っている味噌汁に手を伸ばした。
閃時用の小さな椀ではあるが、片手で持つのはまだ難しく両手でしっかりと掴む。
万が一の時にの為にそっと新八が手を添えてやれば、椀の縁に口唇を当て僅かに傾けた。
その時…。



「みっ!?」



と、鋭く高い声を上げて閃時は慌てて椀から口を離した。
えぇ!?と慌てる新八を他所に、椀をテーブルに戻すときゅうっと目を瞑って両手で口を覆う。
猫耳は、それに合わせるようにペタリと伏せられ、小刻みに震えた。



「え?何?どうしたの?辛かった?」



おろおろとする新八にフルフルと頭を振ると、眉尻を下げ潤んだ瞳で新八を見上げて少しだけ舌先を見せる。
それからまた、両手で口を押さえた。
それで何か理解したのか、新八は慌てて台所に駆け込むと冷凍庫から小さな氷の欠片を選び出して急いで戻って来る。



「閃時、あーん」



指で摘んだ氷を見せながら促せば、素直にパカリと口が開けられ、新八はその中に氷を放り込んでやった。
ひんやりと冷たい氷を口の中で転がして、閃時はほっと表情を和らげる。



「「猫舌…」」



二人のやり取りを黙って眺めていた銀時と神楽は、同時に呟いてずずっと味噌汁を啜った。
二人にとって丁度良い熱さでも、閃時には大ダメージだったようだ。
猫舌、侮るなかれ…。










さてさて。ちょっとした事件があった物の無事に朝食を済ませ、やっと原因究明に乗り出した三人だったが・・・原因は至極あっさりと解明された。

お登勢によって。

少し前、ちょいと邪魔するよと言って中に入って来たお登勢は、猫耳と尻尾を生やした閃時を見て、やっぱりかいと苦笑った。
やっぱりとはどう言う事かと新八が問えば、簡潔に『常連客から貰った菓子が原因さね』と、さらに苦笑いを深めてお登勢が詳しく話し始める。



「常連客の一人が少し前に宇宙に遊びに行ってたらしくてねぇ。
そこで動物の耳や尻尾が一時的に生えるってお菓子を見つけて、話の種にって買ったらしいんだよ。
昨日、店開けてる時にこの子が回覧板持って来てくれただろう?
それで、お手伝いのご褒美にって菓子を一つやったらしいんだよ。ちょいと酒も入ってたからねぇ・・・。
間違えちまったらしいんだ」



さっき、大慌てで店に電話して来たんだよと、苦笑いを崩さぬお登勢に新八も苦笑いを零した。
聞けば、効果は大の大人で一日。幼児でも二日もあれば切れるとの事。



「こんな事になっちまってすまなかったねぇ。私に免じて許してやっておくれ」
「いえ、そんな。事故みたいなものですから、お登勢さんも気にしないで下さい」



悪気はなかっただろうし、悪影響がある訳でもないと分かれば必要以上に攻め立てる事もないだろう。
何より、もう可愛いから別に良いんじゃね?な感じである。



「閃時、ちょいとこっちにおいで」
「みっ?」



お登勢と新八が話してる間、銀時と神楽の二人に構い倒されていた閃時だったが、お登勢に呼ばれてすっくと立ち上がって駆け寄って行く。
ソファに座るお登勢の傍らに立つと、閃時はコテリと首を傾げた。
ぴんっと立つ三角耳とゆらゆらと揺れる尻尾に、キャサリンとは大違いだねぇとぼやいて、お登勢は目許を和ませる。



「明後日には戻るから、少しの間辛抱しておくれね?」
「みぅ」



よしよしと頭を撫でられ、理解しているのかしていないかは分からないが、閃時はコクンっと頷いた。



「えー明後日には戻っちゃうアルかー」
「もう、このままで良くね?」
「いやいや、それは困るでしょうが」



閃時を構い倒しながらも、一応話を聞いていた二人は明後日には戻ると言う事にぶーぶーと隠す事も無く不満を零す。
気持ちは分からないでもないが、やはりこのままでいれば何かしらの弊害が出ないとも限らない。



「とにかくそう言う事だから。騒がせて悪かったね」



最後にくしゃりと閃時の頭を撫でると、邪魔したねと一言残してお登勢は階下に戻って行った。



「まぁ・・・原因も分かって一安心ってとこか」
「そうですね。新種の宇宙病とかじゃなくてよかったです」



隣に座った銀時の言葉に、ほっと安堵の息を吐いて新八はにこりと笑う。
原因さえ分かってしまえば、今日と明日、可愛らしい姿を心置きなく堪能する事が出来ると。



「ふぉおおぉおぉおぉぉっ!!」
「「はっ??」」



不意に、向かいのソファに座って膝の上に閃時を抱き上げ再び構い倒していた神楽から、奇妙な声が上がり二人は目を瞬かせた。
視線を向ければ、蒼い瞳をキラキラさせる神楽ときょとんした表情を浮かべる閃時。
何だ?と二人が首を傾げれば。



「銀ちゃんっ!!新八っ!!よく見てるネッ!!」



一度キラキラと輝く瞳を二人に向けたかと思うと直ぐに視線を閃時に戻し、神楽は徐に右手を閃時の顎下に当てた。
指先をそろそろと動かしてやれば、ぴんっと立っていた猫耳がくたんっと伏せられる。
耳を澄ませれば、微かにゴロゴロと言う音・・・。



「ちょっ!!えぇええぇぇぇっ!?喉も鳴んのかっ!?」
「ちょっ!!銀さんビデオっ!!ビデオ回してっ!!」
「オッケー!!我が命に代えてもっ!!つうか、神楽っ!!銀さんにも銀さんにもさせてっ!!」
「あっ!!ずるい銀さんっ!!僕も撫でたいのにっ!!」
「やーヨ!!」



わいぎゃいと騒ぐ三人を他所に、もっと撫でろと言いたげに閃時がみゃぅと一声鳴いた。




















後書き

某お二方(笑)に随分前に捧げたブツ。
捧げた当初は、コレの最後にちょっとおまけを付けて終了だったのですが。
自サイトUPに伴い、後編も作成します☆んで、おまけも多分くっつけると思われ・・・。
久々の小説UPがリサイクル品で申し訳・・・っ!!(殴)
とりあえず、そろそろ小説書きたい症候群になりそうな予感なので頑張ります!!(何ソレ)

2010.08.18