酔っ払いには制裁を










無音つうのも何だから、ギリギリまでボリュームを絞ったテレビを流しながらチビチビと杯を傾ける。
今夜は新八と蓮華が実家の方に泊まりに行ってるので、飲みに出ようと思ったが・・・。



「俺、明日早いから酔い潰れても迎えに行かねぇからな。その辺の道端で転がってろや親父



と、とてつもなく可愛くない台詞を吐く閃時のせいで、渋々飲みに出るのを諦めた。
アイツはやると言ったら必ずやる。
以前、それでも結局迎えに来てくれんだろうっと高を括って飲みに出たら・・・見事に道端に転がって朝を迎えたからな。
迎えに来てくれてもいいじゃねぇか!!って噛み付いたら、行かねぇつっただろうがぁ!!と言う台詞と一緒に踵落しをお見舞いされた。
年々、俺に対して容赦が無くなってるのは絶対気のせいじゃない。
あー・・・何か一人でチビチビ飲むのも空しいなぁ。そろそろ寝ようかなぁ・・・。
と、思ってたら玄関で人の気配がした。
まったく気配を隠すつもりがないと言うか、ワザとそうしてる感じがする。
人の気配は三つ。それも良く知った物だ。
まさか・・・と思いつつ腰を上げて玄関に向かえば、鍵の掛かった戸を開けようとしているのかガタガタと耳障りな音を立てている。



「どちらさんですかー」



多分俺の予想は間違ってないだろうけど、念の為声を掛けたら。



「さっさと開けんか銀時」
「トロトロしてんじゃねぇぞテメェ」
「あっはっはっはっはっはっ!!!」



やっぱりか・・・と思わず肩を竦めた俺に非はない。










「ったくよぉ・・・。来るなら来るで前もって連絡の一つ位寄越せよなぁ。こっちだって都合ってもんがあんだよ」
「一人侘しくチビチビ飲んでた貴様が何をほざくか」
「何じゃ金時、嫁さんはおらんがか?」
「銀時だつってんだろうがオメェはよぉ!!」
「ついに愛想尽かされたか」
「ちっげぇよ馬鹿杉!!今日は実家の方に泊まりに行ってんだよ!!」



とんでもない事をほざいた高杉をとりあえず殴って黙らせて、テーブルにこれでもか!!と広げられた酒類の中でビールを一本手に取る。
テーブルに広げられている品々は、コイツ等の一応手土産だ。



「では、閃時君も蓮華ちゃんも不在か?」
「いんや。新八と一緒に行ってるのは蓮華だけだ。閃時はもう寝てる」
「まだはよぅないがか?」
「明日の朝、何か用があるみてぇで早寝」



ガサガサとスルメやら何やらの袋を開けて、他愛も無い話を交わす。
何処と無く詰まらなそうにしている三人に、オメェらは親戚のオッサンかと突っ込み掛けた。



「折角しょうえい物持ってきたがやきぃ残念じゃあ」
「何だ面白れぇもんって」



年甲斐も無く口唇を尖らせる坂本に、高杉が反応する。
ヅラも俺も思わず坂本に視線を向けた。
大抵の場合、コイツの言う面白いもんが碌なもんだった為しはねぇってのに。
注目を集めた事に満足したのか、にんまりと笑った坂本は出し惜しみする様子も無く懐から小瓶を一つ取り出した。
コトリと小さな音を立ててテーブルに置かれたそれを、三人で覗き込む。
表面に張られたラベルに印字された文字を目で追って・・・俺達は三階の自室で眠る息子に奇襲を掛けた。










「あのな・・・親父におじさん達。別に此処で酒飲むのは構わねぇよ。あぁ、全然構わねぇよ。今夜は母さんも蓮華もいないしな。この時間ならまだ彼方此方で騒いでるから多少羽目を外すのも問題ねぇよ」



酷く静かな声で閃時が俯き加減に言葉を綴る。
が、その静かな声に怒気が混じってるのは隠しようもないし隠す気なんてさらさらないんだろう。
米神に二つ三つ青筋を浮かべる閃時は、タオルケットで簀巻き状態になっていた。
なっていたつうか、奇襲掛けた俺等がやったんだけど。
幾ら閃時が稽古で力付けてようが結構な怪力を持ってようが、こちとら攘夷戦争を生き抜いた猛者でしかも四人掛かり。
勝敗は火を見るよりも明らかだ。



「問題はねぇけど・・・俺を巻き込むんじゃねぇぇええぇぇぇえぇぇっ!!!



ってか、好い加減解けやボケ共がぁああぁぁあぁぁっ!!!と閃時が暴れる。
まぁ、普通暴れるわな。すこすこ眠ってたら行き成り奇襲掛けられた上に簀巻きにされちゃあよ。
ふーふーと怒れる猫の如く威嚇音を発する閃時を、ヅラと坂本がまぁまぁと宥める。
高杉はと言えば、人の悪い笑みを浮かべて面白そうに眺めてるだけだけど。
俺も俺でニヤニヤと笑って暴れる息子を眺めていた。
それに気付いた閃時にギロリと睨まれたけど、今更それ位で俺が怯む訳も無い。
俺がまったく動じない事にチッと柄悪く舌打ちしたかと思うと、何度か深呼吸をしてはぁーと諦めたように深々と息を吐き出した。



「あーもー・・・分かった。付き合うよ、付き合いますよコノヤロー」



がっくりと項垂れて白旗を振る閃時に、大人四人はニタリと笑う。
坂本がタオルケットの上から巻かれていた帯を解くと、自由になった閃時が顔を顰めながら肩を回したり腕を擦ったりした。
どうやら、ほろ酔い気分も手伝って力加減を間違っていたらしい。



「おー閃時、大丈夫・・・」
「な訳あるかクソ親父」



一応悪いなと思って声を掛けたら、言い切る前にまだ中身の入ってるビール缶が飛んで来て顔面にクリーンヒット。
ブッ!!と鼻血を噴いた俺を、他の三人が指差して馬鹿笑いした。マジ痛ぇ!!!










その後は、まぁ平和に酒を酌み交わす光景が続いた。
一応未成年の閃時は飲み過ぎないように注意を払ってたけど、自分で上手くセーブを掛けているので途中からは放って置く。
話しの中心にいるのは閃時だ。
やれ、剣の稽古は真面目にやってるのかだとか。
やれ、寺子屋での勉強はどうだとか。
やれ、彼女は出来たのかだとか。
オメェ等マジで親戚のオッサンかよと言う質問を遠慮なく浴びせ掛けていた。
時には真面目に答え、時には上手くはぐらかしながら、閃時は律儀に相槌を打つ。
こう言う気の使い方は、本当に新八に似ていた。
暫くして、閃時がちょっと厠と言って席を立った。
聞き耳を立ててると、厠の戸が閉められた音が聞こえる。
さっと視線を巡らせれば、同じ事を考えていたのかバチンッと全員と目が合った。
にやぁっと悪巧みしてますとはっきり分かる笑みを浮かべると、こっそりと隠していた例の小瓶を取り出して、閃時の飲んでいる酒のコップに小瓶の中身を注ぐ。
どうやら無色無臭らしく、嵩が幾らか増えたがそれ以上の変化は見当たらない。
高杉が水割りを作るのに使っていたマドラーで素早く掻き混ぜた所で、厠の方からザァーと水を流す音と戸を開け閉めする音がした。
俺達は頭を突き合わせるようにしてコップを覗き込んでいた身体を慌てて起こして、それぞれそ知らぬ表情を浮かべると自分の分の酒を再び飲む。



「ってか、悪ぃけどそろそろ寝る。マジで明日早ぇんだ」



ふぁっと欠伸を一つ零した閃時は、元の場所には座らずにじゃあおやすみと言って居間から出て行こうとした。
慌てて引き止めると、胡乱気に見返される。



「まぁ待て。せめてこれだけ飲んでけって。勿体ねぇだろう?」



閃時の飲みさしのコップを突き付けると、小さく溜息を吐いてこれ飲んだらマジで寝るからなと言って素直に受け取った。
コップに口を付ける姿を、自然と全員で見守る。



「・・・何だよ」



視線が集中している事に不自然さを感じたのか、眉を寄せて一度コップから口唇を離す。



「いんや、何も?ほれ一気!!一気!!」
「「「一気!!一気!!」」」



此処で何か感付かれる訳にはいかんと一気コールで煽ると、意味分かんねぇと呟きながらもぐいっとコップ半分残っていた分を流し込む。
最後にゴクンっと大きく喉を鳴らして、ぷはっと息を付くとコップを押し付けられた。



「ほら、これで文句ねぇだろ親父。・・・ったく、今からじゃ四時間ちょっとしか寝れねぇじゃねぇか」



ぶつぶつと文句を吐きながら今度こそ出て行った閃時に、何ら変わった様子も無く拍子抜けする。



「坂本、何も起らんではないか」
「可笑しかぁ〜即効性の筈なんじゃがのぉ」
「パチもんか何かだったんじゃねぇのかァ」
「酒に混ぜたのが効力落としたってか?」



興醒めとばかりに口々に言いたい事を言い合っていると・・・。

ドダダダダダダッ!!!

と、階段を駆け下りるけたたましい音が響いた。
間を置かずにバンッ!!と音を立てて開いた戸に目を向けた瞬間。



「俺に何飲ましやがったボケカス親父がぁああぁぁぁぁあぁっ!!!」
「ぎゃぼぉおぉおおぉおぉおおぉっ!!!」



怒声と共に渾身の力の篭ったドロップキックが腹にめり込んだ。
のたうつ俺を他所に一瞬の静寂の後、三人の馬鹿笑いが響く。



「おー!!よぉ似合っちゅうがかー!!」
「あーやっぱその色になるか」
「ふむ、悪くはないではないか」



言いたい放題の四人に、飛び込んで来た閃時は俯いて黙って拳を握る。
ブルブル震える拳と肩に合わせて揺れるのは・・・白い猫耳とすらりと白く長い尻尾。
その姿に腹を蹴られた痛さも忘れて、俺もゲラゲラと笑う。
不意に、酔いの回り切った大人四人の馬鹿笑いの合間に、くくっと喉の奥で押し殺したような低い笑い声が混じった。
最初は余りにも小さ過ぎて気付かなかったが、それがくくっからふふっに代わり、最後にはふはははっ的な物に変わった頃に、漸く俺達は何かヤバクね?と思い出す。
ざっと音がしそうな感じで閃時が一歩踏み出したので、同じく大人四人がざっと一歩後退る。
さらに一歩踏み出されたので、また一歩下がった。
ジリジリと迫られて、気付けば部屋の角に追い詰められた大人四人組み。
それを追い詰めた息子は、相変わらず俯いたまま低い笑い声を零していた。
はっきり言おう。



滅茶苦茶恐ぇえぇぇえぇぇぇっ!!!!



「・・・あのぉ閃時君?」



意を決して恐る恐ると声を掛けると低い笑い声は止んだ上に、歩みが止まった。
俺と同じで髪質は全然違う銀髪の間からひょこんと生えた猫耳がピクリと動いて、音の発信源。
つまりは俺の方へと向く。
あーちゃんと動くモンなんだと妙な所で関心・・・してる場合じゃねぇよな。
これアレだよね?
猫に追い詰められた鼠的構図だよね?
ヤバクね?ってかマジヤバクね?



「まぁ、そう怒るな閃時君。中々似合っておるぞ、本当に」
「ヅラァアアァァァア!!オメェはマジで空気読めやぁああぁあぁぁっ!!!」
「いいじゃねぇか閃時ィ。可愛い獣の出来上がりって事でよぉ」
「あっはっはっはっ!!酒の席での戯事じゃきぃ許しとぉせ!!」
「オメェ等も空気読めぇえぇえぇぇぇえっ!!火に油ぁああぁぁあぁっ!!!」



こちとら必死で場を納めようとしてんのにコイツ等はぁ!!
内心ありえない位焦ってると、ふぅっと微かな溜息。
恐る恐る振り返ってみれば、やっと顔を上げた閃時が明後日の方を向いて頭を掻いていた。



「・・・そうだな。酒の席での戯事だな」



うんうんと頷く閃時の姿に、おぉ?と目を瞬かせる。
これは本当に酒の席の戯事と流してくれるのかと、淡い期待が湧き上がる。
が、何時の間に手にしていたのか、居間のど真ん中に鎮座していたテーブルが閃時の頭の上に掲げられ・・・。
って、おい。待て待て待て。それどうする気?



「これも酒の席の戯事って事にしとけや・・・マダオ共がぁああぁぁぁあっ!!!!!



腹の底からの怒声と共に、容赦なく振り下ろされた。
歌舞伎町の片隅で、四つの悲鳴と盛大な破壊音が響いたのは言うまでも無い。
意識が完全に落ちる前に見えたのは、ボトルブラシの如く毛が膨らんだ真っ白な尻尾だった・・・。















おまけ。





あの後、例の薬の効果はそう長くは続かず、翌朝にはすっかり元に戻っていた閃時。
暫くの間、俺を含めあの場に居た者は徹底的に無視をされたが、新八譲りのにっこり笑顔で怒りを解いて貰ったのは・・・。
いい年こいたオッサン共の頭とケツに、それぞれ白やら黒やらの猫耳と尻尾が生えた後。
しかも、閃時が飲んだ物よりも改良がなされたそれは、一週間効力が続いた事を追記して置く・・・。















後書き

攘夷組フルボッコ計画・・・見事失敗☆(泣笑)
何か違う!!何か違うってこれぇえええぇぇええぇぇっ!!!Σ(T□T)
ちなみに、閃時は陸奥から薬をゲットしました(爆死)
2008.09.09