Let's Enjoy School Life!! 二日目
新八の家は、代々剣術の道場を営んでいた。過去形である。
時代の流れとは無常な物で、道場を営むにも門下生がいなくてはどうにもならない。
そこで、何代か前の当主が苦渋の決断で道場を閉めたのだ。
広大な敷地に母屋と住み込みの門下生の為の離れ。そして、道場があった。
これまた過去形である。
今では、改築された母屋と広い庭が残るだけで離れと道場はなくなり、その部分はアパートになっていた。
管理や家賃は志村家の収入となる。
新八の姉・妙が生まれる少し前に一度建て直された事で、古めかしい訳ではないが、そこまで新しいとは言えない微妙な雰囲気を醸し出していた。
単身者用にと貸し出されているので、大家としてもそう気を使う必要がないのが良い。
立地的にも駅まで徒歩十分、スーパー等にも徒歩十分程と言う事もあって、長期で部屋が空く事がなく、家賃収入も安定している。
母親は新八が物心付く前に、父親は中学に上がる前に亡くしてしまったまだ幼い姉弟には、何とも有り難い事なのだ。
両親が残してくれた遺産に手を付ける事も無く、日々の生活を普通に送る事が出来るのだから。
「今日は昼までアルか?」
「えーっと・・・。うん、入学式が終わったら簡単なレクリエーションをしてお仕舞いだね」
ぷらぷらと繋いだ手を揺らして問う神楽に、昨日確認していた日程表を思い出しながら新八が答えた。
家を出てからも手を繋いだままの二人だが、これが普通なのでお互い気にしない。
「お昼ご飯は何するアルか?」
「ん〜何にしようかなぁ〜。何かリクエストある?」
「ん〜焼きそばはどうネ?」
「あ、いいかも。じゃあ、帰りにスーパー寄って帰んなきゃ」
「俺もご相伴に預かりやすぜィ」
ついでに荷物持ちもしてやりまさァと、独特のしゃべり声と共に、どさっと背中に重みを感じて新八はたたらを踏んだ。
突然の事にうわっ!!と悲鳴を上げかけたが、それが誰か分かっていたので小さく溜息を吐くに止める。
「総悟君・・・行き成りは止めてよ。転んだらどうするんだよ・・・」
「そん時は足腰を鍛えてない新八が悪ぃって事で一つ」
「一つじゃねぇよっ!!そうならないように止めろって言ってんのっ!!ってか、重いからっ!!」
だれ〜っと背中に張り付く総悟にぎゃいぎゃいと文句を言ってはみるが、大した効果が無いのは新八自身が良く分かっていた。
はぁーっと大きく深い溜息を吐けば、キランッと神楽の蒼い瞳が煌き、するんっと新八の手の中に収めていた手が引き抜かれる。
そして・・・。
「好い加減にするヨロシッ!!サドォオオォオォッ!!」
「やんのかチャイナァァァァァッ!!」
雄叫びと共に総悟に飛び掛った。
総悟もまた、雄叫びを上げて迎え撃つ。
総悟から解放された新八はそ知らぬ顔で少し大きな歩幅で前に進んだ。
後ろでは二人が激しい喧嘩をする音が聞こえる。
胸の内でゆっくり十秒数えると、ぴたりと足を止めて振り返った。
そして、すっと息を吸い込む。
「そこまでっ!!五秒以内に止めないと二人ともお昼ご飯抜きっ!!はい、いーち・・・」
「「すんませんでしたぁあぁあぁぁっ!!眼鏡様ぁあぁぁぁぁっ!!」」
「眼鏡言うなぁあぁぁぁっ!!」
新八が数を数えると同時に二人は喧嘩を止め、腰から九十度に身体を曲げて恐ろしいまでの素直さで謝った。
余計な言葉を付けて。
それに新八がその声を遮る程の声量で突っ込むのも、毎度の事である。
「あーもーっ!!行くよ二人ともっ!!入学式から遅刻なんて笑い話にもならないよっ!!」
「「了解、眼鏡様っ!!」」
「眼鏡はもういいっ!!」
ビシッと敬礼する二人に、好い加減にしろよぉおぉおおぉっ!!と、また新八のツッコミが入るが、イヒッと楽しげに笑う二人には何の効果も無いだろう・・・。
途中、あんな事があった物の、十分時間に余裕を持って三人は今日から通う事になる江戸校の正門を潜り抜けた。
人の流れに沿って、先ずは掲示板の元へ行きクラスを確認。
江戸校は一学年9組で構成され、一組40人でスタートする。
新八が1組から3組、神楽が4組から6組、総悟が7組から9組を担当してずらっと並ぶ名前の群れからそれぞれの名前を探し始めた。
数分後、あっと声を上げたのは新八だった。
にっこりと笑顔で新八が指差す先には、男子の欄に沖田総悟と志村新八の名前。
女子の欄には夜兎神楽の名前。
幸いにも、三人揃って同じクラスとなった。
「新八すごいネっ!!これで十年連続一緒ヨー!!」
「本当だね」
歓声を上げて飛びついて来る神楽を受け止めて、新八はほっと胸を撫で下ろす。
よしよしと、髪を乱さないように神楽の頭を撫でていた新八は、後ろからポンッと軽く頭を叩かれてそちらに視線を向けた。
視線の先には、微かに笑みを浮かべる総悟の姿。
「また一年、よろしく頼みまさァ」
「こちらこそ」
「しょーがないからよろしくしてやるヨ」
「もーそう言う言い方しないのー」
また喧嘩になっちゃうでしょーと苦笑い、神楽を嗜める。
これから一年、間違いなく騒がしくなると思いながらも、これから始まる期待と不安の入り混じった高校生活も仲の良い二人が一緒なら心強いと新八は柔らかく笑みを浮かべた。
念の為もう一度クラス割り表に視線を向けて、同じクラスに他に見知った名前は無いかと探したが、見つける事は出来なかったので尚更だ。
「クラスの確認が出来た新入生はこちらに来て下さーい」
声のした方に視線を向ければ、在校生らしい生徒が数人立っている。
二の腕の中ほどに『案内係』と印字された腕章を付けていた。
江戸校は、毎年入学式のその日は在校生は休みになるのだが、会場設営や案内係を有志で募っている。
普通、せっかくの休みを自ら潰す事はしないだろうと思われがちだが、実はそうでもない。
中学の時の後輩が入学してくるだとか、弟妹が入学してくるだとかで、意外と人数は集まるのだ。
「三人共、こっちよ」
新入生を誘導する生徒の声の中、聞き慣れた声が聞こえ三人は揃って視線を向けた。
其処に居たのは、新八の実の姉・妙だ。
入学式の準備があるからと、二人よりも先に登校していた。
「姉さん」
「姉御ー!!」
「姐さん」
三者三様の呼び声を上げて、三人は妙に駆け寄って行く。
そんな三人に、妙は柔らかい笑みを浮かべて迎えた。
「改めて入学おめでとう」
「ありがとうございます」
「ありがとネ!!」
「ありがとうございまさァ」
笑顔で贈られる祝いの言葉に三人もにこりと笑い返し、素直に礼を述べる。
それからやっと、体育館に誘導された。
本当の高校生活が始まるのは、入学式が始まった時・・・。
後書き
うわぁ・・・ホント、何時振りの更新ですかねぇ・・・。
続きをお待ち下さっていた方には本当に申し訳ないっ!!(まったくだ)
ネタ帳みてたら、基本この連載はイベントで固められてました。体育祭とか球技大会とか文化祭とか。
後は昼休みだったり放課後だったり・・・。
多分、まともな授業のシーンとは少なそう(笑)
次はもっと早く続きを上げられるように頑張ります!!!(本当にな)
2009.04.19